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初めての体験2

書けたので投稿します

 彼の目に日差しが当たる。


 いつの間にか開けられているカーテンからの光。昨日閉められていたのを彼は確認していた。


 寝ている間に開けてくれたのだろう。

 そう思い開けた誰かに心の中で彼は感謝した。


 階段を降り昨日のテーブルに座った彼は、テーブルにうつ伏せで倒れているアルを一瞥した。


「おはようございます。大丈夫?」

「……うっあ、ああ。大丈夫……頭が……痛いだけ」


 アルの白い肌は青くなっており、具合の悪さをより強調させた。


 そんな中、手をパンと叩いた者がいた。

 厨房から出てきたその少女は、アルにコップを渡し、彼を見て口を開いた。


「調子に乗って飲みまくるのがいけないんです。甘やかさずに怒ってください」


 エミルであった。

 昨日の件があり彼は少し気恥ずかしさを感じたが、エミルの態度はあったばかりと変わらない。


 やはり雰囲気からあんなことをしなければ、と彼は後悔した。

 だがエミルはエミルで本心を隠すのに精一杯であった。彼を好きなのはエミルだけではなく、アルも同じ。


 同室での寝言で「ヨーヘイ」と呟いていたアルに非があるだろう。


「でもさ、そんなこと言いながらも、水を持ってくるエミルは優しいよ」


 口から溢れた彼の言葉。


 ただの褒め言葉だがエミルを喜ばせるには事足りていた。


 そんな気持ちを隠しながら、またエミルは薄い唇を開く。


「……いえ、回復魔法をかければ楽にはなるんです。それをかけない私は」

「お灸を据えたいんだろ?」


 話を遮る形で彼はそうエミルに言った。

 それがエミルにとっては嬉しかった。自分のことをわかってくれてると、そう思ったから。


 それを言った当の本人は気にしてはいないが。


 兎にも角にも、彼はそのような調子で全員が揃うのを待った。


 マリアベルは厨房で食事を作っていたらしく、まだラルが来る前に食事が並んだ。


 余談だが、その際にエミルがリルとラルを起こしに行った。

 二人とも朝が弱いのはさすが双子というところだろう。


 眠たそうな四名と倒れている一名がいたが、ほとんど昨日と変わりなく食事は済んだ。

 何度かコーヒーを口に含んだラルが溺れかけたことはあったが。



 ◇◇◇



「今日はありがとうございました」


 回復魔法をかけられて出会った当初と変わりない、凛々しいアルがそうマリアベルに向かって言った。


 他の三名も同様に「ありがとうございました」と言い、示し合わせたかのように頭を下げた。


 食事も終え、騎士の業務に向かうには丁度いい時間となっている。


 冒険者と騎士の違いはそこでも出てくるだろう。騎士が仕事に出る時間は早く、冒険者はまだ少し余裕がある。


「また今度来なさい」


 マリアベルは笑いながらそう騎士たちに言った。彼も「また今度」と同様に笑いかける。


 アルとエミルが嬉しそうに笑い、リルとラルは頭を下げるだけ。


 彼は「嫌われているのかな」と最初思ったが、昨日のことから「それはないだろう」と考えを改める。


 騎士たちがいなくなった食事の場はとても静かとなった。全ての片付けもエミルとラルの助けで済んでいるため、マリアベルは先に椅子に座った。


 彼はそれの対面になる椅子に座りこむ。


「……静かね」


 感慨深げにマリアベルは嘆息を漏らす。

 嫌悪の感情よりも寂しさが勝っているようで、少し目を細めた。


「そうですね」


 彼はマリアベルの目を見ながらそう答えた。


「それで、今日はどうするの?」


 昨日、コロニーを潰したのである。


 今日明日でジャックでも攻略しに行くのか、とマリアベルは笑った。


 初心者向けだが力がなくてはすぐに死ぬ。


 今の彼でも多分死ぬとは思っていたからこそ、どのように返答するのか期待した。


「ジャックの一階だけを攻略してみようかと。一度、中を覗いてみるのも面白いと思いまして」


