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2章7話 ダンジョンアタック6

 日もくれぬ中、三人は歩いていた。


 まだ真昼間で賑わいが絶えない。商人にとって、冒険者にとっては稼ぎ時である。


 そんな勇み足とは正反対に三人の足取りは悪い。傍から見れば大しておかしな点はない。そのため少女二人が絡みそうな足を意識的に動かしていることに気づく者は少ないだろう。


 もはや自宅とかしたマリアベルの店は閉まっていた。合鍵を取り出し中へと入った三人はリビングの椅子へと腰を下ろした。


 対面に座り肘をつきながら二人を見つめる洋平。アカとアオはそれにビクつきながらもただじっと座っていた。


「ちょっとお茶入れてくるから少し待ってて」


 見つめて待っていても元に戻らない二人を見て洋平は席を立った。いつもマリアベルに入れてもらっているために棚に何があるのかはわかっている。


 黒い便に詰められた紅茶の茶葉を急須に似ているポットの中へと入れ、火魔法と水魔法でお湯を注いだ。


 三人専用のカップに紅茶を注ぎ保管庫から小さな黄色い果物を取り出す。レモンそっくりだがレモンではない。ミカンとレモンの間に位置する果物を薄く切りカップに差した。


 洋平は項垂れている二人の前にカップを置く。


「……初めて淹れたんだけど、どうかな?」


 それを聞き手をカップの持ち手にかける。


 少し口を含んだ後にアオが微笑を浮かべた。


「……蒸してないですね。お水が美味しいのにもったいないです」

「あー、まあ俺の魔力で作られたやつだしな」


 高純度であり多量の魔力で作られた水はうまい。異世界において賢者の水なども売られているほどだ。


「……主の体から出たものでできているんだ……」

「卑猥な言い方するなよ、アカ。美味しいか?」

「初めてにしてわ、ね」


 久しぶりの辛口発言に洋平は少し喜んだ。


「で、どうしたんだ? 別に言いたくないなら言わなくていいけどさ」

「……主が寝ている時に聞いたんですけど、セイナという方です。名前や寝言から女性とわかるのですが」

「想い人……だよね。それで私たちも」

「暴挙に出たのか。……いや、良い奴だよ、あいつは」


 アオの言葉に洋平の視線が一点に集中する。それがアオのなにかに触れてしまったのか目の色が変わる。


「暴挙じゃないです。寝ている時に何度も呼んでいましたよ。『セイナと会いたい』と。それが私たちでは駄目なのでしょうか」


 違う、とは言えなかった。


 洋平が何度も体験した彼女と別れそうな時の会話に似ている。


『静奈さんと仲いいよね』

『私じゃ駄目なんでしょ』


「……そうかもしれないな。でも、二人が大切なのも事実だ」


 何度も体験したからこそ、洋平はそう返した。違うでは後でいざこざが起こる、それならばいっそ、という考えの元でだ。


「俺は一人一人違うと思うんだ。俺に合っていたのは静奈ってだけ。アカとアオに関しては本当に好きだよ。ただ今は家もないのに、ってプライドが許さないだけなんだ」

「……男性はプライドで生きるって言いますもんね。それなら、」

「はい、そこまで。アオ、余裕なさすぎだよ。何かあったの?」


 アオの言葉を区切ったのはアカであった。


 アカの言葉に口ごもるアオ。洋平もアオの顔をじーっと見つめた。


「いえ……いつか捨てられるんじゃないかって。それなら今のうちに体を交じあってしまえば愛着もわくかなってそう思っただけです」


 いつもとは違い口調に感情がこもっていない。ただ淡々と話すだけだ。


「捨てるってなんでだ?」

「主は気づいていないけど奴隷って立場は本当に不安定なんだよ。奴隷商の時に家族だって話してくれたのは私もアカも嬉しいの。でもいつかは飽きるかもしれないから」

「捨てられた奴隷は野垂れ死にですね。私たちのように悪魔の血を引いているなら買われるかもしれないですけど、主のようないい人に巡り会えるとは思えません」

「私たちは恵まれてるんだよ。優しくされて身近な人にも手厚くされて、そして名声を得るであろう、いやもう得てしまった主。いつかは不必要になるでしょ」


 アカは笑いながら言うがそこに楽しいといった感情はない。ただあるのは焦燥だけだ。


「……捨てねえよ。ならなんでさっき買ってよかったって言うんだよ」

