15話 清潔にしてから、クエスト達成報告をする
前話のあらすじ:オオカミの群れは無事撃退したが、不快な気分になった。
ミリアルドの町に帰り着いた私。
門をくぐろうとすると、つい数時間前には私を三度見していた門番が、私が近くを通ると目を背けた気がした。
(あかん! 美少女としてこれはあかん! 一刻も早くお風呂に入らなきゃ!)
……これは使うしかあるまい。
(時間停止レベル2!)
私以外の全ての存在の時間が1分間止まる。
(時間停止レベル2! 時間停止レベル2! 時間停止! 時間停止……)
時間停止が切れて周りの時間が進み始めるたびに、私は時間停止を再使用しながら、やっとの思いで宿に辿り着いた。
(もちろん、宿の中も時間停止して部屋まで戻ったけどね)
お風呂の中で髪と身体を洗い流しながら、一息つく。
「あちゃー。能力の使い方としては、かなり邪道よね。でも私の思い描く美少女像を守る為にはやむを得まい!」
私が美少女としての振る舞いに気を遣うのは、元々男だった時に、理想の女性として想像していた姿を自分に重ね合わせたからだ。
「よく考えたら、時間停止を何の問題も無く連続使用出来たわね。やっぱり、効果が切れてもすぐ次に使用出来るのは間違いない」
そして、もう一つ気が付いた事がある。
時間停止状態が切れる5秒前から天の声のように、カウントが聞こえるようになった。
これなら、頭の中で経過時間を数える必要も無さそうだ。
私はオオカミの群れとの戦いの疲れもあって、お風呂に浸かりながら眠くなってくる。
(眠い……。とりあえずクエストは達成したから、明日は冒険者ギルドへ行かないとね)
私はお風呂から上がり、服を着る。
久々に解放されたおっぱいは、お風呂に入り着替えた後のシャツの中で、歩く度に踊り狂う。
(むー。おっぱいに巻く布を買い足さなきゃ。試しに2枚だけ買ったけど、冒険者として活動する以上、おっぱいが揺れ動いて、身体の動きを妨げるような状況は避けたいし)
サイズの大きな女性の悩みは深い。それは武器でもあり、悩みの種でもある。大体、重い。肩がこる。しかもジロジロ見られる。
(男だった時は私もチラチラ見てたけどね)
隅々まで念入りに洗った為、もう夕方近い。高級宿のランドリーサービスを利用する事にした。
布の服に、チュニックとズボン、それに下着のシャツとパンツ。さらに胸に巻いていた布だ。
全てオオカミ臭さをたっぷり含んでいたので、ランドリーサービスに出す。
全部合わせて銀貨1枚だそうだ。袋から銀貨を取り出し、支払った。
(ごっはーん! ごっはーん!)
私は軽やかな足取りでレストランへ向かい、夕食を食べる。
今日のメインは、十面鳥のロースト~旨辛ソースと共に。
デザートにはゼリーが出てきた。
(まさか、これがぷよぷよゼリーって事はないよね)
ぷよりんが脳裏から離れないのであった。
宿の部屋には、癒し草を飾ってみた。花瓶は宿が貸してくれた。3泊しているので、受付ですんなりと貸し出してくれた。
ついでに3泊延長するのも忘れない。
1泊だとクエスト先で野宿するような事態があると、チェックアウトに間に合わないかもしれない。
一応この宿は、ランクの高い冒険者が泊まる事もあるので、チェックアウトまでに宿泊客が戻って来なかった場合には、受付で荷物を預かってくれる。
そうしないと、部屋の回転が悪くなり、収支に影響を与えるからだ。
特に冒険者は出先で死亡したりすれば、二度と荷物を取りに来ない事もある。
(宿の人も色々大変ね)
そして私は大きなベッドで眠りについた。
翌朝。
「ふわぁ、よく寝た」
部屋のカーテンを開けると、外は雨だった。
「この世界に来てから雨は初めてだ」
今日は冒険者ギルドでクエストの達成報告をしなくてはならない。
ついでと言ってはなんだが、背中に木の生えたオオカミの事も報告しよう。
私は起床後のルーチンワーク(身だしなみチェック)を済ませると、着替えて朝食を食べに行く。
ちなみに、今日からは不要なお金を持ち歩かない事にした。
部屋には鍵がかかるのだし、オオカミと戦った時のように邪魔になる。
だいたい私はおっぱいが重たいので、不要な荷物を増やすべきじゃないのだ。
ということで、袋に入れて持ち歩くのは金貨2枚と銀貨2枚、それに銅貨10枚だけにした。これでも結構多いぐらいだ。
(出先でお金が急に必要になる事もあるだろうし、金貨じゃ支払えない所も多いし、仕方ないよね)
朝食を食べてから、受付でレインコートを借りた。
高級宿なので、レインコートは無料で貸し出してくれるのだ。皮製の質のいいレインコートだ。
(時間があったら、南区で雨具を見てみたいなぁ。カワイイやつがいい)
