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2章8話 アカとアオのアタック1

少し長めです。

なんだかんだ言って書く時間が取れているという不思議……。

 その次の日、三人は再び六階層目を訪れていた。武器は前回と同じものでストップウォッチもゼロにしてからだ。


 アカとアオから強い願望があったからこそ、もう一度同じ階層から挑んでいたのだが、洋平には疑問があった。


「にしてももう一回来る必要性あったか?」

「もしや偶然で死ぬこともあるからね。キチンと連携して倒したいの」


 実際は魔物のエンカウントが少なくなり、なおかつ人が滅多に来ないジャックでイチャイチャしたいだけだったのだが。


 洋平がそこまで気づけるわけもなく二人に感心した目を向け、「確かにな」とだけ言った。


 魔物が昨日ほとんど倒されたために大してエンカウントすることもなくボス部屋までたどり着く。珍しく中で人が戦っていたが、一分ほどで扉は開いた。


「人はいないな。じゃあ行くぞ」


 マーメイドが現れ足元にいくつもの魔方陣らしきものが展開される。これは魔物特有という訳ではなく、悪魔や人でも展開する者がいることを洋平は知っていた。


 アカとアオは魔方陣を作らず、そして詠唱もなしで魔法を撃てるがこれは珍しい分類である。イメージしづらい生産スキルで無詠唱の洋平はなおのことだ。


 魔方陣は詠唱をなしにする代わりに大量の魔力を必要とするものである。悪魔であっても人であっても魔力量が多いものが付けることは少なくない。


 アイテムなどで負担を減らせることも関係している。魔力量の底上げはマジックアイテムで行えるし、魔方陣は体の一部にそれを作ればいいだけだ。詠唱ほどのロスは少ない。


 ちなみに魔物は詠唱するための口がないために地面等にそれを展開しているのだが。


「って、水か」

「侵食土」


 洋平の驚きなど意にも介さずに水で覆われ始める部屋に一つの島ができる。あまり広さはないが動くには十分な大きさである。


 マーメイドの魔方陣の展開は収まらずに二十数体の半魚人が現れる。鑑定にはリトルマーメイドと出ているのだが、


「グロい見た目だな。……にしても確かに強さは別格だ」


 マーメイドと付く割には顔が魚と変わらない。そこにファンタジー特有の可愛らしさなどなかった。近くにいるマーメイドはとても美しいのにだ。


 六階層目からは魔物の強さが大幅に上がる。それを初めて実感した洋平であったが、飛びかかってくるだけのリトルマーメイドに嫌気がさしていた。


 飛びかかってくるリトルマーメイドをただレヴァティーンで切るだけの行動。しかしそれにも終わりが来る。


「ルアァァァ」


 痺れを切らしたマーメイドがいくつもの魔方陣を出し水球を作り出す。洋平はそれを見て待ってましたとばかりに口を開いた。


「来扇」


 いくつもの電撃が水面を走る。


 マーメイドの近くに水球が出現しているがまだ発射はされず、それごと雷がマーメイドを食らう。最初は半分出ていた上半身を、そして逃げようとして潜る際に現れた下半身を。


 すぐに沈んでなんとか耐えきったマーメイドだが、残りの二人が追撃しないわけがなかった。


「火球」


 前回ほどではないが大きな火の玉がアオとともに水に沈んでいく。火が水で消えるのに対して火の玉が消えることはない。逆にプスプスと水を蒸発させていくほどだ。


 そしてようやく見えた頭にアオが小さく呟いた。


「隆起」


 マーメイドの足元から一つの地面が隆起していき全体を顕にさせる。火球によって呼吸も暑さからも耐えていたアオであったが、さすがに限界がきたのか身を翻し水へと落ちる。


 火球はまだ消えていなかったためマーメイドに当たるがその大きさはとても小さい。少しだけマーメイドを焼いただけだったので、マーメイドも口をニヤリと尖らせる。


 だが油断をしたマーメイドに槍が突き刺さる。投げられたために相手を瞳に映すことなくマーメイドは光に変わった。


 その瞬間に水が消えてなくなる。


 ダンジョンの仕様であるのだが、深さがある程度あったためにアオが顔から地面に落ちる。


「い、痛いです」

「はいはい、あんな身勝手な行動した自分が悪いでしょ」

「俺にはさせられないとか言っていたのに、自分はいいのか」


 洋平の愚痴にアオは「すいません」と答えるが、洋平よりもアカの方が酷かった。


「行くなら私が行くのに。それに最初っから地面を隆起させていれば」

「いや、魔力面を考えてのことだろ」

「それくらいならできるでしょうけど、マーメイドがここまで強いとは思わなかったので。地面を作り出してその上でまた水面にされたら溜まったものではありませんし」


 アカと洋平は揃ってため息をついた。それが仲良さげでアオが頬を膨らませる。


「まあ、大きな怪我もなくてよかったよ」


 頭を撫でられたアオの表情が綻ぶ。もちろん、頬の膨らみもなくなってしまった。


 素材を回収して下の階層へ降りていく。洋平の頭の中にはマーメイドの強さがおかしい、というアオの言葉が頭に残っていた。


 イベントでもあるのだ。魔物の強さが劇的に変わることが。


「……なあ、マーメイドの強さがおかしいって言ってたが、よく考えれば魔物の量も異常じゃないか?」

「そうですね。極端に少ないように思えます。六階層目以降は人の出入りが少ないはずですし」

「……まさか、ダンジョンでの異常?」

「それで済めばいいんだけどな」


 片手間で七階層での敵であるリトルマーメイドを屠りながら三人は会話をする。辺りは水辺であり明らかに魔物優位であるにも関わらず、三人にこれといった怪我は見受けられない。


