11話 ミリアルドの怪人(ギルドマスター)と会談する
前話のあらすじ: けん玉に絶対失敗しないという恐ろしいスキルの持ち主もいるらしい。
……ではなく。
本当の前話のあらすじ:自分のスキルを冒険者ギルドで隠そうとしたが、無駄な抵抗だった。
「ではまず、冒険者ギルドの仕組みについてご説明しますね」
受付嬢が説明してくれた内容はこうだ。
この世界の冒険者ギルドは世界各国の一定規模以上の町に支部がある。
このミリアルドの冒険者ギルドも支部扱い。
それと、国家間の戦争などにはギルドは関与しない事になっているそうだ。
「どの国にもギルドがあるから、国家間の争いには不干渉ってこと?」
「その通りです」
冒険者にはランクがあり、A~Fまでのランク付けが行われている。
私は冒険者登録したてなので、Fランク。
このランクはクエストの達成数やクエストの難易度、受注したクエストの成功率により上下するそうだ。
「冒険者ランクが上がると、受けられるクエストの質が変わり、より難易度が高くより報酬が良いクエストを受注出来るようになります」
「いきなり難しいクエストは受けられないっていう事ね」
「そうです」
困難なクエスト(フラッシャー容疑のある男を現行犯逮捕するとか、そういった心の耐性を試されるクエスト)もあるかもしれない。
ひよっこどもには耐えきれない苦行に違いない。
「冒険者カードにはランクや氏名など、先ほどミリアさんに書いて頂いた情報が表示されます。そして、職業とスキルの取得状況などが表示されます」
パーソナルウィンドウは、より個人的な情報まで表示してしまうので、余り他人には見せるものでは無いらしい。
パーティーを組んだりする際に、自己紹介に使いやすくしたものが冒険者カード。
というような扱いだ。
「とりあえず一通りの事はご説明致しましたから、ギルドマスターの所へ行きましょうか」
「はいはい、ちょっと緊張するけど行きましょう」
ギルドマスターの執務室はミリアルド冒険者ギルド支部の一番奥にあった。
受付嬢がドアをコンコンとノックする。
「マスター、ご報告があります。入ってもよろしいですか?」
「い、今はダメだ!! あ、あぁぁぁーん!」
私はこの部屋に入る事を全力で拒絶したくなった。
ヤバい。どう考えてもヤバい叫び声が聞こえた。
「変態だ!?」
「……えーと、ギルドマスターはちょっと変わった人ですけど、大丈夫! 悪人じゃありませんから! 怖くありませんよ?」
そう話す受付嬢の顔が引きつっていた。
あかん……これあかんやつや……。恐るべきミリアルドのギルドマスター……。
会う前から恐ろしい程の戦闘力を醸し出している。
「ねぇ! 本当に大丈夫なの!? さっきから何だかハァハァ聞こえるし、ここのギルドマスター本当に大丈夫!?」
「大丈夫です! 仕事はすごく出来る人なんです! ちょっと変態ですけど」
「えぇぇぇー!? それはダメなんじゃないの!?」
しかし結局この可愛らしい受付嬢の立場を守る為には対峙せざるを得ないだろう。
変態と!!
「……マスター。いい加減そろそろ入ってもいいですかね?」
「ハァハァ……。もういいぞ。入りなさい」
私は震えていた。
そう、これからつい今しがたハァハァ言っていた変態と対峙するのだ。
それは恐怖以外の何者でも無かった。
私が戦慄していると、受付嬢が扉を開く
開けちゃダメー!! と叫びたくなるが、どうしようもない。
扉の先には、上半身裸のムキムキマッチョボディービルダーが、体中から湯気を立てながら大剣を片手に持ち佇んでいた。
(あ、良かった。私が想像してた変態とはベクトルが違った)
多分剣の練習でもしていたのだろう。
……そこら中に転がるクシャクシャに丸められた紙が何なのかはわからないけど。
「ギルドマスター。こちらは本日冒険者登録に見えたミリア・マンシュタインさんです。少々特殊なスキルをお持ちだったので、念の為ご報告に上がりました」
シャツを着ながらギルドマスターがこちらに向かう。
「ミリアさん、ようこそミリアルドの冒険者ギルドへ。私はこの支部のギルドマスターを務めるザイゲルだ。よろしくな。それでソーマ、この美人さんの特殊なスキルとは?」
受付嬢はソーマという名前らしい。
「時間制御というスキルです。内容は確認していませんが、少なくとも私は初めて見るスキルでしたので、報告しに来ました。マスターはご存知ですか?」
「いや、私にもわからん。ミリアさん、時間制御とはどういったスキルか、話せる範囲でいいから教えてもらえるか?」
冒険者カードでどうせ時間制御スキルを持っている事はバレるし、隠す必要も無さそうだ。
「えぇと、かいつまんで説明しますと、時間を止められるスキルです」
「えぇぇー!? そ、そんな事って」
「……いや、時間制御という名称なのだ。そういった事が出来てもおかしくはないのかもしれないな」
「あのー、私このスキルを悪用したりするつもりは無いので、ご心配なく……」
「あぁ、まぁミリアさんは女性だから大丈夫だろう。男だったら町ゆく女性にまったく気づかれずにお尻を触ったりし放題だから危険だったかもしれないな」
「マ、マスター。ミリアさんや私の前でそういった破廉恥な発言は控えてください」
(その手があったかー!!)
ダメダメ、今の私は美少女なのだ。
邪な事をするつもりなんて無いのだ。
大体男の頃だってそんな変態じゃなかったでしょうが。
「ミリアさん、どうしたんですかまたニヤニヤして?」
「あ、いやちょっと楽しい出来事を思い出していただけよ。本当だよ?」
「ならいいんですけど……」
「ゴホン、一応スキルの事で不利益な扱いを受けるような事は無いから安心して欲しい。だが、もしかしたらギルド側からミリアさんのスキルを頼って要請を出したりする事はあるかもしれん。能力の高い冒険者は貴重なのでな」
「そうなのですか。私に出来る事だったら、協力させて頂きますよ」
「うむ、その際はよろしく頼む」
とりあえず思った程には大事にはならないようだ。
受付嬢と共にザイゲルさんの執務室を出て、受付へと戻る。
「ところでソーマ、生活費も稼ぎたいしクエストを受けようかと思うのだけど、クエスト受付に行けばいいの?」
「はい、ギルドの真ん中にクエストのチラシがありましたよね? それを持ってクエスト受付で手続きして頂ければ、受注出来ますよ」
今日は時間も遅くなったのでクエストをやってみるにしても明日かな。
「もしモンスター討伐のようなクエストを受けるのでしたら、防具は整えた方がいいと思いますよ?」
確かに、武器はゴブリンのショートソードがあるが、防具は何も装備していない。
「防具というと、東区に行けば防具屋もあるかな?」
「あそこは職人街になってますから、武器も防具もたくさんありますよ。良い防具屋教えましょうか?」
「いいの? ありがとう」
受付嬢ソーマから防具屋を紹介してもらった私は、冒険者ギルドを後にして宿へと戻るのであった。
【豆知識のコーナー】
よくぞいらっしゃった。ここは(変態について詳しくなる為の)豆知識を授けるコーナーじゃ。
話中にフラッシャーという言葉が出てきたのう?
気になる紳士淑女はググってみるのじゃ。
あ、あれか!と納得するに違いないじゃろうて。
ほっほっほ。
ごめんなさい、ネタです。スルーしてください。許してください。
いつも私の小説をお読みくださいまして、ありがとうございます。
ぺこり。