第11話 ミーリャの家族、ロスラヴィへ
その後、俺とミーリャさんは夜が明けぬ内に馬車を出した。
サーシャには「帰ったら説明する」と伝えてある。
「ところで・・・ミーリャさんの故郷ってどこ?」
馬車の中。隣に座るミーリャさんはくすっと笑った。
「知らないで私の故郷まで行くつもりでしたのね。」
「行けば何とかなるさ。」
「遠いですよ。ポクロフカと言う街で、ここから南東に600km、馬車で急いでも1週間かかります。」
「確か、ミーリャさんには監視役がいたって聞いたけど。」
「ええ。私も話したことはありませんでしたが、気配でなんとなくわかりました。今はその気配を感じないので、おそらく私の事を早馬で報告しに行ったのでしょう。」
『俊敏性上昇!』
馬車に魔法をかける。
「これで、監視役よりも早く・・・3日あればポクロフカまで着けるはず。」
「ユーリ殿、昨日も何か唱えていましたね、何かの呪文ですか?」
俺はミーリャさんに俺の秘密と魔法について説明した。
「魔法・・・そのような力があるのですね。」
「そういうこと。だから、ミーリャさんの家族も大丈夫。」
「ありがとうございます。私の為にわざわざ。
ミーリャさんが笑顔で俺を見上げてくる。
「そして、ユーリ殿にそのような秘密がおありとは・・・」
「だろ?俺もびっくりだよ。ま、俺が何者だろうと、やることは変わらないさ。」
そうだ。俺はロスラヴィの地で力をため、王を目指すのだ。
ロスラヴィを出て3日目の早朝。俺達はポクロフカのミーリャさんの家に着いた。
ミーリャさんの弟妹達は突然現れた姉の姿にびっくりしていたようだが、事情を話すとすんなりとロスラヴィ行きに応じてくれた。
「ユーリ様、姉ちゃんを助けてくれてありがとう。」
「ユーリ様のおかげで、これからはお姉ちゃんの近くで暮らせます。」
ミーリャさんの弟と妹も、すごく喜んでいる。
「私からも、何度お礼を申し上げて良いか・・・」
ミーリャさんからも、改めて頭を下げられる。
「別にかしこまらなくても。俺は大した事をしたつもりはないよ。」
「それより、早くロスラヴィに帰ろう。なにしろ、俺もミーリャさんもミーリャさんの家族も、みんな仲良くお尋ね者だからね。」
「ふふっ・・・そうですね。」
ミーリャさんの弟妹と載せられるだけの荷物を載せ、その日の内にポクロフカを後にした。
変装していた俺はともかく、ミーリャさんについてはまだ情報が出回っていないようで、追手は全く心配する必要が無かった。
その夜。ロスラヴィへと急ぐ馬車のなかで、俺とミーリャさんだけがまだ起きていた。
「ユーリ殿のおかげで、私はまた家族の近くで暮らすことが出来るようになりました。まるで夢のようです。」
「むしろ、今までが悪夢だったんだ、これからが現実だよ。」
「ふふふっ。そうですね。」
ミーリャさんはほほ笑みながら語りかけてくる。
「ユーリ殿。」
「なに?」
「安心したら、気が抜けてしまいました。ちょっと休ませてもらいますね。」
「うん。おつかれ。」
ミーリャさんはそう言うと、俺にもたれかかって寝てしまった。
「貴方様に出会えて、本当に良かった。これからずっと、お慕い申し上げます。」
よく聞き取れなかったが、ミーリャさんが喜んでくれたみたいでよかった。
俺も疲れていたので、じきに夢の中へと落ちて行った。
ポクロフカ出発から3日後。ロスラヴィを出てから1週間で、俺達はロスラヴィに帰り着いた。
―ミーリャさんの監視役は、今頃もぬけの殻と化したポクロフカについて呆然としている頃だろうな。―
幼い子供たちは、村の他の子供たちとの交流があったほうがいいと思ったので、ミーリャさんの弟妹達には村の中の空き家を使ってもらい、屋敷住み込みのミーリャさんが時々会いに行くことになった。
「と言うわけで、ミーリャさんには、今後俺が遠出する時に、うちの留守を任せることになったから。これで遠出しても安心だよ。」
「そんなことになってたんですか!?わたし全然気が付かなかったです。」
「サーシャ嬢にも、ご迷惑をおかけしました。」
「わたしは、別に迷惑じゃないですよ。ユーリ様のおかげで、ミーリャさんが明るくなって良かったです。」
「あ。でも・・・」
サーシャは後からなにか付け足そうとする。
「どうしたサーシャ?」
「ミーリャさん。」
「はい、サーシャ嬢。」
「わたしが誰かに見張られている問題は解決しました。・・・けど、わたしはこれからも、ユーリ様の隣の部屋で寝ますから。これは決まりです!」
「ええ。」
ミーリャさんはふふっと笑った。
何だ?この空気は。なんだか俺は入りずらいぞ?
―サーシャ?ミーリャさん?この空気、俺は一体どうすればいいんだ?ー
「ところでミーリャさん、今更ながら聞いていい?」
俺は、今だからこそ聞けそうな疑問を、一つ問いかけてみた。
「なんなりと。」
「俺とやりあう前、無関係と言いながらも、割と長い期間サーシャを見張ってたよね。」
「ええ。サーシャ嬢には、大変ご迷惑をおかけしました。」
「済んだことだから良いよ。それで、巻き込まないようにだけと言うより、なんだかサーシャを警戒している感じにも取れたんだけど、それはどうしてだったの?」
「そのことですか。」
「私がユーリ殿を暗殺するように依頼された際、王都からはこんなことを言われていました。曰く、『ユーリには護衛の女がいる。その女は大岩を砕いては投げ、ドラゴンを素手で倒すことのできる怪力豪傑女だ、最大限警戒すべし』・・・と。」
「か、怪力ごうけつ・・・」
サーシャが反応する。
「私は当初、サーシャ嬢の事かと思っていたのですが、いつまでたってもそのような気配が見られないことから、別人であると判断しました。サーシャ嬢を見張っていたのは、その『怪力豪傑女』への警戒の為でもあります。」
「あの・・・それ・・・多分・・・わたしのことだと思います・・・。」
サーシャが恥ずかしそうに言った、。
「そうなのですか?サーシャ嬢はそういう風には見えないのですかが。」
どうやら王都には、サーシャの「初陣」はかなり尾ひれがついて伝わっているようだ。
「ドラゴンを素手で倒す・・・か。」
俺は少し考え込んでから、目をかっと見開いて言う。
「・・・強化魔法を最大限活用すれば、行けなくはないか。」
「もう!ユーリ様まで!」
サーシャは頬をぷくっとふくらませた。その顔もちょっと可愛い。
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