 ダンジョンで六階層目以降は人の出入りが少ない。となれば否が応でも多数の魔物と出会うのだ。なのに三人とも最初に集めた時以来、魔物とのエンカウントが少ない。一日で回復する魔物の量が少ないのも変なのだ。


 七体のリトルマーメイドを倒した所でボス部屋へとたどり着く。三人はこれといった感慨深い気持ちもないままで中へと入った。


「コボルトジェネラルだ。……誰かここで死んだな」

「そうですね。敵の出現はなかったですし」

「関係ない、よっと」


 三人が視界に入った瞬間に駆け出していくコボルトジェネラルだったが、入った瞬間に魔法を展開していたアカには無意味であった。


「火雷」


 火の電撃がコボルトジェネラルを襲う。簡単に言えば雷の蛇が炎を纏っているような見た目である。


 最初は大して痛がりもしなかったが、徐々にその毛皮を焼いていく。ついに肉を焼いたところでコボルトジェネラルは光へと変わった。


「元々、ダメージはそれなりに受けていたみたいだな。……ってかアカが単独で倒してしまったし」

「アカは身勝手な時がありますからね」

「うっ、何も言えないよ。でもでも、倒したからいいじゃん」


 洋平は「そういうことじゃないよ」と言いながら頭を撫でる。最初こそご機嫌取りでやっていた洋平であったが、段々とそれをやる心地良さにハマってしまい勝手に手が出てしまっていた。


「連携は必要になるからね。まあ、このままの流れで行くか」

「実際、主よりも格下だと思います。多分アカはものすごく手加減して撃ったのに倒れてしまった感じがするので」

「ソッソウダヨー」

「まあ、抜けがけは許せないですけどね」


 アカの目が泳ぎアオはふっと口を綻ばせた。


 昨日の喧嘩以来アカとアオは決めたことがあった。それは何があっても主を守り共にいることである。




 ◇◇◇




「アカ寝ました?」


 もぞもぞと小さなベットで何かが蠢く。


「……寝れるわけないでしょ。主にみっともない姿を見せて、そして本心を知っちゃったんだから」


 アカが毛布から顔を出しベットから出る。二人は月光に照らされた椅子へと腰掛け小さな声で会話を始めた。


「セイナさんのことでしょ。それに主も同じ穴のムジナだっただけ」

「そうですね。昔から人の社会から隠れて生きていましたから。親ももう死んでいるでしょうし」


 アオはため息混じりに言葉を吐き出した。


「多分、あの貴族は悪魔だったよね」

「えっと、確かこ」


 何かを言いかけた時に毛布が動く。


 洋平が起きたのかと二人は体をびくつかせたがすぐに寝息が聞こえ息を吐く。


「そうだね。確かにそこで働いているって言ってた。それに騎士の人だってさ」

「きな臭いですね。貴族派も騎士そのものが」


 二人は一度だけ騎士とあったことがある。


 それはエイトの街に運ばれている最中に荷積確認のために顔を見せた五人の騎士だ。奴隷が女性だったからなのか、その騎士五人も女性である。


「それに、どうせ眠れなかった理由は他にあるんですよね」

「あはは、バレた? 主の寝顔が可愛くてね」


 二人とも毛布から顔を出している洋平の顔を見つめる。月光のみが部屋を満たすだけなのであまり明るくはない。


「……アカ、幸せになろうね」

「親の分も含めてね。産んでくれたことを今になって感謝するよ」


 アカとアオが今まで生きてきた中で必ずしも幸せな人生だったとは言えなかった。並大抵の人ならば精神を壊すような道のり。


 小説の物語であれば陳腐な、大したことない話であろうが体験した二人にとってはそんなことで済ませることはできない。


「……残念な可哀想な二人でしたね。悪魔に恋だなんて普通はしないでしょうし、愛し合うなんて常識的に考えて無理だと思ってました」


 いつか言った悪魔の女性である母の言葉。


『いつか私の気持ちがわかるわ。いい男の人に恵まれてね』


 その後、父と一緒に二人を逃げられるようにするために捕まった両親。そして王国領でギロチンにかけられた二人。


 悪魔はとても強くその死体すら武器や防具へと変わる。つまりは母の死体はこの世にはないのだ。


 洋平に出会うまで両親に感謝すらしなかった。外で自由に遊ぶことすらできない、そんな不自由な生活は嫌であり、奴隷として捕まってからもそうだ。


 些細な偶然で得た確かな幸せ。

 アカとアオがそれをなくさないようにするのは当たり前だろう。そして二人といることで幸せを感じられる洋平にとっても。


 だからアオは口を開いた。


「ハーフの私たちなら尚更、ね。だけど主ならもしかしたら……」

「抜け駆けは無しですよ。二人で一緒に幸せになりましょう。きっと今回のことで関係は多少良くなったと思います」


 そう言って二人は再度、ベットの中へと身を寄せた。ピタリと洋平に引っ付き離れない。


 そこから時間もかからずに二つの寝息が聞こえ始めるのだった。




 ◇◇◇




「二人ともどうした?」

「いえ、何でもないですよ」


 三人は素材を回収する。


 後、三階でジャック攻略だと思えば洋平の心はとてもウキウキと弾んでいく。それに対してアオの心には疑念で一杯だった。


 いくら手負いであったとしてもマーメイドより一階層上である魔物であれば耐えきれたはず。なのにコボルトジェネラルは耐えきれなかった。


「主、気をつけた方がいいかもしれないです。ダンジョンだけじゃなくて外に出てからも」


 アオにできることは大切な二人に忠告するくらいであった。

アカとアオの過去は少しずつ出していきます。

こんな感じで騎士と二人が絡んでいた、みたいな感じでやっていこうと思います。ただあんまり複雑にしないつもりですので手軽に読めると思います。


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