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変身しないで縺ゅj縺ちゃん  作者: 夜明
第1章 魔法少女???????
1/99

プロローグ 忘れないでね

「縺ソ繧薙↑縲√ヰ繧、繝舌う」


 瓦礫の山の上で、怪物が咆哮している。


 立ち込める土煙の中に、大量の血の臭いがぷぅんと混じり、肺に絡み着く。

 遠くからけたたましく聞こえるサイレンが、ビリビリと心臓を震わせた。


 黒々とうねる触手が地面を抉った。弾けた瓦礫が僕の頬を掠め、背後の壁にあたって壁ごと崩れる。裂けた頬からじわじわと滲んだ血があごを伝い、手に持ったカメラへと滴り落ちた。

 眩い朝日が怪物を照らす。三メートルはあるだろう堂々たる体躯の表面を、黒い触手が波打ち、ゼリー状の粘液を飛ばす。


「ワ゜ダ縺ハ。ゼがイ■ヲ救゜タ■■カッダノ■」


 怪物の咆哮が地面を揺らす。

 粘液が泡立ち、けれど砂のように掠れたジャリジャリとした声が、人間には理解できない言葉を吐く。

 怪物の体がボコボコと膨れる。皮膚に浮かんだ血管らしきものが青く発光している。怪物の吐き出す息は黒煙となり、口端から垂れる涎が地面を溶かした。


 僕は一歩前に進んだ。

 首から下げたカメラを、怪物に合わせる。

 レンズ越しに視線がかち合った。沼底のような深い色をした巨大な瞳を見て、僕は思い出す。

 『私の目、大きくて可愛いでしょう?』と言っていた彼女の言葉を。

 ああ、そうだね。君の目はとっても大きくて、素敵な目をしているよ。


「忘れないよ」


 君が。化け物でないことを僕は知っている。

 君が。普通の女の子だということを僕は知っている。


「ミ゛ン××な゛。ダイ好木■ヨ■△」


 魔法少女に憧れていた女の子がいた。

 ピンク色の髪をした、可愛いものが大好きで、ぬいぐるみのチョコちゃんがお友達で、たくさんの夢をもっていて、ちょっと我儘で、皆のことをふりまわして、だけど本当はとっても思いやりがあって、そして、ずっと魔法少女に憧れていた可愛い可愛い女の子がいた。


 君はただ、可愛い魔法少女に変身して、世界を守りたかった。

 薬物にも、ヤクザにも、宗教にも、殺人にも。関わるつもりなんてこれっぽっちもなかったんだよね。

 黒い触手よりも、ピンク色の衣装を着たかったんだよね。


 怪物は空を見上げる。大きく開いた口の中が青く光る。

 怪物の体の内側から駆け上がっていく光が、その口に凝縮されていく。

 眼球が焼け焦げそうになるほどの熱く眩しい光を、僕は瞬きをせず見つめていた。


 大丈夫、と僕は繰り返し言った。大丈夫、大丈夫だよと。

 溢れる涙を何度もぬぐう。怪物に対する恐怖などみじんもなかった。

 ただあるのは、心臓が破れそうなほどに激しい悲しみだった。


「僕は君を忘れないよ」


 君という人間を僕は絶対に忘れない。

 世界を壊す怪物の姿ではなく。笑顔が眩しい、人間の姿をした君のことを、僕は絶対に忘れない。

 世界が君を化け物だと恐れても。

 君は人間だ。

 笑顔が可愛い、ただの女の子だ。


 怪物が絶叫する。それはきっと、『彼女』が心の奥底から放った声だった。


「どゥ■か、私ォ忘レナイ゛縺で縺ネ」


 口から放たれた青白い閃光が空を突き抜いた。

 視界が光に埋め尽くされて、何も見えなくなった。



 僕は、シャッターを押した。
















 変身しないで。縺ゅj縺ちゃん

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― 新着の感想 ―
[良い点]  雰囲気がメチャクチャ好みです。 しっかり整った文体もいいですね。 Web小説だとこの文章の書き方に難が多い作品が相当数あって悩ましいのですがそれが全くありませんでした。 この文体だけでも…
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