26話 ミリアたち vs 定番のアレ
前話のあらすじ:ほのぼの食事タイムをジャマされた
一時間ほど咆哮の聞こえた方向に向けて進んでいると……。
(ありゃー……見たくはないものが見えてきたわね)
「あれは……ドラゴンかしら?」
まだ距離はかなり離れているけれど、その巨体は十分すぎるぐらいに目視出来る。
「ヤツの視界に入らないように隠れておけ。あれは……ドラゴン? いや、地竜か!? 何故こんな所に……」
「地竜だって!? 僕は本でしか見たことが無いよ」
「ち、地竜!? い、いくらアタシが天才魔導士とはいえ、地竜は初めて見たわ!」
「あれはさすがに想定外だ。冒険者ギルドへ報告し、大規模な討伐軍を組まないと、とても相手には出来ないだろう」
トーマスの意見はもっともだ。あんなのと戦っても、ちっとも勝てる気がしない。
「そうね、そうっと逃げるのが良さそう……」
グオォォォォーー!!
再び地竜が咆哮し、地面が揺れる。
(うひゃー! これは生きた心地がしないー!)
私は歴戦の勇士でも何でもないので、ビビる。
ものすごくビビッてる。
咆哮が終わって周りを見渡すと、トーマス以外の二人も怯えているようだ。
トーマスは地竜から視線を外していない。
「いかん、アイツはこちらに気付いたようだ!」
地竜の視界に直接入ってはいないが、匂いか気配を察知されたのかもしれない。
巨大な地竜がこちらへ向けて口を開く!
(やるしかない! 火炎の息みたいなのを吐かれたら、全滅しちゃう!)
「時間停止レベル2!」
私たち4人以外の全ての時間が止まる。
地竜は口を開けて、今にもブレスを吐きだしそうな姿勢のままで止まっている。
「と、とりあえず何かヤバそうな気がしたから、時間を止めたんだけど、どうしよう?」
「……ミリアがいなかったら、僕たち全滅するとこだったね」
「とりあえず地竜がブレスを吐こうとしている、ここからは離れよう」
身の安全が第一、逃げるが勝ち。そう思っていたら……。
「ねぇ! アレ倒してみない? ミリアお姉ちゃんと一緒なら、やれそうな気がする!」
(やる気満々な子がいたー!!)
さすがは天才魔導士、あのいかにも硬そうなウロコと、巨体を前にしてもやる気だ。
「トーマス! これはアタシたちにとっては、名をあげるチャンスだよ! 森に被害が出るかもしれないけれど、雷属性の魔法を使わせて! それに、これだけ癒し草の自生地に近い場所に、アレがいるのなら、早めに倒した方がいいに決まってるわ!」
エリーの言うことにも一理ある。
癒し草の自生地から、徒歩で一時間も離れていない場所に地竜がいるのだ。
被害を防ぐ意味でも、可能であれば早く倒した方がいい。
(他の冒険者の応援を待ったとしても、私たち、特に私は再度討伐に参加することになる。時間を止められる私が、討伐隊に組み込まれないワケがないから。なら、今戦って倒せるか、チャレンジしても変わらない……か)
「トーマス、私も一度戦ってみるのはアリだと思う。 癒し草の自生地に被害を出さない為にも、やってみましょう!」
「エリーはわかるが、ミリアまでやる気とはなぁ。よし、腹をくくってやってみるか!」
「ええー!? 本当にやるのかい? でも皆がやる気なら、しょうがないか……」
ザンネンはちょっと弱気みたいだ。
あの巨体と硬そうなウロコを見る限り、私の剣はダメージすら与えられないだろう。
エリーの魔法が頼りになりそうだ。
グオォォォォーー!!
「「「「あ」」」」
「時間停止―!」
再び地竜の時間が止まる。
(あ、危なかった……! カウントダウン始まってたのに、気づかず考え込んでた)
危ないところだった。
「とりあえず、地竜の背後へ回ろう!」
「うん!」
「早く行こう」
「りょーかい!」
私たちは地竜の背後に回り込む。
5、4、3
「時間が動くわ!」
地竜が私たちが『いた』場所へと、火炎のブレスを吐く!
ゴオオォォォ!!
地竜のブレスが、噴射方向の木々を焼き尽くしていく!
