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異世界最強武器はイヤホンのようです4

シリアスが苦手です……そして、洋平愛されてるなぁ。

 ギルド内は夜の時と変わらず魔物の落とす魔石で付けられたランプがまだ片付けられていなかった。ギルドが開くまでに時間があるため、それも致し方ないことだろう。


 そんな中、一つの椅子に座ってワイングラスを傾けているマリアベルがいた。マリアベルは洋平を一瞥してから視線でこちらに来るように合図し、洋平はそれに従う。


 いくつかある窓からは薄らと光が差しランプの光と相まって神秘的な雰囲気へと変わっている。そこに座っているのがマリアベルでなければ一つの芸術品となりえたかもしれない。


「こんな朝早くにどこに行っていたのかしら」


 平坦とそう聞くマリアベルの表情はどこか堅苦しい。


「街の中へ、なんて嘘は意味がないと思うので本当のことをいいます。門の外です」

「どうやって外に行ったの?」

「スキルです。それ以上の詮索は冒険者として答えることができません」


 我ながら自分勝手だな、と洋平は思いながら親を見るかのように、足が震えるのを我慢して見つめた。


「俺は、冒険者を辞めようと思っているんだ」


 意を決したように、親に進路を変えることを伝えるようにそう言う洋平。


「あら、話し方が……いえ、それよりもなんで辞めるのかしら?」


 マリアベルのその表情は先とは違い優しげで本当に子どもを見ているかのようだった。


「俺は……冒険者に向いていないってキールに言われた。でもそれが理由じゃない。俺も戦いに行って気づいたんだ。ただ武力で誰かを守ろうとしているって」

「それがダメなの?」

「武力があるには越したことはないと思う。けどそれだけが俺の、俺としての強みじゃないように思えてきたんだ。キールの言葉はそれを考えさせてくれただけで、辞めるってことは自分で決めた。俺の強みは、知力だと思う」


 マリアベルは口を手で塞ぎ少し思考に耽っていた。すぐに我を取り戻し洋平の目を見る。


「俺は、商人になろうと思う。知力も、武力もある程度ある俺なら簡単に潰れはしないだろうし」

「そう、それでどんな商人になるのかしら?」

「そう。いや、もっと細かくいえば自分で生産したものを自分で売る、そんな商人になりたい。アカとアオがいればダンジョンへ自由に行けるだろうから」


 マリアベルはため息を吐いてから洋平の目を見つめる。


「なぜ商人なのかしら? 別に商人と冒険者は両立させてもいいのよ。なぜ片方なの? それに商人である理由は?」


 高校面接の時のような重圧感が洋平を襲う。


 なぜ、それは簡単そうに思えて実はそうではない。ただ理由を答えるだけで相手が理解してくれる、そんなのは偶像でしかないのだから。では何が面接の際に必要か。


「自分がやりたかったから。それに戦闘に赴くこと自体、俺には向いていないように思えたんだ。高ランク冒険者ともなれば戦争に駆り出されることも少なくないし、俺に人を殺すなんてことはできないと思う。それは自身の甘え、それを知りながらアカとアオに俺の尻拭いもさせたくないから。それに商人ならば失敗しない確信があるんだ」


 それをしたいという気持ちを表すこと。やる気のない者に何かをさせる道理はない。洋平はそう考え最後に曖昧な言葉を付け足した。


「……確信、ね。確かにあなたはその勘で生き抜いたのかもしれないけど、本当に自信があるの?」


 冒険者としての実績は十分。それだけで冒険者の勘というものは重要視される。生死の境目を勘で判断しなければいけないこともあるのだから。


「寝てしまう前にマリアベルがBランク冒険者に、とかの話もしていたけどそれはあんまり必要じゃない。それに確信があるのは魔女からのお墨付きも得ているから」

「魔女……まさか、ナーヴァルの所へ行ったというのかしら? それで? お墨付きということは商談をしたはずよね」

「専売特許を売った。俺の作った爆弾で制作の自由を売ってお金に変え、そして双子を買っただけだけどね」

「あの時のお金はそれで。……確かに依頼のお金じゃ足りないものね」


 マリアベルの納得に洋平は続ける。


「アントンとの商談も取り付けておいた。そのために金属類が必要だったんだ」

「……なるほどね。どれだけ才能を持っているのかしら」


 オーバーに頭を抑えマリアベルは洋平の真意を探ろうとした。だが眉ひとつ動かさずに洋平はマリアベルを見つめるばかり。そんな中で言葉を続ける。


「そして最後に俺は俺として街の外へ出てみたいんだ。誰かに頼まれてとかじゃなくて、依頼とか関係なしに俺は旅という目的の元で他の地方へも行きたい。それは今じゃないけど、後々そうするつもりなんだ」

