2章3話 武器屋と
スレイヴを出た後、冒険者ギルド方面に洋平たちは向かっていた。冒険者ギルドオススメの武器屋がそこにあると聞いていたからなのだが、洋平の顔色は明るくない。
「どうかしたんですか?」
アオがそう聞くのも無理はないだろう。ゴーレムと戦っていた時でさえ、ここまで嫌な顔をしなかったのだから。行きたくないことが見て取れる、そんな表情をしていた。
「いや……」
そうは言うものの洋平の表情は晴れない。
ついにはその言葉に答えることもないままで、その武器屋へと到達した。武器屋の名前はない。看板すら掲げられていない古屋に見える。
だがこれでも店なのを洋平は知っていた。ゲーム内でも有名な鍛冶師が営む武器屋なのだから。
「……すぐには入らないでくれ。後、気を抜くなよ」
洋平がそんなことを言ってから扉を開けた。瞬間、その扉から一本の短剣と怒号が飛ぶ。
「こんなんで! 店に出せるわけがないだろうがァ!」
それを洋平は余裕で人差し指と中指で挟み胸の前で止めた。「やっぱりか」と小さく呟いてから中へと入り、すうっと大きく息を吸う。
「たのもぉぉぉ!」
「うるせぇぇぇ!」
洋平の声と同時に数十もの空に飛ぶ剣が、誰かに操作されているかのように攻撃を仕掛けてくる。
洋平は淡々と指で挟んだ短剣で半分以上を床に落とさせる。さすがにそれ以上の剣を落とさせるには短剣の耐久力がもたず砕けたため、イヤホンで全てを叩き落とした。
イヤホンと剣とでは価値が違いすぎるためか数本が折れ、砕けた鉄の香りがその場に広がった。
「おいおい、やるじゃねえか」
「これが……嫌だったんだよな」
その声とともに奥から出てきたのは身長の低い髭面の男性、一度見たことがあるドワーフだ。
ここの主は腕を見る。それがわかっているからこそ、洋平はめんどくさがったのだ。
その分、腕がとても良いことは理解しているのだが。
「まあ、そう言うなよ。それでお前の名前と求めているものは?」
「俺は洋平、んでこっちの二人がアカとアオだ。求めているものは魔法威力を高める杖、できれば仕込みナイフが入っているものが二本と、俺に合うサイズの、まあ折れにくい剣が三本だな」
「その程度でいいのか。……って、お前がヨーヘイか?」
洋平は「そうだけど?」と聞き返すと店主は感慨深げな表情を浮かべ、「話は聞いてる」と笑った。
「シーアが言っていたわ。武器は良い武器を持っていると聞いていたが、その白い紐のことか?」
「……そうかもな。まあ、壊れないとは言えないから、サブで武器が欲しいんだ。後ろの二人は武器がないからな」
「その二人は武器なしでゴーレムと戦ったのか。……ふん、面白いな。強いのを認めているからなのか、それとも金不足かは知らねえが作ってやるよ」
ヒラヒラと指をなびかせて奥へと戻る店主。
洋平は名前聞いてないな、と他のことを考えていたがそう時間もかからずに店主が戻ってくる。戻ってくる前にはまた怒号が飛び交っていたが。
「そこのお嬢に合いそうなのはこの二つだ。一応、仕込みナイフにエメラルドを含んでいるから風を中心的に強化される。もう片方はサファイアだから水魔法だな」
「……アカとアオはこれで当分しのげるか?」
「……強い敵と戦わなければこれでも持つでしょう。ただ魔力を込めすぎればすぐに折れるでしょうね」
「アオに同感。まあ、ゴーレムみたいな敵が出る可能性は低いからね。ジャック程度なら持つと思うよ」
店主はフンと鼻を鳴らしてから口を開く。
「金があるならご希望通りのものを作ってやる。この武器たちをこの程度って言うくらいだからな」
「それじゃあ頼むよ。それでこれらが俺用の武器か」
テーブルに置かれているのは強靭の大剣と強靭の片手剣、そして炎のレイピアだ。鑑定を使った洋平は首を縦に振る。
「合計で金貨七十五枚くらいか? この武器たちならそれくらいの価値はあるよな」
「おっ、わかるか。シーアが認めるくらいだ。強靭系の壊れづらい武器が二種類とルビーが中に入っているレイピアが一つだ。ルビーが入っている分、炎を纏わせられるし火魔法の威力を高めてくれる。それで合計だが、まあ金貨七十枚でいいぞ」
店主の顔がより柔らかくなる。
洋平は少しぎょっとした顔をしたため、したり顔で続けた。
「お前のおかげでイズ鉱山はまた開いた。お前には感謝してるんだ。それにシーアの馴染みってこともあるしな」
「なるほどね。じゃあそれでお願いします。後は特注武器の話ですけど」
「金貨百枚出せるか? それならいいもんを作ってやるよ。クィーン程度なら持つぐらいの最高のものをな」
「じゃあ先払いってことで」
洋平はそう言って金貨二百七十枚をテーブルの上に置いた。杖はアカとアオ両者に渡り、強靭の大剣以外は腰の小袋の中に吸い込まれた。驚いている店主に向かって不思議そうな表情を浮かべる。
「月日はどれくらいかかりますか? 後、店に来た時に店主以外の人だったらなんて言えばいいですかね?」
「あっ……ああ、一週間で二つとも作ってやる。魔力を沢山込められて魔法威力を高められればいいんだよな」
「火魔法を特に強くさせられればそれでいいです」
「なら大丈夫だ。生活魔法とかを武器に入れられはしないけどな」
冗談を言ったつもりなのか、ガハガハと大きな笑い声をあげる店主。
「それと俺には弟子がいるんだが、もしそいつだったらアランに用があるって言え」
それを聞いて洋平はわかったと頭を縦に振りその場を後にした。残されたアランは笑いながら店の奥に戻る。
その途中で、
「あっ、杖二本で金貨百枚だって伝え忘れたな。まあ、それ以上の今作れる最大のものを作ればいいか」
そう言ってから、また怒号が店内に飛び交う。
◇◇◇
「それで今からジャックに行こうと思う」
店を出てすぐにそう洋平が言った。
「いいですよ。さあ、行きましょう」
「言い出しっぺが何立ち止まっているのよ」
間髪入れずに返されたため洋平は何も言えずに立ち止まってしまっていた。アカとアオはどうしたのか、と思いながら両手を引っ張ってジャックの方へと引っ張り始める。
「いや、違うよ。早くない? えっ、俺が行くっていうことわかってたの?」
「知りませんでしたけど武器を買っていたので予想はつきましたよ」
「それにお金をたくさん使ったからね。金貨千八百枚ぐらいあると言っても、すぐになくなるよ。だから早く行こう!」
俺ってそんなにわかりやすいのか、と洋平は思いながら半ば引っ張られる形でジャックに着くのであった。
というわけで強くなった洋平の再ダンジョンチャレンジです。前回と違うところはダンジョンをクリアするつもりなのと、アカとアオがいることですかね。
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※ジャックがナイトになってました。申し訳ありません。