「気まぐれってあるんですよ。主もないとはいえないですよね」


 洋平はそう言われて夜の街に繰り出そうとした自分を思い出し頭を横に振る。


「あるな、というか本当に二人を捨てる気はないんだけど。どうすればわかってくれる?」

「……一つだけ聞いていいですか? もし優しくて可愛くて、自分をいつでも守ってくれるそんな女性がすぐ近くにいたら好きにならないと思いますか?」

「いや、好きになる。絶対なるな。……それが二人だと?」


 二人は首を縦に振り洋平の目を見つめた。


「怖いんだよ。愛着がわけば愛してくれるでしょ。捨てられるのを先延ばしにできるでしょ。だから……」

「好きになってしまった私たちが悪いんですけどね。それをいえばギルドの受付の人だって」

「ああ、それは知ってるよ」


 アカとアオの目が丸くなる。


「それじゃあなんで手を出さないんですか? 主は私たちや女性の方を好きじゃ」

「女性の方が好きだよ。たださ」


 一度空気を吸い込む。大量の空気に圧迫された肺が洋平の締め付けられる胸をより圧迫する。


「性的な関係がこの世で絶対的に必要なら、娼婦とかに通う人なんていないだろ。俺はまだ二人とそういう関係になれない。好きだけどいつ嫌われるかわからないから」


 洋平が求めているのは性的なものではなく安心して隣で眠れる存在。優しく抱きしめ温めてくれる存在。アカとアオがそれに合致するからこそ、みすみす壊してしまうような関係に至りたくない。


「二人の事が好きだから突き放してる。そういえば聞こえはいいだろうね。ただキチンと二人の事を考えて言うなら、女性や人をあんまり信用できない。信用しているのはセイナって子と誠也兄、マリアベルくらいかな」


 鬱憤を晴らすかのように、自分に酔いしれているかのように洋平は二人を見て続けた。


「信用って難しいんだよね。だってみんな怖いだろ」


 洋平の表情がなくなったことにより二人は少し肩をビクつかせた。


 本当は優しくない、人に言えない言葉を飲み込むだけ。そんな自分の嫌な所に苛まされている自分。


 それを知れば人が離れるかもしれない。静奈の時だって洋平は何度も悔やんだ。なぜ話してしまったのか、と。


 だがいつも通りに接してくれていた静奈に洋平は恋をしていた。気づかないフリをして関係が壊れないように。


「人が誰かを好きだって言っても、いつまでも好きなんてありえない。それがわかっているから仲のいい静奈を求めているだけ。一瞬の好きだって感情に流されて、優しくされたいっていう欲求を鎮めてるだけだ」


 そして誠也兄はそんな俺と静奈を取り持っていた。静奈の実の兄でありながら中立の立場で、二人の気持ちや本心に接したままで触れてくれたただ一人の人物。


「それなら、そんな時は……私を抱きしめてください。好きじゃなくてもいいので、抱かなくてもいいのでギュッと締め付けてください。そうしてくれれば私が、私たちが主を抱きしめますよ」


 そう言って洋平を抱きしめるアオ。アカもそれを見て洋平を抱きしめる。まだ言いたいことがあった洋平だが、それによってその気持ちを沈める。


 ただ一途に愛してくれている二人を愛おしく感じていたから。もしかしたら静奈以上に自分を理解してくれるかもしれないから。


「……ありがとう。でも、まだ抱くつもりはないから。まあ、なんだ。……俺もすぐに抱きしめ返せるようにするよ」


 それが洋平の最大の譲歩。


 二人とも頭を縦に頷かせる。


「それでいいです。それにしても今日は寒いですね」

「そうだね。主に温めてもらおうよ」


 洋平はそこまで寒さを感じていなかったが、二人に抱きしめられ抱きしめ返した。不思議とその日の夜はアカとアオと共に寝た洋平が静奈の夢を見ることはなかった。

誠也の登場ですね。本当は名前を変えたかったんですけど、名前考えるの面倒くさくてそのままにしました。この後、絡んでくるのかはまだ考え中です。


そして静奈とアカとアオのフラグをもっと立てないと(笑)


ブックマークや評価よろしくお願いします


P.S もしかしたら用事でいきなり書けなくなるかもしれません。11日から8月いっぱいまでかけそうな時や暇な時には投稿すると思います。と言って毎日投稿してるかも知れませんが。

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