12話 防具屋 in 東区~ジェイドを添えて
前話のあらすじ: ミリアルド冒険者ギルドマスターはムキムキマッチョで筋トレマニア(軽度の変態)だった。
「ふわぁぁ~、よく寝た」
今日も良い朝だ。
顔を洗って鏡を見ながら寝ぐせを直し、身だしなみチェックする。
「うん、今日もOK! ちゃんと美少女!」
私の女子力は今もグングン成長しているに違いない。
元男だけど。
というか、息子がなくなった程度でナヨナヨするなんて漢らしくないとか諸兄に言われそうだけど……。
「違うんだ、もうこの美少女完璧ボディーの為に私は身も心も完璧な女になるんだ!」
というより、もう女としての生活しか望めないし。
失った息子と童貞をこじらせた男について泣いている場合ではないのだ。
相変わらず宿の朝食はすごく美味しかった。
ほっぺた落ちた。
特に今日出たサケの塩焼き。
「まさかサケの塩焼きが食べれるとは。大満足!」
今日も美味しい食事で私はご機嫌だ。
ルンルンとした足取りで防具を買いに東区へと向かう。
「ソーマが紹介してくれた防具屋はここかな?」
いかにも防具屋だと主張する盾の形をした看板もあるし、間違いない。
店の中へと入る。
「やぁ、いらっしゃい。防具をお探しかね?」
「ええ、少し店の中の防具を見てもいいですか?」
「構わんよ」
どういった防具を買った方が良いのかは、ここまで歩いてくる間に考えておいた。
私には時間制御スキルがある。
絶対的に有利な立場で戦闘を進められる。
ただ、魔導士とは言え、今の所他の魔法が使えないので、時間を止めている間に近接攻撃で仕留めるしかない。
弓という選択肢もあるのだけれど、生憎私は扱った事が無いし、一から練習するのはめんどくさい。
この世界にはまだ火砲は登場していない。
であれば、やはり武器は剣を使うのがいいだろう。
女性の私には重たい鎧は不向きだし、時間を停止している間に仕留める為には動きやすくないといけない。
(お目当ては胸当てと肘当て!)
異世界の鎧や盾に興味もあったので、一通り店にある防具を見て回る。
胸当てと肘当ても、鉄製だったりミスリル製だったりと、様々な品揃えがあった。
(立派な甲冑もある。さすが商業都市。それに、ソーマが紹介してくれただけあって女性向けの防具も豊富ね)
「どうだい姉ちゃん。買いたい物はあったかい?」
「この胸当てと肘当てを買おうかと思うのだけど、女性でも扱いやすい?」
私が目を付けた胸当てと肘当ては、イビルリザードというモンスターの皮を使った物だ。
「それなら金属製より断然軽いし、ミスリル程には高価じゃないから、オススメ出来るよ」
「じゃあ、これを買うわ」
「胸当てが金貨5枚、肘当てが両手分で金貨1枚だ」
服と同じく、防具も結構お高い。
皮製とはいえども手作りだし、素材代もかかるのだから当然だ。
「はい、金貨6枚ね」
「毎度あり。姉ちゃんサイズが大きいから、止め紐が緩むのが早いかもしれん。もし止め紐が緩くなって、防具が戦闘中に落ちたりしたら致命的だから、そうなる前に持ってきなさい。直すから」
(サイズの事は余計だ!)
「……その時はよろしくね」
よっし! 防具も手に入れたし、これから冒険者ギルドへ……。と思った矢先。
「おや? こんな所でまた貴女と再会出来るとは奇遇だな」
「え?」
呼ばれて振り返った私の視界には見覚えのある領主の息子がいた。
ジェイド・ミリアルドだ。
「ミリアルド様ではありませんか。先日はありがとうございました」
「なに、貴女のような美しい方に、より美しくなる為の手助けをするのは当然の事」
「あ、では私に目が眩むような大金を下さったのは、そのような目的があったのでしょうか?」
ここ数日の私の異世界ブルジョワ生活は、このジェイドが施してくれた金貨のおかげで成り立っている。
そしてそれは、自分を磨く為にも使っていた。
暴漢に襲われるような心配の無い高級宿に宿泊し、周りに恥ずかしく無いようにドレスを買う。
下手な仕事をしなくても、しばらくは女として揃えたいものを買いつつ、楽に暮らせるお金を渡す。
自分に釣り合う女が勝手に育つ。
……あれ? 私の行動ってジェイドの思う壺じゃない?
手の平の上でコロコロと転がされてない!? 私!?
(ま、まさかそこまで出来る男だったの……!?)
