ダンジョンと奴隷2
少し短いです
計六人のそのパーティーを屠っていたのは、大きな狼。手にはジャックナイフが握られ、それで冒険者の遺体の肉を切っていた。
彼は視点を狼に集中させ、鑑定眼を使用する。
「……ビックコボルト……」
安直な名前であり、彼の知らない魔物であった。
コボルトやゴブリンなどのファンタジー的な魔物は、ゲーム内でのダンジョンでも出たが、このような敵などフロアボスの中にいない。
彼は少し驚いたが食事中のビックコボルトを見て安堵の息をつく。
まだ気づかれていない。
それはとても大きなことであった。すぐにあれを取り出し、敵に投げつける。
ちゅどーん、そんな擬音が正しいのかはわからないが、ビックコボルトの半円周上に大きな大爆発が起こった。
距離自体あり、さほど彼にダメージは入らなかったが、それでも熱は伝わる。
「やっば……威力失敗したな……」
もちろん、敵がいた場所に残ったものは素材のみ。肉と短剣である。冒険者の遺体は爆発に巻き込まれて消えてしまったようだ。
撃破したからか、彼のいる部屋が光に包まれる。それも一瞬のことだが。
光が収束し次いで奥の壁が開いた。
階下へ降りた彼は階段すぐ近くの小部屋に入った。
いわゆるターミナルと言われるもので、外へ出ることが可能である。
これを使用するためには冒険者カードが必要であり、またそれがあれば行ったことのある階層までなら行けるのだ。
「……そこはゲームと同じか」
そんな呟きを漏らしながら、外へ出る方の扉を開き冒険者カードを掲示した。
何も起こらない、揺れもないままで彼は不審に思ったが、外に出て実感する。
そこにあったのは一階層目の入口。
小さく「すっげ……」と言ってから、再度、中へ入っていく。
ただ単に戦ってないので、一階層目のフロアボスを倒せるかどうかわからないのだ。
爆弾の威力もわかって、もし駄目そうなら使えばいいだけ。
そんな余裕から彼は急ぎ足で最短距離を駆け抜けた。
行きと同じくらいの時間をかけ、フロアボスの控え室に入ったが、人はいない。扉も開いてはいないのだが。
待つこと五分。扉が開いた。
中に冒険者の遺体が、なんてことはなく、何もない空間が広がっている。
彼は不思議の思いながら首を傾げると、それは起こった。
クリア時の光のような、一瞬の強い閃光が目を襲い、すぐにそれは消えていく。
「グギャアアア」
そんな雄叫びをあげ、二度目のビックコボルトが彼の目の前に現れたのだった。
「フッ」
そんな息を吐く音を置いてけぼりにして、距離を詰めていく洋平。
一瞬、ビックコボルトの速度を上回った彼は、レヴァティーンを横薙にした。
ビックコボルトはそれを後ろに跳び躱し、雄叫びをあげる。
それに呼応するかのように、数個の光が出現して背丈百五十ほどの二足歩行の狼が現れる。
もちろん、素手にはジャックナイフが握られていた。
「ちっ、コボルトか」
その後のビックコボルトの速度は早かった。
彼を翻弄し先の行動は小手調べだったかのような態度をとる。
コボルトも速度は速い。だが彼はすぐに気付いた。
攻撃が軽い、と。
コボルトという存在は速さが取り柄であり、手に持つジャックナイフの攻撃は出血を対処できれば難しい相手ではない。
「そら!」
捻りを加え回転した槍の突きが一体のコボルトにぶち当たる。
ガードのつもりか、手に持つジャックナイフを突き出したが、それごと胸に大穴が空いた。
怒り狂ったかのように横から来る二体も、回転斬りで首を落とし残るは親玉一体となる。
疾、とばかりに距離を詰めてくるビックコボルトを、槍で受け流した彼は手を突き出す。
近くに来て彼がわかったことは、ビックコボルトの背丈があまり高くないことだ。名前負け、いや名前詐欺である。
ビックと付きながら百八十ほどのそいつは首を掴まれ、手に持つジャックナイフで反撃しようとした。
だがその前に、首に一撃が加えられる。
「火球」
超近距離による火魔法がビックコボルトを襲う。
特に大きなダメージはないように思えた。倒れることもなく、それの痛みから逃げるかのように、一瞬で距離をとったのだから。
だがそんなことはなかった。
「……足が震えてる。……ダメージは大きいみたいだな。体力も削れてるようだし」
鑑定眼で見たビックコボルトの体力はもう底が見えていた。
一発殴れば勝てるほどに。
だからこそ、彼は油断をするつもりはない。
「できっかな、レベル低いけど」
そんな呟きをしながら、逃げることのできないビックコボルトに槍を向けた。
「十字飛斬プラス炎」
技名がないためそのような変な攻撃技になってしまったが、それの威力は絶大であった。
付与によって炎を纏ったレヴァティーンから、斬撃が飛ぶ。十字を描き炎を乗せビックコボルトに被弾。
そのまま燃やし尽くしたのである。
残ったのは爆弾を使った時のように、ビックコボルトの素材が落ちていた。違う点があるとすればコボルトの素材もあること。
「……まあ、結果オーライってことで」
そんなことを言いながら素材を回収していった。
回収し終え階下のターミナルに乗り、外へ出る。先程とは違い、そのままダンジョンを後にした。
次に向かうのは道具屋である。
住宅街の奥にある古びたその店の看板は斜めになり、魔女の家と表現しても誰も驚かないだろう。
『マジックウィッチ』
それがその店の名前であり、一癖も二癖もあるマジックアイテム屋さんなのである。
次回辺りに奴隷が出るかなと。
もちろん、簡単には買えませんよ(遠い目)
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