「熱っ! 背後にいるのにこの熱さなの……!?」
「エリー! でかいのを食らわせてやれ!」
「おっけー! 詠唱始めるわ!」
「ザンネン! 地竜の目を狙え! 目なら弓矢でも攻撃が通りそうだ!」
「わかった!」
コレを相手にするには、時間を連続で止めるしかない。
(みんなの為にも、ここは出し惜しみなしだ……!)
「みんな! 私がずっと時間を止めるから攻撃に専念して!」
「なに!? 間隔を開けずに連続で時間を止められるのか!?」
「黙っていてごめんなさい。ここが正念場、みんなの為にも隠し事は無しにしたいの!」
「……。よし! 俺はエリーの詠唱が終わるまで、地竜の頭部を攻撃する!
「ミリアお姉ちゃん! 時間を止めながらでいーから、また私にMPを貸して!」
「わかったわ、エリー!」
再びエリーの方に手を添える。
トーマスとザンネンは、それぞれ攻撃を行うべく背中を登ったり、目を狙える位置へと移動している。
5、4
「みんな! 時間停止が一瞬だけ途切れるから、気を付けて!」
そう、時間を『連続的』に停止することは出来るのだけれど、効果時間中に『上書き』は出来ない。
時間停止の効果が切れた瞬間に、次の時間停止を行っている。
ほんのわずかな時間だけれど、時間が動くので、その瞬間だけは注意が必要だ。
3、2、1
「時間停止レベル2!」
一瞬だけ地竜の時が進むが、すぐにまた止まる。
ザンネンが放った矢が地竜の眼球に刺さる。
トーマスのロングソードが、地竜の脳天へ何度も突き刺さる。
エリーが詠唱完了したことを、私に視線で知らせてきたので、私はトーマスとザンネンに叫ぶ!
「トーマス! ザンネン! 詠唱が完了するから、地竜から離れて!」
トーマスが巨大な地竜の背中から駆け下り、ザンネンは地竜の正面から背後へと戻る。
「ライトニング!!」
「くっ……!」
MPがごっそりと抜けていく感覚に襲われる。初めての感覚だ。
エリーが唱えた魔法により、木々の隙間から見えていた青空が、一気に真っ暗になっていく。
そして……。
ドッガァァァン!!
空から落ちてきた巨大な雷が、地竜の頭部を直撃した!
私たち以外の時間は止まっているので、地竜にダメージがあるのかはわからない。
だが地竜の頭部は、トーマスが剣を刺した傷に沿うように、亀裂が入って焼けこげており、見るも無残な姿に変貌している。
「やった……のかしら?」
私は急激なMPの消耗からか、その場にペタンと膝をつく。
エリーも同様のようで、ゼェゼェ言っている。
しかも、自身が放った魔法の威力に、何故か驚いた顔をしている。
「ミ、ミリアお姉ちゃん……。ちょっとMPもらいすぎちゃったかも、大丈夫だった?」
「かろうじて……。MPの消費ってこういう感覚なのね」
5、4
もう少し休みたいが、時間は待ってはくれない。
いや、正確にいえば時間を待たせることは出来るけど、そのタイムリミットは待ってくれない。
「みんな、時間が動くわよ」
「これで倒せたら、いいんだけどね……」
「ミリア、エリー。今はつらいかもしれないが、身構えておくんだ」
「……頑張るわ」
「うー……。さすがに最大パワーはしんどいよー……」
私たちは地竜の背後に回っているので、いきなり攻撃を受けることはないだろう。
ダメージがあったか確認してから、時間を止めても遅くないはずだ。
……そして、時間が動き始める。
……ズダーン!!……
巨大な地竜が倒れ込み、動かなくなった。
私たち4人は、地竜を倒した!
……意外とあっさりと。
【豆知識のコーナー】
よくぞいらっしゃった。
ここは(ドラゴンについて詳しくなる為の)豆知識を授けるコーナーじゃ。
ドラゴンといえば、羽が生えていて、空を飛ぶ生物を想像するのう?
そんなドラゴンには『うにうに』とか『ムニムニ』といった種類もあるのじゃよ?
気になる紳士淑女はググってみるのじゃ。
あ、これか!と納得するに違いないじゃろうて。
ほっほっほ。
ごめんなさい、いつものです。
ちなみに本編とは関係がありません。
いつも私の小説をお読みいただきありがとうございます!
よろしければそのまま本編(後書きも?)をお楽しみください。
今ならドラゴン育成スターターキット(仮)を差し上げます。
引き続きこの小説をお楽しみいただければ幸いです。
ぺこり。