5話 商業都市ミリアルド2
前話のあらすじ:優男に金貨を貢がれた
これほどの金貨を受け取っておいて、そのままここでサヨナラするのは人として間違っているのではないかと思い、色々と考えた。
私は元々男だし、女性にリッチな贈り物をしたのに音信不通になったら、同じ男だったらショックを受ける事ぐらいはわかるつもりだ。
ここで断れば、ジェイドの心をえぐり取るような深い傷を負わせる恐れもある。元男としてはそんな可哀そうな行為を同じ男にしたくはない。彼の人生を180度狂わせるほどのショッキングな出来事に関わるのはごめんである。
ジェイドには世話になったし、ある程度仲良くしてもいいだろう。
私はあくまで【男】として、ジェイドに助け船を出すつもりで返事をする。
「ミリアルド様、私も後日領主様のお屋敷へご挨拶に伺わせて頂きます。今日は宿探しもありますし、お暇させて頂きますね?」
「うむ、ミリア。おっと失礼、つい名前で呼んでしまった。マンシュタイン殿と過ごせる時間が終わってしまうのは名残惜しいが、無理に引き留めるのも野暮だろう。貴女との再会を心待ちにしておるぞ」
別れの挨拶をしてから、ジェイドは去って行った。
(っていうか、あいつ私の下の名前呼び捨てにしたなー! 女性をいきなり呼び捨てにするなんて、何様だー!)
いや、領主様の長男である。
金も権力もあるのだから違和感は無いのだが、名前を呼び捨てにされて、正直ちょっとドキッとした。
(……おい、体は女になったけど、呼び捨てにされてドキッとしたらアカンやろ。はぁー……)
私は自分の心に自分で突っ込みながら、まるでお姫様扱いされているかのような感覚に、混乱していたのだった。
そして
「……いや、そんな事は置いといて今は宿探ししなきゃね。女性おひとり様でも安心な宿屋ってあるのかなー」
私は今は女性なんだ。安宿に泊まったあげくに性に飢えた凶暴な男性たちに蹂躙される恐れもある。元男だからこそ、くだらん野郎にそんな狼藉を許したくはないし、男とそんな行為をしたくない。キモイ。
…そんなことを考えながらミリアルドの町をぶらぶらしながら宿屋を探してみる。ジェイドと別れたのは、町の中心部にある噴水の前だった。
そこで適当に町の人に話しかけて、宿屋がミリアルドの町の西区に集中している事を聞いた私は、西区へと向かっていた。
「異世界のご飯って美味しいのかなぁ。楽しみー!」
少し前に、用を済ませる為に公共のトイレに立ち寄り、戸惑いながらも用を済ませた。
そこで自分が本当に女になった事を痛感した私は、イザという時に男言葉が出てこないように、普段の自分の口調や、心の声も、女言葉にする事にした。
(元々男だったし、前世は女性でも男言葉を使ったりする事もあったから、ボロが出るかもしれないけど、そこは持ち前の美貌でごまかす!)
まぁ、わかってはいたんだけど、息子は無かったし、控え目ながらもクレバスが存在していたんだ……。
男として生活する事をあきらめた私の変わり身は早い。
(さて、気を取り直して宿屋探し続行―っと)
変わり身は早いつもりだが、自分の将来について色々と不安になってくる。混乱し続けている私は、千鳥足になりつつも、西区に到着した。
「えーっと、1泊2食付きで銅貨5枚ね。高いのか安いのか、わからないなぁ」
宿屋の軒先に貼られている価格表を見ながら頭をかしげる。
(あ、あそこに屋台がある! あそこで売ってる食べ物の値段を見聞きすれば通貨の価値がわかりやすいかも!)
私は屋台に向かって歩いてゆく。何かの肉を使用した串焼きを販売している屋台のようだ。
「へいらっしゃい!! 舌がとろけるような、油の乗ったオーク肉の串焼きが1本銅貨5枚だよ!! あ、そこの可愛い姉ちゃん! 1本買っていかないかい?」
キレイなお姉ちゃんとは、たぶん私の事だ。
「串焼き1本下さい。これで支払えるかな?」
店主に金貨を1枚渡す。
「おい姉ちゃん! 可愛い顔してなかなか冗談が上手だな! 屋台で金貨なんて使う奴はー……。 おい! 本当に金貨じゃねーか!! 姉ちゃん、金貨はこういった屋台じゃあ使えないのが、常識だぜ!? 釣銭を用意するだけでも大仕事になっちまうさ!」
「えぇぇ、そうだったんですか。ごめんなさい、ご迷惑をおかけして。金貨1枚はどれくらいの価値があるんですか?」
私はとぼけながら金貨の価値を店主に聞いてみる。
「おぃおぃ、金貨持ってるのに価値を知らないって、何の冗談だよ。金貨1枚は銅貨に換算すると、1000枚相当だよ。姉ちゃん! 銀貨に換算すっと、金貨1枚あたり銀貨10枚相当だな。姉ちゃんがこのオーク肉の串焼きを金貨で支払うとなると、俺っちは銀貨9枚と、銅貨95枚の釣銭を払わなきゃならなくなる訳よ。どう考えても大変だろ?」
なるほど、オーク肉の串焼きの価値はよくわからないけど、銅貨が1枚100円ぐらいの価値だとすれば、金貨は1枚で10万円だ。
(そりゃ嫌がられるよね)
「教えてくれてありがとう、店主さん。聞いてばかりで申し訳ないけれど、両替はどこで出来るの?」
「かー! 両替の仕方も知らないたぁ、姉ちゃんお伽の国からでも出てきたのかい? 両替は基本的に銀行でやるもんだ。この町だと南区にあるぜ!」
(お伽の国ではないけど、違う世界から来たから似た感じかもね)
「えへへ、そういう事にしといてよ。ありがとう店主さん。両替出来たら、また串買いに来るね」
「おうよー! これだけ色々質問されて串買ってくれなかったら、大損だぜ! ハッハッハ!」
気のいい屋台のおじさんに気前よく貨幣の価値と両替についての話が聞けた。
「とりあえず宿に泊まるにも、金貨しかないと使い勝手が悪そうだし、両替が先かな」
石畳が敷き詰められた街路を歩き、私は南区にあるという銀行へと向かった。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
しばらくは町でのお話が続きます。
後書ネタコーナーが気になる?まだお預け(焦らしぷれい)ですよ。
ごめんなさい、ただのネタです。
引き続き本編をお楽しみいただけると幸いです。
ぺこり