冒険者ギルドに向けて出発する。
「サントスさん、おはよー!」
「おう姉ちゃん! おはよう! 今日もキレイじゃねーか! がはは!」
「もー! サントスさんお上手なんだから! またねー!」
日課の挨拶を済ませる。
サントスさんの屋台にいた他の男性客からチラチラ見られたのは言うまでもない。
(サントスさんの屋台の串焼き、美味しいんだけれど肉ばっかりになるからなー。この世界にはネギマとか無いのかな? 提案したら喜ばれたりして)
そんな事を考えながら、冒険者ギルドに到達する。
まずはソーマに挨拶だ。
「おはよう、ソーマ!」
「あ! ミリアさんおはようございます。昨日の内に戻って来なかったので、心配しましたよ!」
確かに、Fランクで受けられるクエストで、日をまたぐような内容のものは殆ど無かった。
(でも昨日の私には重大な使命があったの、美少女として)
「心配かけてゴメンね。昨日の内に町へは戻って来てたけど、疲れて寝ちゃったのよ」
「そうでしたか、初めてのクエストでお疲れだったんですね。クエストは上手くいきましたか?」
「薬草採取のクエストを受けたんだけど、ちゃんと指定量ぐらいはあると思う」
正確な重さを測ったわけじゃないけど、結構な重さだから大丈夫だと思う。
「それは良かったです! じゃあ、報酬受付の方で手続きをお願いします」
「わかった。またねソーマ」
「無理しないでくださいねー」
ソーマの受付を離れ、クエスト報酬受付へ向かう。
もちろんここの受付も女性だ。
朝なので、クエスト受付は混雑しているが、クエスト報酬受付はがらんとしている。
(大体みんな夕方に戻ってくるから、そりゃ朝は少ないよね)
「おはようございます。クエストの報告に来ました」
私は冒険者カードを取り出し、受付嬢に差し出す。
クエストの受注状況は冒険者カードに記載されているのだ。
「おはようございます。えーと、薬草採取ですね。計量しますから、となりの台に袋ごと癒し草を置いていただけますか?」
私は癒し草がたくさん入った袋を台に乗せる。
台は大きな鉄製の量りで、天秤のように重しを下げる事で重量を量る仕組みのようだ。
受付嬢がテキパキと重量を量り、ウンとうなずく。
「3kg超えてますね! 依頼の2kgは達成してますし、癒し草は薬草以外に観賞用としても価値があるので、残りの分はギルドで買い取りも出来ますが、どうしますか?」
「じゃあ、買い取りでお願いします」
「では、こちらがクエスト報酬の銀貨1枚と、買い取り分として銅貨30枚です。すみませんが、依頼の報酬として出される金額よりは少し安くなります」
ギルドは冒険者から直接買い取った品を市場で転売する。
その手間賃もあるので、安くなるのは仕方がない。
「わかりました。ところで西の森の癒し草が自生している辺りに、背中に木が生えたオオカミの群れがいたけれど、何ていう名前かわかるかな?」
「えぇ!? ちょ、ちょっと待ってください! 森ウルフの群れに遭遇したんですか!? ミリアさんはFランクですよね? 森ウルフなんて、1匹だけでもCランク冒険者でやっとソロ、Dランク以下だとパーティーを組んで戦う相手ですよ!? 群れっていう事は複数いたんですよね!? 何頭くらいいましたか?」
(そんなに強いモンスターだったのね。道理でゴブリンと違って一発で首を切れなかったわけか)
「20頭以上はいたと思うわ」
「20頭!? よく生きて帰れましたね。逃げたんですか?」
「いえ、時間を止めて9頭ぐらい倒したんだけど……」
「倒した!? 一人でですか!? しかも9頭も!? これはギルドマスターに報告しなきゃ!」
しまった、私またあの怪人(軽度の変態)に会わなきゃいけないパターンだ。
【ザイゲルブートキャンプのコーナー】
諸君、わたしのブートキャンプによく参加してくれた!
これから諸君らは、わたしのような理想的な肉体を手に入れる為に訓練をおこなう!
わたしに何か言われたら「サー! イエッサー!」で返事をしろ。
わたしが何も言ってなくても「サー! イエッサー!」と言え。
さぁ! 今日はまず腕立てふせから始めるぞ!
一に筋肉ぅ! 二に筋肉ぅ! 三も四も五も筋肉ぅ!!
???……マスター。いい加減にしないと読者様がドン引きですよ。
後で冒険者ギルド本部に「マスターが変な商売を始めた」と報告しますから。
待て! はやまるな!
いつも私の小説をお読みくださいまして、ありがとうございます。
よろしければそのまま本編(後書きも?)をお楽しみください。
今なら、ギルマスの肉体美を特等席から思う存分眺められる、ディナーチケットを差し上げます。
ぺこり。