「本当かしら?」

「確かにキールに言われた通り俺は甘いし素直なのかもしれない。でもそう簡単には折れないよ。ナーヴァルと商談ができている地点でそれはわかるでしょ?」

「そうね。……でも、フックが悲しむわ。あいつはSランクを超えるって大騒ぎしていたのに」

「辞めるって言ってもここに来ないわけじゃない。それにアカとアオが俺の代わりにSランクになるのは確実だよ。……俺もマリアベルを越してみせるし」

「商人なのに、かしらね。……面白いわ」


 マリアベルは嘲笑の類ではなく、本当に愉快そうに笑みを浮かべた。それは洋平が自分を越すことを理解していたからかもしれない。


「だから、その高みから待っていてくれ。冒険者の弟子が商人になって、知も武も師匠を超えてみせるよ」

「いいわ、それならいつでもかかって来なさい。私が本気であなたを潰してあげるから」


 マリアベルは手を差し出し洋平はそれに応じるように握手をした。そんな状況の中でも二人はただ笑う。いつか来る戦いを楽しみにして。


 そのまま洋平はマリアベルからアカとアオの場所を聞きそこへと向かった。もちろん、二人が起きているのかを確認してから。




 ◇◇◇




「なんてことを言っていたわね。それで結論、ヨーヘイは冒険者を辞めるみたいよ」

「そっかー。まあ、僕のせいだろうね」

「いや、いいさ。縁が切れないだけ良しとする。まさかマリアベルを説き伏せるなんてな」


 マリアベルも「そうよね」と冒険者ギルドの椅子に深く腰掛けた。


「いっつもあなたたちに口喧嘩で負けたことがなかったもの。尋問に関してはキールに負けていたけど」

「そうだよな。それにあの頃はミシェルもいた。本当に彼はミシェルの生まれ変わりなのかもな」

「それはないね。ミシェルは私が好きだったし、ヨーヘイの好きは違う意味の好きみたいだから」


 フックは「それはよかった」と席を立ち二人を見つめた。思えばミシェルやマリアベル、そしてキールと共にエイトの街で冒険者をして十五年は経つのか、と時間の流れの速さを実感する。


「ミシェルが死んでもう四年か。……俺たちは強く、そして誰かを守れるほどに偉くなったのかね」

「……僕にはわからないよ。個々の喧嘩で離れ離れになって、マリアベルの弟子とミシェルが死んだ。その戦いの際に意地で助けなかったのは僕らだ。悔やむことすらできないのかもね」


 自嘲気味にキールはふっと笑い俯く。だがそれをかき消すかのようにマリアベルが立ち上がった。


「それは違うわ。私が弱かったのが原因、それで冒険者から逃げたのも私の責任。みんながみんな悪いと思うならみんなで背負うしかないんでしょ? そう決めたじゃない」

「確かに、ね。でもやっぱり罪悪感は消えないよ。……マリアベル、本当に申し訳なかった」

「僕からも、本当に申し訳ないと思っているよ」


 フックの謝罪にキールも椅子から立ち上がり頭を下げた。その表情は見た目に反するほど大人びており、それでいて悲しさ以外感じれるものはなかった。


「私も、守れなくてごめんね。はい、これでおしまいよ。それよりもヨーヘイをどう助けるか、でしょ?」


 フックは「そうだな」と再度椅子に腰掛ける。それを見てからキールとマリアベルも座りこむ。


「今は全員ワンスにいるからいいわ。でもエイトに戻ったら、そのうちヨーヘイはエイトを出ていくね」

「そうなった時のためにフックが商人ギルドと仲介を果たしてほしいの。そして動きやすいようにしてちょうだい」


 キールは「僕からも頼む」と手を合わせ薄目を開けてフックを見ていた。


「もちろん、これからも手助けはするよ。そこはお礼としても、友人としてもそうするつもりさ」

「私には依頼の量を増やしてもいいわ。私以外ができないような高難易度の依頼を渡してくれればいい。ヨーヘイと戦うためにも、私も強くならないといけないからね」

「だぁ、やるって。やるに決まってるだろ。それに俺だってヨーヘイを気に入ってるんだ。できる限りの事はする」


 そうして三人だけの密談が終わる。洋平の知らない所で過保護な保護者たちは満面の笑みを浮かべていたのだ。


 マリアベルたちが解散する頃には朝焼けはもう消え、昼を回っていた。外で食事でもしてきたのか、休養室で寝る洋平の枕元に二つの道具を置いてマリアベルも外へと出る。


 それは新しい冒険者カードと手紙だった。

すいません、閑話と登場人物説明を挟んで1章終わりです。一応、中身としてはここで1章は終わりなので2章を楽しみにしていてもらえると嬉しいです。


2章はまだ作成途中ですが街から出る、なんてことはないと思います。いや……依頼とかで、ならあるかもですが。


これからも書き上げていくのでよろしくお願いします。ブックマークや評価などもよろしくお願いします。

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