恐るべきジェイドの知略。
そうして私を篭絡して、最終的に男と女の関係に持ち込もうという策略か。
なんという策士っぷり。ちょっとクラっと来た。
イケメンだし。
ミリアルド領主の長男であり、将来は安泰。
正妻ならば玉の輿確定。
だが恋愛関係も肉体関係も断る。
私は自分が女らしくする事には、もう抵抗が無い。
だけれども、男とそういった関係になる気にはなれない。
(だって、私ノンケだし全然興味が持てない)
「ところで、貴女のようなお美しい方が防具を買うとは、冒険者にでもなるのか?」
「はい、昨日冒険者登録を済ませたので、今日の午後はクエストを受けてみるつもりですわ」
「そうか、では公爵家の私兵を200人ほど護衛に付けるから、貴女は馬車から兵達の戦いぶりを応援すればよいぞ。Bランク位のクエストならば、よく鍛えられた兵が200人おれば解決するだろう。それに、吾輩は貴女に危ない思いをして欲しくないのだ。」
(コイツとんでもない事を言い出したー!!)
それはもはや冒険者ではなくて、軍隊を率いる指揮官……。
(いや、部隊の士気を高める為に前線へ出るお姫様状態じゃない。)
そこまで厚遇しようとするのは、私に気があるからなのは、間違い無いだろう。
私(元男)だからこそ、男が女を想う時の感情は手に取るようにわかる。
でも、今の私が望んでいるのは、200人の私兵部隊を率いる冒険者像ではないので丁重にお断りしよう。
「あの、ミリアルド様。お申し出やご心配はありがたいのですが、私は薬草採取などの危険の少ないクエストで、生活費を稼ぐ予定なのです。ミリアルド様に頂いた金貨もまだたくさんございますし……。それに私も色々と経験を積んでみたいのです……」
私は、前回ジェイドに効果的だった上目遣いを駆使して、ジェイドを納得させるべく、潤んだ目でじっと見つめる。
「……。ゴ、ゴホンっ! そういう考えがあるのであれば、仕方あるまい。だが、くれぐれも危険な事はしないでくれ。そして辛くなったら吾輩の所へ来るがよい。相当の待遇を約束する」
(最初は私がスレンダー巨乳美少女だから、妾にでもするつもりなのかと警戒していたけれど、この人結構真面目なのね)
危ない、なんだこの感情は。
つい先ほどジェイドの思う壺だと思ったばかりなのに、私はドンドンとドツボにはまっているじゃないか。
(えぇーい! 私は元男! 男を好きになるなんてある訳ないじゃない!)
「……貴女は自分の頭を横に振りながら、何を悩んでいるのかね?」
(あ、今すごく自然に態度に出てた)
「い、いえ申し訳ございません、ミリアルド様の手前でお恥ずかしい所を……」
「気にするな。それより、これから貴女の事をミリアと呼ばせて貰ってもいいか?」
「あ、はい、もちろんでございます」
「そうか、ならばミリアも私の事はジェイドと呼べ。堅苦しい敬語もいらん。普通に喋ってくれてよい」
それは助かる。
ただでさえまだ慣れない女言葉を使いこなせていなくて、口調も定まらないのだから。
敬語なんて余計に難しかったのだ。
「わかりました、しかしさすがに領主様の長男である貴方を呼び捨てにするのは気が引けるから、ジェイド様と呼んでもいい?」
「ミリアがその方が呼びやすいのであれば、構わぬ」
「ありがとう」
私ははにかんだとびっきりの笑顔で応えてあげる。
恋愛感情は抜きにしても、感謝の気持ちは笑顔で伝わるに違いない。
「……。では、私は次の仕事もある故これで失礼する。また会おう、ミリア」
「はい、ジェイド様もお仕事頑張ってね」
そういえば何故ジェイドは狙ったかのようにピンポイントでここに現れたのか?
疑問を抱きつつ、私は宿へ一旦戻り、防具を装着してから、冒険者ギルドへ向かうのであった。
【ジェイド様による意中の女性を射止める為の10手順教室】
吾輩のコーナーへようこそ、諸兄たちよ。
今日は手順1を諸兄に訓辞しよう
まずは相手が誠実か、見極めるのが肝要だ。大金を前にして、すぐ受け取るようではだめだ。吾輩がミリアに取った行動が全てを表しておる。
おおいに参考にするのだ。
これ、そこ、いくら吾輩の訓辞が素晴らしかったとはいえ、漢が泣いてはならん
???……ジェイド様? いくらジェイド様とはいえ、他の男にこんな話をしているのは放っておけませんよ? 後でおしおきですからね。
ちょ、待てミリア、あそこにいる作者にこれを喋らなければミリアとの関係をバッド展開にすると脅されたのだ吾輩は!
はいはい、言い訳は後で聞きますから、帰りましょうね。
すいません、つい出来心で長々と書きました。もうしません。許してください。
ちなみに本編とは関係ありません。ただのネタです。
いつも私の小説をお読みくださいまして、ありがとうございます。
意外と面白い、主人公のラブコメがどうなるのか気になる。まぁ読んでやるかと思ってくださる神がいらっしゃれば……。
引き続きお読みくださるとうれしいです!
ぺこり。