25話 激戦の後はもぐもぐ
前話のあらすじ:無事に森ウルフの群れを撃退したけど……?
周辺を見回った私たちは、森ウルフの死体の数を数えていく。
「全部で25頭のようだね」
「ああ、昨日ミリアが倒した森ウルフは、もう腐敗が始まっていたから、毛皮の再利用は難しいだろう」
この世界、いやこの地方にどういった季節があるのかわからないけれど、ここに来てからはずっと春のような気候だ。
腐敗が進むのも早い。
最初にザンネンが偵察した時よりも、倒した森ウルフの数が少ないのは、途中で逃走したからだ。
時間停止の間にザンネンが偵察した際には、既に逃げ出していて、結局逃げた方角は特定できなかった。
森ウルフが逃げた原因の調査には手間取りそうだ。
「全部毛皮を剥いだとしても、輸送はどうするの?」
トーマスに聞いてみる。
「帰りに持てるだけ持ち帰るが、全部は無理だ。残りは冒険者ギルドに輸送隊を編成してもらう事になる」
いくらオオカミサイズでも、25頭分の毛皮となると、台車でも無いと運べない。
私やエリーが抱えられるのは多分1枚が限界だ。
「トーマス。毛皮剥ぎは僕がやるけど、その前に一つ気になる事がある」
「……。ミリアの側面から飛び出してきた森ウルフか。ザンネンが察知できないというのは、めずらしいとは思っていた」
「あの個体は群れて無かったみたいだけど、他の森ウルフとは違って、気配が無かったんだ」
「俺もあれほど近くまで接近されていたのに気が付かなかった。特殊個体だったのかもしれん」
「注意しておいた方がよさそうだね。それと、森ウルフが逃げ出してくるような脅威の調査も気になるよ」
時間はそろそろ昼頃だ。
森ウルフの群れとの激しい戦いの後なので、休憩も取りたいけれど、脅威は気になる。
「森ウルフ以上に強いモンスターがいるんだとしたら、今の内に休憩した方がいいんじゃないかしら?」
「ミリアの提案には一理ある。一戦交えて消費した体力も、回復させる必要があるな」
「アタシもお腹ぺっこぺこだよー……。どうしてもMP消費すると、お腹が減るわ」
「僕はちょっと、けん玉の練習をしてから食事するから、みんなで先に食べていいよ」
(な、なんですって!? 残念スキルなのに、ちゃんと練習までしてるの!?)
「え、ええと、ザンネンほどの達人でも、けん玉の練習は必要なの?」
ふんわりと聞いてみる。
「戦闘には役立たないけれど、せっかくのスキルだから、毎日練習してるんだ」
「尊敬するくらいの心がけだわ……」
役立たないとしても、練習はやる。
それがザンネン・ソレガアッタという漢である。
けん玉の練習を始めたザンネン以外は、保存食のベーコンやパンを食べる。
みんな食事をとりながら、ザンネンのけん玉を見ていた。
(本当に上手だわ。流れるように技を決めてくわね。というか、他のみんなが食事中にちょっとでも戦闘のストレスを軽減出来るように、わざと今やっているのかもね)
ザンネンはそういう男だ。
もしかしたら、斥候以外にも道化師とかやったら向いているんじゃないだろうか。
「ザンネン、気を遣わせたようだな。次は俺が見張るから、お前も食べてくれ」
「ふふっ。トーマスには色々とバレバレだね。お言葉に甘えますか」
「ふー! お腹いっぱい! そういえば、さっきMP貸してもらって助かったわ! ありがとうミリアお姉ちゃん♪」
「どういたしまして。役に立てたならよかったわ。その代わり、今度魔法を教えてね?」
「うん! お姉ちゃんにならいーよ!」
トーマスとザンネンは、そんな私たちのやり取りを横目で見た後で、お互いに目を合わせて微笑んでいた。
(わたし、このパーティーの雰囲気好きだなぁ。こういう暖かい人達となら、この異世界を旅してみたいな……。きっと楽しい気持ちで冒険出来るでしょうね)
ふふっと笑みがこぼれる。
だがしかし、そのほのぼのとした食事タイムは、突然聞こえた咆哮により、中断された。
グオォォォォーー!!
空気が震え、森の地面が震動する。
「! これは……! ただごとじゃないぞ! 森ウルフが逃げ出してきた原因は、あの咆哮の持ち主に違いない!」
あの迫力だ、体が小さい生物が発したものじゃないだろう。
「トーマス! 偵察に向かうかい?」
「あんな咆哮は聞いたことがない。かなりの強いモンスターだろう。それを偵察するのは危険すぎる」
そこへエリーが口をはさむ。
「でも、アレの情報を持ち帰らないと、調査完了とは言えないんじゃなかったの?」
「ザンネン一人を先行させると危険が多い。どうするべきか……」
めずらしくトーマスが悩んでいるようだ。
この場合、時間を止めて逃げられる私が向かうのがいいだろう。
最悪でも連続で時間停止すれば、よほどの事がない限りは大丈夫だ。
「私が先行して偵察しましょうか?」
「……危険だぞ?」
「ミリアお姉ちゃんが行くなら、アタシも行く! 時間を止めている間に逃げるのは同じ事だし、お姉ちゃん一人で行かせられないよ!」
なんて健気な子なんだろう。
ツンデレだけど。
「トーマス。乗りかかった船だ。全員で向かってみて、ダメそうだったらみんなで逃げよう」
「ああ、すまないな、みんな」
「だいたいアタシにかかれば、あんなの楽勝よ!」
「油断しちゃダメよ。エリー」
私たちはまず、武器や装備を点検した。それが終わったら、次はポーションだ。
この世界の回復ポーションは非常に高価らしいので、1本しかストックが無い。
そしてそれを、私が預かることになった。
(時間を止める以外の戦闘力が低いから、この役割は妥当ね。時間を止めて回復する事も出来るし)
準備を整えた私たちは、咆哮の聞こえた方角へ向けて、進み始めた。
【ミリアとエリーの仲良し姉妹生活コーナー】
ミリア! エリー!
仲良し姉妹の私生活コーナー!!
ねぇねぇ、ミリアお姉ちゃん。今日はス〇バ行って、ゆっくりお話しでもしようよ!
エリー、スタ〇もいいけれど、私がお取り寄せしたシュークリームが届いたの。だから今日は、私が淹れた紅茶と一緒に甘いものを食べて、お家でゆっくりしない?
わぁー! さっすがお姉ちゃん! 私もあそこのシュークリーム大好き!
じゃあ、一緒に食べましょうね。
わーい! お姉ちゃん大好き!
???……はっ!? ゆ、夢か……。
ごめんなさい、いつものです。
ちなみに本編とは関係がありません。
いつも私の小説をお読みいただきありがとうございます!
よろしければそのまま本編(後書きも?)をお楽しみください。
今ならエリーのほっぺたについたクリームを、優しく拭いてあげるチャンスを与えます。
引き続きこの小説をお楽しみいただければ幸いです。
ぺこり。