 そんな彼は薄く笑った。


 マリアベルはその姿をじっと見る。本心であろう、そう認識した。


 そしてそれは冒険者として重要なことである。


「……まあ、頑張ってらっしゃい。説明とかはいるかしら?」


 そんなマリアベルの言葉に彼は首を横に振る。


 マリアベルは驚いた。情報もないままでいこうとするのか、と。


「冒険者で話を聞いてみようかなと思いまして。練習でもあるのでマリアベルに聞いたら意味がないです」


 そんな彼の言葉にマリアベルは笑った。

 期待以上の言葉を彼が放ったからだろう。口元を隠しながら笑い続けた。


「いいと思うわ、でも一つだけ聞きなさい。情報を得られないなら、行かないこと。そこまでの用心を持たないとすぐに……死ぬわ」


 マリアベルはそう彼に告げて、店のシャッターを上げに行った。ガラガラという音だけが彼の近くには響いていた。


 それからすぐにマリアベルの家、いな宿屋を出た彼。


 頭の中で先の言葉を反芻しながら、冒険者ギルドに向かう。昨日のようなコロニー撃破ではなく、簡単なことで今日を終わらせようと意気込んだ。


 人混みは昨日より少ない。


 何かあったのだろうか、と彼は思ったがそれはすぐにわかった。


 何人もの人がどこかへ集まっているのだ。


「来て三日目だというのに、また厄介事か」と彼はため息をついたが、すぐに顔を引き締める。近くを通った人の声が聞こえたからだ。


「大通りで騎士たちの功績が発表されるようだ!」


 彼は走った。

 マリアベルの速度を誇ることはできないが、それでも人混みを避けながら走ったにしては早い。


 ダンジョン街の中心に大きな噴水がある。なにか大切な物事を発表する際に、そこを使うことが多く今回もまた同じだ。


 その中心に壇が組まれていた。急いで作られたらしいそれに、一人の髭面のおじさんが乗っている。


 顔からして齢は三十ほどだろう。ジェントルマンと呼べるほどの凛々しさを持ちながら、その威圧は弱きものならひれ伏すほどだ。


 彼の名はリーカン、平民派騎士の代表である。見た感じそこにリーカン以外はいない。


「皆の者、集まっていただけて感謝する。実は近くの魔の森の浅瀬にて、ゴブリンのコロニーが作られた。そこにゴブリンキングがいたそうだ」


 低いながらに浸透する声が響く。

 その声が耳に届いた者たちは、発狂するかのように頭を抑え、「嘘だ」と連呼していた。


 それもそのはず、一度エイトはゴブリンキングの手によって壊滅しかけたのだから。


 冒険者ランクの高い者は戦争によって街にはおらず、その者たちが戻ってくるまでエイトは蹂躙されていた。


 それはとても昔のことであったが、そのような歴史を学び畏怖する者も少なくない。そしてその悲鳴をあげる者のほとんどは女性である。


「だが心配はいらない! 新人冒険者と新人騎士である私の部下によって、その魔物は殺された! これが証拠である!」


 ゴブリンキングを撃破した時に落とす剣がそこには掲げられた。彼が倒したゴブリンキングの落としたものである。


「調べてもらっても構わない! これは正真正銘、最近倒されたものであるのだから!」


 その姿はまるで扇動者である。

 悪しき宗教団体の洗脳のようなそのテクニックだが、嘘はついていない。


 アルたちの力はゴブリンソルジャー以下だ。四人が集まっても彼には勝てないほど。


 だが、だからこそ、そこをリーカンは強調した。


「我らの未来は明るい! 」


 そうして踵を翻すリーカン。


 端から現れた動きやすい制服の騎士たちによって、壇は片付けられ野次馬も散り散りになっていく。


 彼はその人混みに紛れ冒険者ギルドに向かった。

リーカンは良い人ですよ。そのうちわかりますがやり方が少し特殊なだけです。

自身のイメージとしては差別などをせずに民を幸せにしようとする、良いヒトラーですかね。


これからもよろしくお願いします。出来ればブックマークや評価等もよろしくお願いします。

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