2章4話 ダンジョンアタック1
前話でジャックをナイトと表記していました。誠に申し訳ございません。
ターミナルを使い一階層目を無視して二階層目に入っている。
暗い洞窟に数本の松明らしきものが道中に置かれ辺りを照らす。エリシャからのデータは上層、つまり五層目まで書かれておりその下はゲームの時の記憶をたどるしかない。
だからといって戦闘初心者向けのジャックに対しBランクである洋平や、悪魔の力を持つアカとアオが苦戦をする理由がない。
二層目は主にウルフとコボルトがメインとなっていたのだが、大半は出会って早々にキルされている。
「あっ、見っけ」
彷徨をあげることすらできずにウルフがまた倒れる。最短距離で向かっている彼らがウルフたちに遭遇したのは計五回のみである。
やはり上層では稼げないんだな、と洋平は考えてからボス部屋の前へと向かう。
「……十分もかかってないんじゃないか?」
黒い腕時計を見てからそう呟く。
いつの時だか元の道具などをしまった際に倉庫に死蔵されていたものである。時計としての力は時差などにより発揮してはいなかったが電池は残っている。
そのためにストップウォッチ機能を使い時間の計測を図っていた。ちなみにだがジャックに入った時間は門兵曰く午前十一時だ。
一階層の時とは違いボス部屋には誰も並んでおらず、すぐにボス部屋へと入ることに成功している。
少し運がいいな、と洋平は思っていたが、運ではなくその階のボスは稼ぎが悪いからだということには気づけてはいない。
どちらにせよ、ジャック攻略のために動いているため洋平には関係のないことなのだが。
三人が中に入ってすぐに光が集結する。
低い呻き声と異臭、いや死臭が放たれたことにより洋平は見る前に敵がなんなのかを理解した。
もっとも、
「風扇」
「水扇」
そんな無慈悲な声と共に洋平が相手の姿を視界に映す前に光へと変わってしまったのだが。
残ったものはゾンビナイトの魔石だけである。もちろん、これだけでありこれの価値もそこまで高くはない。言うなれば量産のできる魔石だ。
特に気にした様子もなく、「お疲れ様」と労いの声をかけ魔石を手に取る。そのまま三人は先へと進んだ。
三階層目入ってすぐにゾンビの大軍が襲ってくるのだが、そこまでレベルも高くはないため強靭の大剣や二人の火球などで全滅する。
これに関してはエリシャの紙に書かれており、いくらか余裕を持って行動していた。三階層はゾンビしかいないために稼ぎが極端に悪い。魔石は地上の敵の方が価値が高いためにゾンビの魔石を必要とする者はいないのだ。
一応なのか、計三十体ほどのゾンビの魔石をしまってから、誰にも出会うことなく三階層目のボス部屋へと到着する。
やはりと言うべきか、ボス部屋の前では誰も並んでおらず、すぐに入ることができる。時間短縮と洋平たちは構わない様子で奥へと進んだ。
光が集結して何かを作り出す、いつものエフェクトがかかり始める。それがかかってすぐに洋平は駆け出しそいつの首元に大剣を突き刺した。
これはルール違反ではないし、まず光が集結するエフェクトもそんなに長い時間ではない。そしてそんなことをしようとする人は滅多にいないだろう。
もちろん、本物の悪魔や考え方が少し変わっている人には当てはまらないのだろうが。
そうして四階層目、五階層目はボス部屋で少し時間が潰れたとはいえ入って一時間半とかからずに五階層目のボスと対面する。
さすがに敵が強くなるにつれて、エフェクトの時間が短縮されていくので五階層目のボスを見ずに瞬殺することはできなかった。
だが、
「……現れても一発なのか」
アカとアオの火球が合わさり、それによって五階層目のボス、ゴブリンナイトが息を引き取る。
時間短縮をメインにやっているため、洋平は強奪も色欲も使っていない。なのに上層と呼ばれる一から五階層目までは、昼過ぎには三人によって攻略されてしまったのだ。
ゴブリンナイトの素材を回収している洋平の腹が鳴る。異世界には昼飯という文化がなく一日二食、朝と夜のみである。
そのために元の世界の常識である一日三食に慣れきった体には、少々辛いものがあった。マリアベルと共にいる時は間食を貰い、一人の時は屋台で立ち食いをする。
洋平はちらりと二人の方を向き目が合って恥ずかしそうに俯く。アカとアオは微笑ましげにそれを見てから口を開いた。
「一回、休憩にしますか?」
「主、お腹が空いたんでしょ」
洋平は渋々と頭を頷かせ、六階層目入ってすぐのターミナルで外へと出た。ジャックから屋台がある所までは少し距離があるが、さして時間は掛からないだろう。
そんな考えで空いた腹を埋めるために、一度来た道を戻った。
◇◇◇
エイトの街には屋台が多く間食をとるには目移りしてしまう。例えば肉巻き根菜や厚切りステーキが串に刺されたもの、シチューなどの小さな器に入った汁物、そしてサンドウィッチなどのパン系だ。
もちろん、座って食べられる所も多く普通の店も多い。ただ洋平の一番望んでいた米料理などは出されていなかったのだが。
なんだかんだ言ってお腹を空かせていたアカとアオは青葉が多く入ったサンドウィッチとシチュー、洋平は普段好んで食べる肉巻きと厚切りステーキを五つ買って端にあるベンチに腰を下ろした。
屋台の端側にあるベンチであるためにそこまで煩くはなく、静かに食事をする三人。時々頬を綻ばせるアカを見て洋平とアオが暖かい目をする程度である。洋平が肉巻きを半分ほどまで食べた時だ。
「それも食べたい」
アカがそう言い始めたのだ。
洋平は仕方ないな、と口元まで串に刺さったそれを運んでから、アカはそのままかぶりつく。
肉巻きの油がアカの唇を輝かせ少し艶めかしく見せ始めるのだが、洋平はさほど気にした様子もなくそのまま食べさせ続けた。
「私も食べる」
肉巻きが四分の一ほどまで来た時にアオがそう言ってアカに食べるのをやめるように催促を始める。
それでもやめようとしないアカを珍しいな、と洋平は思いながらもアカの頭を撫でながら肉巻きを引き抜いた。
アカの不服そうな表情と、頭を撫でられて嬉しそうな表情が重なり複雑なものへと変わっている。目は三白眼のようなのに頬は赤く眉毛はへにゃっと垂れているのだ。そして口元も少しだらしない。
「主、私にもください」
アオの言葉に首を縦に振ったかと思えば肉巻きを口元まで運ぶ。だがアオの表情は不服そうなものへと変わっていた。
無理やり洋平の串を持っていない左手をとったかと思うと、自身の頭の上に乗させて撫でるように目で合図する。最初に奴隷商であった時には想像もつかない二人に、少し心が暖かくなる気持ちがして、三人でイチャイチャしながら昼食を終えた。
イチャイチャしていた分だけジャックに戻ってこれたのは二時過ぎを回っていたのはご愛嬌だろうか。
少しダイジェストみたいだったのでイチャイチャした感じを出したかったのですが……蛇足ですかね。もしかしたら最後の部分を消すかもしれません。ただイチャイチャ会は増やしていこうと思っています。
後、本当のダンジョン攻略は次回からかと。設定上では六階層目から最下層である十階層目までが一気に敵が強くなる、という感じでしたので。
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