6話 商業都市ミリアルド3
前話のあらすじ:金貨で串焼きを買おうとしたら、断られた
「銀行がどこにあるか迷うかと思ったけど、これだけ大きくて看板にもでかでかと銀行って書いてあるし、どう見てもここだよね」
南区へと移動した私は、銀行らしき建物を発見した。3階建ての豪華な石造りの建物で、周りが殆ど平屋か2階建てである事を考えると立派だ。
「とりあえず、中へ入ってみよう」
銀行の中は長い受付テーブルに窓口が並び、融資受付と預金受付と両替受付に分かれていた。
建物の中はすごく広いという程でもないが、入口から正面にある両替受付と、左側にある融資受付と預金受付の間にはソファーが並び、順番を待つ間も座って待てる造りになっていた。
「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」
入り口すぐの所にいた、いかにも事務員という統一された銀行員の制服に身を包んだ若い女性から声をかけられる。
「えぇと、両替をお願いしたいのですが」
「両替でございますね。ただいま窓口が混雑しており順番をお待ち頂く事になりますが、よろしいでしょうか?」
「はい、構いません」
「では、この番号札をどうぞ、順番に番号をお呼びしますので、そちらにお掛け頂いてお待ちください」
日本の銀行に似たシステムだった。違うのは番号札が紙ではなく、木札だという事ぐらいだ。
銀行の中はいかにも商人という見た目の人が多く、私のような質素な布の服を着た、町娘スタイルの女性は職員以外に殆どいない。
「両替受付にてお待ちの、31番のお客様―! 4番受付までお越しください」
受付の女性係員の声が響く。このうるさい中では仕方ないと思うが、よく通る声だ。
私の番号が呼ばれたので、受付に向かう。
「ここが4番受付で合っていますか?」
「はい、番号札をお預かりしてもよろしいでしょうか?」
番号札を受付の女性に渡す。
「本日はどの硬貨の両替をご希望でしょうか?」
「金貨を銀貨と銅貨へ両替したいと思っているのですが、日常生活で、銀貨と銅貨ってどれくらい持っていれば困りかせんかね?」
「そうですね。余りたくさん持ち運ぶと重いですし、普通は銀貨2~3枚程度と銅貨20枚ぐらいをお財布に入れている方が多いと思います。高額な商品を置いてあるお店などでは金貨でお買い物頂けるハズですので」
なるほど、金貨が使えない場所ばかりでは無いようだ。
それに私の身体は女だ。重い硬貨をジャラジャラ持ち歩いても、荷物が増えるだけだし、よからぬ輩に襲われる心配もある。
「じゃあ、金貨1枚を銀貨9枚と、銅貨100枚に両替お願いします」
「お客様、恐れ入りますが当行では両替時に手数料を5%頂戴しております。金貨1枚の両替でしたら、銅貨50枚は手数料としてお支払い頂く事になります」
(そうか、だからたくさん両替カウンターがあるんだ。両替の手数料が銀行の主な収入源なのね)
「そうだったんですね。世間知らずでごめんなさい。では銀貨9枚と、手数料を引いた残りを銅貨でお願いします」
「かしこまりました。ではご準備してまいりますので、少々お待ちください」
そういって受付嬢はカウンターの奥に引っ込み、布の小袋と銀貨と銅貨を持ってカウンターへと並べる。
「枚数のご確認をお願い致します。銀貨9枚と銅貨50枚です。金貨の両替時にはこちらの袋がサービスで付きますので、よろしければ硬貨を入れてお持ち帰り下さい」
「ありがとうございます」
無事両替を終えた私は、銀行を出て町の西区へと戻る。
「お腹も減ってきたし、さっきの気のいいおじさんの屋台で串焼き買って食べよーっと」
ちょっと硬貨が重いけど仕方ないのであった。
「おじさーん! 串焼き買いに来たよ」
「おう! さっきの姉ちゃんじゃねぇか! ちゃんと両替は出来たのか?」
「えぇ、おじさんのお陰でね♪ で、串焼き2本頂戴―! お腹ペコペコなのよ」
「がっはっは! いいぜ、焼き立てのをやるから、ちょっと待ってな!」
オーク肉の串が焼ける良い匂いが漂う。
「銅貨10枚と言いたい所だが、姉ちゃん可愛いからまけて8枚にしてやらぁ!」
「えー!? いいの? おじさん優しいー! ありがとね!」
美人は得する事はジェイドの件でわかっていたが、素直にうれしい。
「そういや姉ちゃん、西区へは宿探しに来たのかい?」
「えぇ、そうよ」
「姉ちゃん金貨持ってたし、金に余裕があるんだったら安宿に泊まるよりも、この町一番の宿【ザ・イーグル・ミリアルド】に泊まったらいいぜ」
「おじさん随分と物知りなのね」
「がっはっは! 屋台やってると町の色んな人と話すからだよ! ほれ、焼けたぞ。熱いから気を付けて食えよー!」
