初めての体験3
彼はダンジョンに向かっていた。
先の演説で時間を潰したことによって、冒険者が仕事をする時間とダダかぶりしてしまい、さほど話も聞けなかった。
そのため彼は焦っていた。
向かう最中に買った肉団子が悪かったか、と買い食いしていたことも露見させながらも、彼は本気で走った。
それでも得た情報は少なくない。
ほとんどがエリシャから得た情報であるが。
一般的な男性のステータスよりは高い彼。
詳しく書くとするならば、非戦闘員の成人男性の平均ステータスは百程度である。
彼は全ステータスがそれの五倍だと思えば想像しやすいだろう。
彼がエリシャから貰った物がある。
それは紙。ダンジョンの話がまとめられた小さな紙切れである。
エイトの街には三つの主要なダンジョンがある。
一つ目にキングと呼ばれる誰も攻略したことのない、難攻不落と呼ばれたダンジョン。その難易度の高さと、出てくる宝の価値の高さからハイリスクハイリターンなものとなっている。
過去、キングは規制などなかった。入りたければ入り、勝手に死ねばいいと。
だがそんな中で起きたのが素材の強奪である。その価値の高さから一つの盗賊団が、中に入った冒険者を襲った。
素材を奪い逃げるだけ。何人もの盗賊たちが殺されたが、最終的には黒幕の確保は無理であった。そして取られた素材の価値は金貨数百枚にも及ぶ。
そこで焦った冒険者ギルドの上層部は、ランク指定を出した。主に高ランク冒険者からの信頼をなくしたくなかったからだ。
二つ目にクィーンのダンジョン。これはAランクに上がる際に、使われるダンジョンでもある。
宝の質もそれなりに良い。そのためジャックをクリアしたので、その上のランクのクィーンに来る者も多い。
だがそれは落とし穴だ。
ジャックをクリアできたからといって、クィーンの一階層目で生き残れるとは限らない。
そしてクィーンは規制などはない。なので強い冒険者の稼ぎ場となっている。
それでも全容解明とまではいっていない。
ダンジョンは日に日に成長しており、キングとクィーンはまだ成長途中だ。
十数年前の最下層の情報も、今では四分の三層目辺りの情報となっている。
キングに至っては一度も最下層を見た者はいない。
最後にジャックである。今彼が向かっているダンジョンであり、初心者用の場所である。
それでいて一番死者を出すダンジョンでもある。
表にいる魔物と同レベルの強さと勘違いして、調子に乗った初心者が死ぬばしょである。
ちなみにこれは全て文面通りであり、この辛口はエリシャ自身のものであったりする。
小さく彼がメモした一階層目の魔物の情報も書かれており、完全に二階層目に行く気がないことがわかる。
「ウルフ……か」
走りながら漏れた言葉。
それは一階層目の敵の名前である。
四足歩行のただの狼である。ただし普通の狼と比べられないほどの速度を誇る。
それが彼の得た情報。それに加えて一階層ごとにフロアボスと呼ばれる、出てくる魔物の上位種が階段にいることくらいだ。
そしてそんな情報を反芻している間に、それは視界に入り始める。
街のはずれの木が茂っているその場。
三つは林立しており、まるで親子のようにも見えるだろう。
「中に入るのか?」
彼が視界に入り声をかける騎士。
死んだとしても誰が死んだかわからない。そのためにカードを見せ、期間から死んだかを計っている。
そんな仕事を請け負っている騎士である。
これもダンジョンをまとめたエリシャの紙に書かれていた。
「はい、これでいいですか?」
返事とともにギルドカードを見せた彼は、そのまま返事も待たずに中に入った。
それを叱責するわけでもなく、彼はジャックに足を入れた。
暗い洞窟。
彼が最初に思ったダンジョンの感想であった。
こんな中で魔物がどうやって生きるのか。
それを不思議に思いながら、彼はレヴァティーンを取り出す。強く握りしめる。
稼ぐ時間であるからか、中で冒険者の罵詈雑言が聞こえるが、彼には関係がないだろう。
歩いていても魔物が出ることはない。
それもそうだ、見つけ次第冒険者に狩られているのだから。
そのためジャックの上層で稼ぐことはとても難しい。
金は稼げないし、下に行けない初心者には少し辛いものがある。
そんな感想を持ちながら、彼はとある場所に向かう。
「知識があるかどうか、それが問題なのかもな」
まず入口付近のその場所に到着した彼であったが、すでにその場所は占拠されていた。
それを見て彼は即座にその場を捨てる。
ダンジョンの魔物は繁殖するものではない。
それはゲームと変わりなさそうで、彼は安心した。
エンカウント、いな魔物が誕生しやすい場所というものがある。
ダンジョンが成長するというのは、その中で死んだ生物の栄養を分解して、大きくなる。
ただしジャックはなぜか成長しない。
それは冒険者ギルドなどで永遠の疑問となっている。
「って書かれてるけど、まあゲームの設定だから仕方ないよな」
そう、それは設定なのだ。
クィーンとキングでのイベントは、アップデート毎に一つや二つは作られていた。
ジャックでそれをやるつもりは、運営にはなかったのだ。ただそれだけの話である。
「まあ、ダンジョンの構造はとてもはっきりしてるな」
人が死んで栄養としたり、落としたものを宝箱に入れる。そして栄養から魔物を体内で作り出す。
作れる場所が決まっているから、誕生しやすい場所があるだけのことだ。
それを彼は知っていた。だからこそ、五つあるうちの四つが潰れたが、穴場である最後の一つだけが残っていた。
それはまだ発見されていないであろう、壁の中。
彼はそこに入るためにフロアボスの一歩手前で魔力を放出した。
魔力を吸収する場にそれはある。
そして開け方は、
「壁を五回叩く、だっけ。……って、うおっ」
壁が半回転して、彼を巻き込んで入れ替わる。
ちなみにこれは盗賊団のイベントの名残であるが、それは一階層目ではない。
そのために中にいるのは、
「グルルゥ」
二十数体の狼の群れのみ。
彼をその双眸に収め射殺さんとばかりに、睨みつけ鳴き声をあげる。
だが、その時間があればスキルを使えたのである。
「強奪……うんまあ、十三体には成功したからいいか。色欲」
◇◇◇
「というわけで、二十四体のウルフを倒してきました」
ギルドカードを提出しながら、笑顔を浮かべる彼。
対照的に「はっ?」と目を丸くするエリシャ。
もちろん、ギルドカードの倒した魔物のデータの中に、ウルフの情報を見てよりエリシャは驚いた。
彼がモンスタールームとなっていた、隠し部屋で倒したウルフの総数は二十四体。
隠し部屋のことを隠しながら、ウルフを倒したことだけをギルドに報告した。
彼が冒険者ギルドを後にして三時間のみ。
その間に一階層だけで二十四体狩って来たのは一人もいない。
知らず知らずのうちに、彼はギルド内に伝説を作ってしまったのだ。
戦闘シーン書くのめんどくさかったので、省いてみました。
盗賊イベントは後に出るのでお楽しみに。
次回、フロアボスと対決します。もう少しで他のキャラも出るのでお待ちを。戦闘シーンを見たいなら、次回をお楽しみにしてください。
これからもイヤホンをよろしくお願いします。出来ればブックマークや評価等もよろしくお願いします。




