2章5話 ダンジョンアタック3
ちょっとしたシリアスと次回からそれが悪化するかと。
「これで全部よ」
「アカ、ありがとう。にしてもこれで六階層目の敵は大体全滅かな。……時間も結構使ったし」
「仕方ないよ、三十はいたんだから。それで主どうする?」
アカの言葉に洋平は首をかしげた。少し考えた後でなにか閃いたのか、手をポンと叩く。
「こっからは物音をあまり立てないようにするか。六階層目から強くなると言っても六から上は少しずつ強くなるだけだし」
「それでいいと思います。ここで得られる経験値も大したことがないようですし」
「そうだね。私のレベルも三ぐらいしか上がってないし」
一応、三人はパーティを組んでいるとはいえ、経験値の共有は行っていない。洋平の経験値上昇はラストアタックが洋平自身でなければ発動しない。
つまりは戦って得られる経験値は洋平と二人では違うのだ。そんなことを思うのも仕方がない。
だがそれを入れたとしてもここでのレベル上げは微妙であると洋平は判断した。それはゲームによくある特有の経験値を多く貰えるマップがあると判断したからだ。
「ここから出たら、一度冒険者ギルドでエイト以外の話を聞くのもいいな。その前に商人にならないと」
「主なら心配いらないね。それよりも今は早くここをクリアしてしまおうよ」
「アカ、未来の話は大切です。その内、夜枷も検討しないといけないんですから」
アカは「確かに」と言って洋平の方を見たがもう先に進んでいる。二人は頬を膨らませながらもボス部屋まで歩いていった。
一方で前に進んでいた洋平の耳は少し赤みがかっていた。ステータスが高ければかすかな音すらも耳に届くようになってしまう。アカとアオの夜枷の話を聞いてしまったからだろう。
「主、なんで先に行ってしまったのですか」
「できれば早くクリアしてしまいたい。未来設計は大切だと思うからな」
アオはそれを聞いて少し喜ぶが、どうせ結婚などの話ではないと気持ちを落ち着ける。
「そういえば手を出してくれないのはなぜですか?」
アオは小さく息を吸ってからそう聞いた。
「奴隷に手を出すとかそんなことの前に明日のこともわからないんだ。女性関係は生活が安定してからでいいと思ってるだけ」
実際は嫌われるのが怖いということを隠しているのだが、それを表に出すことすら洋平にとって怖い。
今までありのままの洋平を受け入れた異性は幼馴染である朝倉静奈だけである。彼女というものも人並みには作ってたのだが、誰も本当の自分を受け入れてはくれなかった。そして本当の自分すら何なのかを忘れてしまう。
忘れさせてくれたのは他でもない静奈だけ。だから洋平は静奈と再会することを心の底で祈っていた。
最もそれをさせなかったのは自分自身であるのだが。
「それなら……いいのですけど」
少し不安そうな表情を浮かべながらもアオはそう返した。
「まあまあ、その話は帰ってからでもいいんじゃないかな。今、ダンジョンだよ?」
アカがそう言いその場の空気が一度良くなるが、アオの心は少し淀んだままであった。お姉ちゃんだから何とかしないと、とアカが決心したことには誰も気づかない。
歩を止めることもないままで三人はボス部屋の前へと到着した。形式上、上の階層と同じくボス部屋の前に休憩上のような場所がある。
「……さすがに人はいないよな」
「ここで稼ぐ人は少ないですからね。ここで稼ぐぐらいなら五階層目で戦った方が効率いいですし」
魔物の強さがいきなり変わるために六階層目に上がる者は少ない。例え強くても慎重に行動をするのだ。そのせいで洋平が声を上げた瞬間にたくさんの魔物が現れていたわけでもあるが。
普通はクィーンで稼ぐ人でもあの数に攻められれば命を落とすことも少なくない。いや逆に落とさない人の数の方が少ないだろう。
「とりあえず休憩しようか。まだ二十分しか経っていないし」
ストップウォッチには十九分と書かれており、ここまでにどれだけのハイペースで挑んでいたかを教えられる。これもステータスの高い三人だからこそだろう。
「そうですね。一時間に一階層のペースでも良かったので」
「その場合は夕食時には帰れるな。今日の夜ご飯はなんだろう」
洋平はそう言いながらアオの体を持ち上げベンチに座り込む。自身の膝にアオを乗せながら肩に顎を乗せた。
「どうか……したんですか?」
動揺を隠せないままでアオが洋平に聞く。
「別にいいだろ。……嫌なら我慢するけど」
「別に嫌とは言っていませんよ。ただいきなりだったので」
「少し疲れたから休みやすいような体型にしただけ。……それにしても落ち着くな」
女性特有の甘い香りと、戦いの際の力強さからは考えられないほどの体の柔らかさに洋平はドギマギしながら瞳を閉じた。すぐに洋平が寝付いてしまったのは言うまでもない。
「……淑女として耐えられないです」
「淑女が夜枷を進んでするとは思わないけどね。でも良かったじゃん」
「……まさか、アカの差し金ですか? お姉ちゃんとは言え許しませんよ」
顔を赤くしながらも片手をあげて怒ったアピールをするアオ。アカは可愛いな、と思いながら洋平の隣に座った。
「夜枷は帰ってからだけど、こういうアピールもいいと思うの。表情は変わってないけど耳凄く赤いしね」
「夜枷の話はアカがしたでしょ。……まあ、聞かれなかったし賛同もしましたけど」
アカが洋平に構ってあげてほしい、と言っていたかは不明ではあるがそんな仲睦ましい状態がアカには嬉しかった。
ピタリと小さな胸を洋平の右腕に押し付け、そして、
「……主以外に拾われたくはないです。あんなお貴族様にはブスがお似合いですから」
アオと同じような話し方でそう呟いた。
いつ頃か隠していた本当の話し方。アオと比べられれば何もかもが劣っている。そんな劣等感から自分をねじ曲げたことは誰も知らない。
「お姉ちゃん?」
「うん? どうかしたの?」
「……いつまでもこのままがいいね」
「そうだね。アオと主の子どもを抱き上げたいな」
「私はお姉ちゃんと主の子どもを。名前、考えないとね」
儚い願いで構わないから夢を見させてほしい。そんな思いで二人は洋平が起きるのを待った。
人間関係って難しいですよね。
アカとアオの心理描写等を上手くかけるようにしないと……。ダンジョンアタック編ではアカとアオがメインとなります。次回は確実な修羅場ですね。
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