「そっかー! ありがとね、また買いに来るわ」
おじさんの屋台が出ている場所はちょっとした広場のようになっていて、街路樹が広場に数本植わっている。
その街路樹の木陰で、私はオーク肉の串焼きを食べてみる。
「もぐもぐ……。 これ美味しい! 前世で例えるなら、豚肉をもっと柔らかくして甘みをもたせた感じね。食感はどっちかと言うと牛肉っぽいかも。もぐもぐ」
かかっているタレも甘辛くて食が進む。
あっという間にオーク肉の串焼き2本は、串だけになった。
「あのおじさんすごく良い人だし、ちょくちょく買いにいこーっと」
腹ごしらえが済んだら、次は今夜の宿に向かう。
「おじさんオススメのザ・イーグル・ミリアルドってとこに、今日は泊まろうかな」
場所はおじさんから聞いてある。
てくてくと町を歩き、ザ・イーグル・ミリアルドの前に到着する。
「これはまた……。銀行も大きい建物だったけど、この宿はデカいわね。4階建てぐらいかな」
銀行以上に趣向が凝らされたレンガ造りの建物には、各個室に備えられていると思われるガラス戸が、日光を反射して輝いており、より一層豪華に見えた。
「日本ではこういった宿はなかなかお目にかかれないわね。さて、チェックインしましょーか」
中へと入っていくと、広々としたロビーが眼前に広がる。ロビーは2階まで吹き抜けになっており、ロビーの両脇から2階へと上がる階段が弧を描いている。
ロビーの片隅にはティーラウンジや立派なピアノが設置されていた。
「想像以上に豪華なホテルね。お金が無い訳じゃないけど、ここ結構高いんじゃないかな」
(前世では平凡な安月給サラリーマンだったし、高級ホテルなど童貞の私には縁が無かった)
そんな事を思い出しながら、ロビーの向こう側に見えるフロントカウンターへ辿り着く。
「いらっしゃいませ。ザ・イーグル・ミリアルドへお越し頂きありがとうございます。本日はご宿泊でいらっしゃいますか?」
「はい、1泊おいくらでしょうか?」
「1泊食事無しの、ルームチャージのみですと銀貨5枚でございます。1泊朝食付きですと、銀貨5枚と銅貨50枚。1泊夕朝食付きですと、銀貨6枚でございます。当宿では夕朝食付きのプランがお得でございますので、ほとんどのお客様は夕朝食付きでご宿泊なさいます。また、スイートルームをご利用の場合は1泊夕朝食付きのみのプランでございまして、金貨2枚でございます」
(たっけぇぇぇぇぇぇ!!! 前世日本の外資系高級ホテル並の値段ね!? まぁ、ジェイドにもらった金貨が100枚近くあるはずだから、1泊くらいは夕朝食付きで止まってみようかな)
「わかりました、では普通の部屋に夕朝食付きで1泊お願いします」
「かしこまりました。恐れ入りますが、当ホテルでは常連のお客様以外は前払いでお願いしております」
「えぇと、銀貨6枚ですね。はい、お願いします」
銀行で貰った布袋から銀貨を6枚取り出し、宿の受付係に渡す。
「はい、確かに。ありがとうございます。ではこちらがお部屋の鍵です。お客様のお部屋は3階の307号室でございます。
また、お食事に関しては1階ロビーの左手側にございます、レストランにてお召し上がり頂けます。夕食は17時~22時まで、朝食は6時~9時までの間にてお召し上がり下さいませ」
「チェックアウトはどうすればよいですか?」
「ご出発の際にお部屋の鍵をこちらへご返却頂くだけで結構です。チェックアウトのお時間は12時まででございます」
「わかったわ。ありがとう。では」
一通り説明を聞いた私は、告げられた部屋へと向かう。
2階から3階への階段は建物の奥側、つまり玄関入り口の反対側にあった。
「うわぁ……。これは高い訳ね。各部屋にお風呂とトイレが付いてるし、水洗式だなんて。水道とか通ってるのかな? それとも魔法かな? チェックアウトの時に宿の人に聞いてみよう」
部屋には小さいながら鏡もあり、衣類棚もある。
ベッドはクイーンサイズぐらいはありそうな大きなベッドだ。
「これは、銀貨6枚払っても泊まる価値あるわね。」
ひとしきり部屋の中をルンルンしながら見て回った私は、部屋にある椅子へと腰掛け今後どうやって生活していくか考える事にしたのだった。
この世界での通貨価値
金貨:10万円相当
銀貨:1万円相当
銅貨:100円相当
金貨よりも価値の高い通貨もありますが、後ほど登場します。
※追記:銀行の受付に【預金受付】を追加しました。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
引き続き本編をお楽しみいただけると幸いです。
ぺこり