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9話 解釈


 昼休みが終わる少し前に教室に戻ると、和乃が夏哉と一緒にいる類香を見て嬉しそうに微笑みながら小走りでやってくる。


「類香ちゃん!」

「……!」


 そんな彼女に類香は本能的に身構えてしまった。なんて失礼な顔をしてしまったのだろう。反射的に後悔の念が顔を出す。


「今日はもうお話しできないのかと思った!」


 それでも和乃の朗らかな笑顔は崩れなかった。


「そんなことない、よ……?」


 類香のぎこちない言葉に、夏哉は思わず目を細める。まるですべてを見守る神のような視線だ。


「……まだ、今日は終わってないし」

「そう……そうだよね!」


 和乃は類香の返事が意外だったようで、一瞬言葉を見失った。だが次第にその瞳は輝きを取り戻す。


「これからお話すればいいんだよね! えへへ……」

「何、泣かないでよ……」


 和乃の瞳が潤んでいくのを見て、類香はぎょっとした。


「だって、類香ちゃん、私のこと避けてるのかなって……」

「それは……」


 和乃の声と表情は明るかったが、スカートに隠した指が少しだけ震えているのに気がついた。類香は思わず困惑した表情で和乃を見る。彼女のことを避けていたのは事実だ。否定できない。それはこちらがどう考えても悪いだろう。それは間違ってはいない。それにしても和乃が、勘違いかもしれないと思えた途端にこんなに喜んでいることが理解できない。この人について真面目に考えるのも億劫だ。もう、どうにでもなってしまえ。類香は諦めにも似た小さなため息を吐いた。

 すると隣にいる夏哉が、何かを窘めるようにちょんっと肘で類香を小突く。


「……そんなことないよ。ちょっと夏哉と用事があっただけ」

「本当?」

「ああ。そうだ」


 夏哉の返事に和乃は飛び跳ねるように喜んだ。


「良かった……! 良かった……」

「そんなに暴れないでよ……」

「ごめんなさい。でも嬉しいから。類香ちゃんと、またお話しできる」

「少しの間、話せなかっただけじゃない……」


 類香が呆れたように言うと、夏哉が類香を優しく諭すように見る。まったくお節介なものだ。類香はその視線を感じ、はぁっと息を吐いた。


「……もう、心配しなくていいから」


 惰性でそう言う類香に、和乃は笑顔で頷いた。

 類香はもう観念した。和乃は宇宙人だ。そう思うことにする。だから、それなりに接していこう。そうすれば厄介なことにはならないだろう。

 類香の和乃への対処法は、自分でも驚くほどにあっさりと決まった。




 文化祭では、類香のクラスはプロジェクションマッピングを組み合わせたバーチャルライブをすることになった。ちょうど、クラスメイトに映像制作が趣味なグループが集まっていたためだ。担任もそちらの方面は得意らしく、全面協力をすると張り切っている。

 類香はその結果に安心していた。バーチャルであれば外部の人と接することも少ないだろう。参加を悩んではいたが、これなら協力できることもあるだろうし。


 出し物が決まると、今度はバーチャルライブに登場するキャラクターについての話し合いが始まった。今は、すでにいくつかのキャラクターのモデルデータを作ったことがあるという畔上という男子生徒が嬉しそうにその画像をスマートフォンからプロジェクターを通して投影しているところだ。

 五人の可愛らしいキャラクターが映し出され、クラスメイト達はそのクオリティの高さに感嘆した。


「畔上、あんた天才だな」


 学級委員長が思わずそう言葉をこぼすほど、畔上の創りだしたキャラクターはデザインも優れていた。


「ありがとう。皆はどれがいいと思う?」


 畔上は少しだけ照れくさそうに笑うと、教室を見回した。


「どれも可愛いから迷っちゃうね」

「うん。あ、でも、どういう曲にするかにもよらない?」

「……そういえば曲って勝手に使ってもいいの?」


 クラスメイト達は口々に感想を述べている。


「曲については、知り合いのものを借りるから大丈夫だよ」


 畔上が念を押すように言った。どうやら、インターネット上でクリエイターのサークルに入っているようだ。

 類香はちらりと和乃を見た。案の定、畔上のことを尊敬の眼差しで見ている。感情がすぐ顔に出るのに、何を考えているのか分からないなんてずるい。

 類香は気づかぬうちにむっとした表情をしていた。

 その間にも、クラスメイト達の会議は進んでいく。


「じゃあ、この四番のキャラクターでいいかな?」


 畔上の声が跳ねている。恐らくお気に入りなのだろう。ふわふわの淡いピンク色の長い髪の毛に、丸くて大きな赤い瞳。設定は十六歳くらいだろうか。いかにも正統派のアイドルが着るような、可愛らしさを全力で詰め込んだ衣装は星空をイメージしているらしい。


「いいと思う! どんな曲でも似合いそうだし」

「うん。俺も賛成」


 満場一致だ。類香は拍手に沸く教室を見つめた。このクラスは祭り好きが集まっている。絶対。


「そしたら、次は声だな……」

「そっか。誰かが演じないといけないんだ」

「これってリアルタイムでやるんだっけ?」


 投げかけられた疑問に、一斉に畔上に視線が向けられる。


「リスキーではあるけど、リアルタイムでもできるよ。だけど、演者の負担が……」

「そうだよねぇ」


 畔上が腕を組むと、質問をしたクラスメイトも納得した。


「部活とか他の出し物で忙しい奴は無理だな」

「何回か公演するんだよね? 確かに大変だなぁ」

「事前にバックアップは勿論撮るけど、MCだけでもできればリアルタイムがいいよな。機材とかは借りられるし……」


 畔上を筆頭に教室は静まり返ってしまった。

 そんな中、静寂を切り裂くように一人の生徒が真っ直ぐに手を挙げる。


「私、部活も入ってないからできるよ」


 愛くるしい声の和乃だった。類香は目をぱちぱちとさせる。これも思った通りだっただろうか。クラスメイトが困っていたら黙ってはいられない。和乃は心優しい生徒だ。確かに違和感はない。

 類香は自分が割り出した分析結果に満足そうにうなずく。


「わのちゃんが?」


 畔上がきょとんとした顔をした。そしてすぐにその表情を緩ませる。


「いいの!? わのちゃん、声も可愛いし、もし引き受けてもらえるんだったら、すごくぴったりだと思う!」


 畔上の漲ったような声に、教室は再び沸いた。


「わのちゃんならいいね!」

「日比だったらアイドルやっても違和感ないよな」

「ありがとう! わのちゃん」


 和乃に対して、クラスメイト達は喝采を浴びせた。和乃は恥ずかしそうに笑っている。類香はクラスの中心で耳を赤くしている和乃をじっと見た。きっと彼女はこれが嬉しいのだろう。

 困っているクラスメイト達の役に立てる。自分を犠牲にすることで、その場が丸く収まるのだ。もっとも、和乃は犠牲だなんて思ってはいないかもしれない。それはお節介だっただろう。

 類香はその解析をほんの少しだけ反省した。


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