34話 【失ったモノ】
前話のあらすじ:とんでもないスキルを覚えたので、今後について思考放棄しました。
ドンドンドン!
ドアを勢いよく叩く音が響く。
「ミリアお姉ちゃーん!夕食の時間だよー!」
(むにゃむにゃ…。はっ!しっかりじっくりちゃっかり寝てた!)
ベッドから体を起こして下を見ると、下着のままの自分の姿があった。
「ごめんエリー!着替えたらすぐ追いかけるから先に行っててー!」
「わかった!遅刻しないようにね!」
急いでドレスに…。
…トーマスたちがいるからドレスじゃちょっと合わない。普段着に着替えよう。予備の服に着替えて部屋を飛び出し、レストランへ向かう。
「遅かったなミリア」
トーマスが声をかけてくる。急いで着替えたものの、約束の時間に少し遅れてしまった。
「みんな待たせちゃってごめんね?ちょっと疲れで眠っちゃって…」
とりあえずみんなが座っている4人掛けのテーブルの空席に腰をおとす。イスのクッションがふかふかで、疲れたお尻に優しい…。
ちなみに男だった時と今とではイスに座った時の感覚などに大きな違いがある。前世では比較的に締まった体格だったのでお尻も引き締まっていた。そのためやや硬い地面などに腰掛けると、筋肉と地面が反発しあってお尻が結構痛かったのだが、今はお尻がクッションのような感覚なので、そこまで苦痛ではない。
(お尻が太ってるってわけじゃないんだけど、不思議よねー)
ウェイターが食事を運んできたので、みんなで食事を始める。ついでにワインとビールも頼んでおいた。私はワインの方が好みなので、ビールを飲むのはトーマスだ。エリーはお酒の味が嫌いだそうなので飲まない。
ザンネンは…。
「部屋に戻った後でけん玉の練習をする時の感覚が狂うから、お酒は絶対に飲まないよ」
と、今発言したところだ。さすがはザンネンさん!どこまでもストイック!
「ザンネンはたまにはけん玉から離れた方がいーと思うよ!もぐもぐ…」
エリーはそう言葉をかけるものの、ザンネンには目もくれずに料理に舌鼓をうっている。せめてザンネンの方を向いて言って欲しいところだ。
「あ、そういえばミリアお姉ちゃん。後で一緒にお風呂入ろーね」
「おふりょ!?」
「いきなり呂律がおかしいけど、もう酔っぱらったの?」
(わ、忘れてたー!そんな約束してたんだった!)
なんだかんだとバタバタしていてすっかり忘れていた!そうだ私はエリーと一緒にお風呂に入る約束をしていたんだった!!
「…夕食後に私の部屋でお待ちしております。エリーさま」
「?なんで突然敬語になったのか、よくわからないけどお姉ちゃんのお部屋で待ち合わせね」
「そのようにお願いいたします」
「?変なミリアお姉ちゃん」
和人よ。お前は人生初の混浴を今日達成するぞ。無事に成仏しろよな…。
男だった時の私に一応報告しておいた。
それから食事を終えた私たちは席を立ち、それぞれの部屋へと戻る。
トーマスとザンネンにも二人で入ったら?と冗談を飛ばしておくのも忘れない。まっぴらゴメンだと二人揃って拒否しあった。残念だ。
さて、そろそろエリーが部屋にやってくるのではないだろうか。
(えーと、部屋の中は片づけたし、着替えやタオルとかも準備したし、ベッドもキレイに整えたし…ってベッドは関係ないわよ!?)
コンコンっ
「お姉ちゃん入るよー?」
きたー!!
「どうぞ、待ってたわ」
心臓の鼓動が速くなる!
