奴隷面接〜悪魔の双子〜
多分、書き足しをするかと。
少し矛盾してそうで……。
「あなたが客ね。悪いことは言わないわ。私たちを買うのを辞めなさい」
開口一番に悪魔の双子の片割れが言った言葉である。
「まあ、自己紹介くらいは聞かせてくれ」
洋平のその言葉にため息を吐き、「必要性を感じないわ」と言う少女。もう片方の子は何も言わずに黙っている。
二人は座ることなく洋平の目の前に立ち、見下ろし見下す。
まるで人などこのようなものだと言わんばかりに。
「必要性を君たちが見出すのか?」
「そうよ、少なくとも誰かに命令されるのは好きじゃないの」
顎に手を当て少し悩んだ素振りを見せてから、洋平は人差し指を立てた。
「アカとアオ、悪魔とあるけど本当かな」
アカははっと嘲笑いながら、「わかってるならそれでいいじゃない」と声を荒らげた。
「ならおおよその察しはつく」
ゲームの中でも悪魔というのは好かれていなかった。プレイヤーキルを中心としており、そのステータスも計り知れない。
それを仲間にできれば、なんて考えるプレイヤーも少なくなかった。
そして悪魔がどれだけ嫌われているかというと、悪魔に加担した人がいた国が滅ぶほどだ。
それだけ恐怖を覚えさせる悪魔。洋平は小さく唾を飲んだ。
「お前らハーフか?」
氷の塊が飛んだ。
それをレヴァティーンで叩き切る。
アオは「次言ったら殺す」と洋平を睨みつける。対してその視線のする先へ向かって、「だから?」と返している。
洋平も少しイラついていたのだ。彼とて蔑まれるのは好きではない。
アカも片手を上げて詠唱を始めた。
「ウッ、ウアァァァ」
瞬間、双子は頭を抑え地面をのたうち回り始めた。
首につけられた首輪のランプが赤くなっており、それが影響していることがわかる。
「……お客様にそのような態度をとるとは」
アントンがそのような言葉を漏らしながら、扉を開け中に入ってきた。
洋平に視線を向け、そして頭を下げる。
洋平はそれを見て「……構いませんよ」と言った。
「俺の無神経から来た結果なので、二人を解放してください」
アントンは小さく「……正気ですか?」と聞いたが洋平は頭を縦に振るだけ。
パチンと指を叩いてすぐに二人の悲鳴が途絶えるが、酷い視線を向けられ洋平は頬を掻く。
「大体のことがわかったから、もう話をすることもないので」
そう言った際にアカの手から炎の塊が飛んだが、振り向いてレヴァティーンで切り伏せた。
まるで来るのがわかっていたかのように。
そのせいか、アカとアオは攻撃するのをやめた。いややめざるを得なかった。
先の攻撃はアカの最大火力の攻撃であったのだから。
洋平を傷つけることも、ましてや武器を折ることすらできなかったことから、アカとアオは攻撃できなかった。
もし機嫌を損ねたら首が飛ぶと実感したから。
奴隷としての立場上、アントンが双子を殺せはしないが洋平はできる。
いわば正当防衛が成立してしまうのだから。
双子は体を少し震わせた。
アントンはまた首輪を締め付けようとしたが、洋平の片手が上がる。
「この程度なら殺せないよ」
そう投げ捨て洋平は部屋を出た。
アントンは呆気に取られ、アカとアオも洋平の人格を図ることができなかった。
殺されると確信していたのだから。
洋平が部屋を出てすぐにアントンが聞く。
「誰かお買いになられますか?」
「値段を聞いてから考えます。あまりあくどい商法には引っかかりたくないので」
「エイルは金貨三十枚、チョコは金貨十五枚、マロンは金貨五枚、悪魔の双子はセット価格で金貨七十枚。これが最低価格ですよ?」
洋平は少し悩んだ素振りを見せ一言聞いた。
「買い手はついているのか?」
「……一応います」
アントンは人差し指を立ててそう言った。
「一応、か」
「悪魔の双子は売られるなら二人揃って、との希望です。そして双子を買おうとしている方がいるだけです」
洋平は少し考えてから、「奴隷についても教えてもらえるか?」とだけ聞いた。
「簡単に分ければ戦闘奴隷と犯罪奴隷と鑑賞奴隷の三つとなります。名前の通りですが、戦闘奴隷以外は冒険者などになることはできません。なお、戦闘奴隷との性交渉は当人の許可が必要となります。それは」
「奴隷平等法」
アントンは「……当たりです」と答えて言葉を紡いだ。
「それによって奴隷にも人権はありますし、私は信用している奴以外には奴隷を売る気はありません。悪魔の双子も希望を聞く限りは、私の損失にはならないと感じました。だからこそ、今、買おうと言っている客には売りたくないんです」
「それは……殊勝なことだな」
奴隷商人という存在は利益目的だと洋平は考えていたが、少し考えを改める。
アントンもそれを聞いて「ありがとうございます」とだけ答える。
「それでお前は誰が買う気になりましたか?」
「もちろん、双子だ」
洋平はそれ以外何も言わずにアントンを見つめた。対してポーカーフェイスを装ったものの、「本気ですか?」と考えるアントン。
アントンですら、洋平の人格を図れないのだ。多種多様な奴隷を扱ってきたアントンですら。
十数秒の時間が経った。
洋平の変わらない表情を見て、アントンが両手を上げて言葉を漏らす。
「わかりました。それなら金貨七十枚です」
アントンは洋平に双子を売ることを決めた。
少し興味を持ったことや、この先長い付き合いになると感じたから。
いや、もっと確信的な言葉があったのかもしれない。
洋平が双子を殺すとは思えなかったから。
それは人格を図れずとも断定して言えた。
もし殺すなら、先の攻撃の際に殺していたと。
洋平は七十枚の金貨を取り出しアントンに手渡す。
アントンは目を剥いた。
いきなり何もない空間から金貨が現れたのだから。
「どうしました? なにか驚くことでもありましたか?」
洋平はそんな言葉をアントンにかけた。
悪戯をした少年のように、屈託のない笑顔を浮かべる。
「いや」
内心、とても驚いていたが商人としての維持がアントンのポーカーフェイスを続けさせる。
それを手に取って枚数を数え、七十枚あることを確認してから、アントンは「これで大丈夫です」とだけ返す。
意趣返しとばかりに手元から紙を出すアントン。ただしアントンの場合は奴隷術のスキルでしかない。
洋平は洋平で、自身と似たスキルを持っているのだろうと驚きはしなかった。
それがアントンにとっては不服であった。少しでもいいから驚いてほしいと、心の中で思い唇を尖らせた。
奴隷誓約条。それがアントンの出した紙である。
「これに血で判を押してください。それで奴隷の所有者はあなたになります」
洋平は言われた通りに親指を歯で切り、血の判を押した。
少し紙が光った。奴隷誓約条の名前の欄にカナクラヨウヘイと書かれ、それを確認してからアントンは丸めて手の中へ消した。
軽くドヤ顔で洋平を見たが、表情が何も変わらずまた唇を尖らせる。
「今から連れてきます。少し待っていてください」
そんなことをアントンは言ってから、また奥の方へと消えた。
というわけで洋平が買ったのはアカとアオでした。
三人の獣娘はもう出ない、ということにはしない予定です。どっかで出ると思います。
タイトル回収は3話くらい後です。




