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戦い

 洋平たちは物珍しげにゴーレムを見ていた。主に洋平だけは鑑定でステータスなども見ていたのだが。


 ゴーレム自体のステータスは高くはない。主に洋平が攻撃を受けたとしても即死はしないほどだ。それに情報にあった通り速度が遅い。


 そしてHPも高くはない。防御はある程度高いとしてもHPが低ければ長期戦などは得意ではないはずだ。


 Cランク冒険者でも倒せる敵、そう結論づけた。ではなぜマリアベルが手こずったのか。


「スキルにおかしな点はないな……」

「ん? どうかしたのか?」

「いや、なんでも」


 洋平はそっぽを向きまたゴーレムの調査を始めた。シーアはそれを不思議そうな目で見つめる。


 ゴーレムの額には文字が書かれている。明らかにEMETHと書かれており、頭文字のEが消えかかっていた。マリアベルが戦いの最中に消そうとしていたのは明白であった。


 だが完全に消すことはできなかったようだ。本気であればある程度の魔物を屠る事の出来るマリアベルでさえできなかったこと。


 洋平は少し体を震わせた。


 通りでAランク冒険者たちに回される案件であると。


 そのまま触れてみた。ザラザラと角砂糖のような硬いような柔らかい感触が襲う。


 その時だった。


「お前! 何をした!」


 ゴーレムが体を起こし始めたのだ。


 まるで自身の危機を察したかのように。


「こいつは触れたら復活するのか?」

「そんなわけないだろ! そうであったならここまで運ぶことは不可能だ!」


 ゴーレムはここで倒されたのではなく運ばれた。となれば洋平が触れたことで動き始めたわけではないのだ。


 もしかしたらゴーレムは本当に自身の危機となることを確信して、怪我だらけの体を無理やり起こしたのかもしれない。後の不安を先に消し去るために。


「災難かよ!」

「ならどうするんだ。逃げるか?」


 シーアは鼻をフンと鳴らし洋平を真っ直ぐ見据えすぐに視線をゴーレムに戻す。


「馬鹿か、行動不能にするに決まっているだろう!」

「手伝う、俺のせいで動き出したんだからな」


 二種類の氷と炎が洋平の背後から飛んだ。


 ゴーレムのコケだらけの体に激突し、一部分を凍らせ一部分を燃やした。コケはよく燃えるようで段々と燃え移っていく。


「喰らえ!」


 シーアの横薙ぎの大槌がゴーレムの横腹にぶち当たる。ガギンと金属のぶつかるような音をたてゴーレムは横に飛ばされた。


 だがゴーレムを横に倒すことはできなかったようで踏ん張りを効かせゴーレムは洋平に向かっていく。


 それを理解していてか、レヴァティーンを地に刺し上に飛んでからゴーレムの額を縦に切る。


 さすがに切ることはできなかったが、頭文字のEをより薄くすることには成功した。そしてそのままゴーレムの体を蹴り後に飛ぶ。距離にして接近された時と大して変わらない。


「頭文字を消すんだな? 盾役は任せろ」


 シーアは意気込みゴーレムと洋平の間に立つが眼中に無いとばかりに無視される。洋平の元までまた向かい始めるゴーレムであったが、背を向けたところを上から下へと振られた大槌がゴーレムの頭へと激突する。


 洋平はレヴァティーンをEに向かって突き刺す。魔槍レヴァティーンの名は伊達ではなくゴーレムの頭を貫くことはできないもののEを消し去ることに成功した。


「なっ」


 だがゴーレムは活動を止めない。洋平に体当たりを食らわせようと突撃したゴーレムだがなにかに阻まれる。


「氷壁」


 双子の魔法が重なりゴーレムの体当たりを止めた。洋平は頭を下げてから氷壁ごとレヴァティーンを差し込んだ。そして、


「錬金」


 洋平は体からグッと何かが減る感覚に襲われる。MPが一斉になくなっていっているのはすぐにわかった。倒れそうな、消え入りそうな意識の中で双子とマリアベル、そして騎士のみんなの顔が思い浮かぶ。


 倒れるわけにはいかなかった。倒れてしまえばゴーレムがここから出て何をするかわからない。


 ゴーレムの体が光った。錬金の果てにゴーレムの機能全てがなくなってしまう。その中には行動する術も入っていた。


 光が散り十数の石が残る。魔核と出たその説明を見てから洋平は瞳を閉じた。






 ◇◇◇






「あっ、うっ」


 瞼の裏に強い光が届いたような気がして洋平は瞳を開けた。反射的に体を起こしたがMP不足の反動がまだ残っているのか、頭を抑え周りを見渡す。


「知らない天井だ。……なんて言えれば楽なんだけどな」


 自嘲気味に、そして誰もいないことを悲しく感じながら個室の扉を開いた。


「あら、起きたの」

「マリアベル……さん」


 マリアベルの近くで俯きながら座っていた双子が顔を上げ瞳を潤ませる。


「主っ……死んだ、かと」

「主、か。……そっか、生きてるよ。アカとアオを残して死ねないだろ」


 笑いながら洋平はマリアベルの対面の椅子に座った。見たことのない場所であるために少しキョロキョロとし、その度に頭痛に襲われる。


「ここはどこだろう、って感じね。その前にほら、シーアが褒めていたわよ。これからも功績に関しては任せろだって」


 テーブルに見慣れた槍と石が置かれる。

 それを洋平は手に取り収納した。


「あり、がとうございます」

「とりあえずこれ飲みなさい」


 一つの小瓶を手渡した。緑のドロドロとした液体が中に詰められており、飲みたいという気分を失せさせる。


 少し怖がりながらも手に取り口に運ぶ。そしてすぐにそれは起きた。


「えっ、痛みが。……MP回復ポーション、しかも高位のですか?」

「そうよ、ただ安心していいわ。あなたが弟子だっていうことで私もこれから潤うからね」

「潤う……?」

「Sランクの冒険者でさえ倒せなかったゴーレムを倒したのよ。冒険者ギルドは今、それでてんてこ舞いなのよね」


 洋平の視線を逸らさせないように見つめ返すマリアベル。


「ここはエイトの近くのワンスの街の冒険者ギルドよ。本当はエイトまで送りたかったのだけれどこっちの方が近かったの」

「ワンス、ですか」


 ワンスはエイトとは違い主に商人や職人が多い街である。その分、お金の流通も多い。


 そして冒険者には厳しい街であった。商人と冒険者は性格性の問題かいざこざがよく起こる。そのための処置であったのだが、


「あなたや私は良いのよ。あのままだったら一番に被害を受けていたのはワンスなのだからね」

「でもゴーレムが動き出したのは」

「そのうちまた動いていたわ。額の文字を見たでしょ。消したのに倒せないゴーレムなんて初めてだって言ってたわ」


 そうだ、消したのに倒せなかったのだ。


 なのに洋平は倒してしまった。マリアベルからしたら不思議でならないだろう。


「ただ錬金をしてみただけです。鉱石や石材に影響を与えるのが錬金ですけど、本質はそこじゃないです。……錬金は物体を変化させる力を持っているんです」

「物体を変化、ねえ」

「多分、核があるんだろうなと予想をつけてみたら正解でした。いやー本当に運が良かったんですよね」

「運も実力のうちよ、そしてその知識や考え方も同様。あなたを弟子にできて本当に良かったわ」


 マリアベルはケラケラと笑いながら奥の扉へと下がった。最後に「私との会話よりも必要なことがあるでしょう」と言葉を残して。

次回、タイトル回収。

本当に長かったです。そしてこの後も話は続くのでお楽しみに。


ブックマークや評価などもよろしくお願いします。

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