(今の私、変な表情してるんだろうなー…)
一応自然に見えるように表情を取り繕っているが、動揺を隠し通せているかは疑問だ。
「お姉ちゃんはここにずっと泊ってるって聞いたけど、部屋をキレイに片づけてあるんだねー。アタシは片づけが苦手ですぐ散らかっちゃって」
「急いで片づけたの。私もエリーが来なかったら似たような状態だったかもね?」
「お姉ちゃんそういうところはキッチリしてそうだから、それはないでしょー」
「あはは、とりあえずお風呂いきゅ!…いきましょうか!?」
「?うん、いこいこー」
噛んだ。恥じゅかしい。
お風呂へやってきた私たちは、早速脱ぎ始めた。
「あー!やっぱりお姉ちゃんぐらい【ある】とそれ付けてるんだ!」
「あー、うん。これ付けてないとちょっとね」
深くは言わない、エリーは【ない】からだ。【ある】女性が【ない】女性に下手なことを言わない方がベターというのは前世日本では常識だとどこかで見聞きした。
男だった時の私だったら、揺れて困るから。とか普通に言ってしまっただろうが、女性同士の会話でそんな地雷原を全力疾走するような発言は厳禁である。
友達同士ならおふざけで済むだろうが、私とエリーはまだ出会って間もない。
エリーは見事につるぺたロリだった。
一部の熱狂的なファンなら泣いて喜ぶだろうが、あいにく男だった時の私にそういう趣味は無かったので特に何もない。
そして一緒にお風呂へ入る。
(どうだ和人よ、お風呂に入る時が来たぞ)
(…にしても…あれ…全然…)
「エリー、背中流してあげようか?」
「ほんと!?じゃあ私もお姉ちゃんの背中流してあげるね!」
エリーの小さい背中を優しく洗う。若いのでお肌はスベスベだ。
(…)
「痛くない?」
「全然!お姉ちゃん洗うの上手だねー。くすぐったくもないし、ちょうどいいよ!」
そして次は私の番だ。
「ふっふっふ…。えい!」
「ふぁ!?」
エリーに後ろから揉まれる。
…何をって?言わずもがな、紳士淑女諸君には理解出来るハズだ。
「あ、ちょっとエリー!」
「うわ…なにこれ大きいのに柔らかい…ちょっとコレ!けしからんよ!?」
エリーの手が止まらない。
詳細は書かないが私が変な声をあげ始めたので、さすがにエリーもまずいと思ったのか、止めてくれた。
「はぁはぁ…エリーちょっとやりすぎよ…」
「あはは…お姉ちゃんのすごい触り心地が良かったから、つい…」
てへぺろー!みたいな顔で言うので許してしんぜよう。
というか、コレがウワサに聞く女は男の何倍ってヤツなのかと驚愕した。ちょっと声が我慢出来なかった。なにこれ怖い。
(そんな事は無い…だろうけど、これ男の相手とかしたらすごいことになるんじゃ…)
私とエリーは体を流した後でお風呂から上がり、体を拭いて着替えてから別れる。
「じゃあ、お姉ちゃんおやすみー。また明日の朝ねー」
「おやすみエリー。風邪をひかないように暖かくして寝てね」
「ふふっ。お姉ちゃん本当のお姉ちゃんみたい!」
エリーにニッコリ笑顔を返して手を振る。
(…)
その後で部屋の鍵をかけた私はベッドへ向けてトボトボと歩き、ボフっとベッドに突っ込む。
(…エリーの裸を見ても、一緒にお風呂というシチュエーションでも、興奮も何もなかった…)
ベッドに突っ伏した体制から体を転がして仰向けになり、両手を天井へ向けて上げた後で自分の髪をなで、女性らしいスベスベとした頬を触る。
男性だった時は頬を触るといくら剃っていてもヒゲの感触があったり、スベスベということは無かった。
(…私、本当にもう男じゃなくなったのか…)
無意識に自分の胸を触る。
(触られたのが女の子だったのに、すごく気持ちよかった…。好きな人に触られたりしたら、どうなっちゃうんだろう…?)
ジェイドのことをふと思い出す。変なところも多い男だが、ミリアのために行動する時は常に大胆かつ迅速に動く男性だ。
(…)
私はそっと目を閉じ、意識を手放すのであった…。
【とある国の王城での光景】
パーティー会場でのダンスの時間。
豪華な装飾を施されたドレスを身にまとい、絶世の美女と言っても差し支えのない女性が、どこか憂いを帯びた表情で、美しく舞っている。
その女性は会場の男性どころか女性の視線も集め、優雅かつしなやかに舞い続ける。
「彼女は誰だ?」
「彼女はミリアルドの街で地竜を討伐したパーティ-の一人です」
舞が終わり、彼女が見事なカーテシーを決める。
最後にたまたま目が合ったのだが、心が吸い込まれるような笑顔で会釈される。
「彼女は…美しい…」
ごめんなさい、いつものです。
ちなみに本編とは関係がありません。
いつも私の小説をお読みいただきありがとうございます!
TS好きな紳士淑女の皆さまお待たせしました!
引き続きこの小説をお楽しみいただければ幸いです。
ぺこり。