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依頼完了1

「これを……本当かい?」


 懐疑的な目を向けるフック。

 フックの目の前の受付のテーブルに置かれたゴブリンの素材は百を超えていた。


 それを新入りである者が日暮れ前に倒してきたということ。


 一方、エリシャはというと彼により情熱的な視線を向ける。


 マリアベルはフックにジト目を向けている。


「どうだい、私の言葉に間違いはなかったじゃない」


 その言葉に何も言えないフック。


 当たり前だろう、ただ事実を事実と捉えられないだけなのだから。


「それで依頼完了でいいのか? 初めてのことでよくわからないが」

「あっ……ああ。依頼の件は大丈夫だ」

「まあわかるわ。私も規定量の倍以上持ってくるとは思わなかったから」


 フックの心を読むかのようにマリアベルはそうフォローした。


 エリシャはカードの提出を求め、彼はそれに応じた。


 受けた時と同様にカードをなにかにスキャンして何かを打ち込む。パソコンのような、店に並ぶレジのようなものだ。


「カードに魔力を流せますか?」


 少し可愛らしい声を意識的に出し、彼にそう聞くエリシャ。


 彼の「ちょっと……」という声を待ってましたとばかりに手を取った。


 彼の手に柔らかい女性の手の感触があってすぐになにか暖かいものが流れる。指などを切った時の血のような脈動。


「今のが魔力です」

「いえ……あの……魔力の流し方がわからないだけなのですけど」


 少し言葉が足りなかったことに彼は後悔した。


 彼は魔力を放出することはできる。それができなければ魔法の酷使はできないのだから。


 そしてそれを聞いて顔を赤くするエリシャ。


「あっ……申し訳ありません。えっとですね、流したいものに触れて魔力を放出すればいいだけです」


 流石に触れ合いたくてそうしたとは言えず、ただ謝ることしかできないエリシャ。


 反対に彼は簡易的な説明ではあったが、それでようやく理解できた。


 カードを手に取り魔力を放出する。


 カードの縁を蛇が這うように魔力が流れていく。流動しており触れた部分から右の方へ流れ、そして左の方に行き着く。


 魔力の消費はない。あっても数値に換算されないほどのごく少数だ。


 それは自身の魔力が流れ戻ってきて、そして流れていくサイクルが作られているからだろう。


 ある程度流した後、カードから空に情報が投影される。


 倒した魔物の情報と素材提供だ。


 ゴブリンが系百十二体、ゴブリンソルジャーが二十二体、ゴブリン生産系進化種が二十四体だ。


 そして、ゴブリンキングが一体。


 登録する前に倒したゴブリンの情報はない。だが最後の一つで周りが騒然とする。


「ゴブリン……キング……」

「あなた……いえ、そう考えるとこの量も理解できるわね」


 フックとマリアベルは同じことを考えた。


 彼は各個撃破でゴブリンを倒したのではなく、一つの小さなコロニーを潰したのだと。


 そしてゴブリンキングの素材がないのにもなにかの理由があるのだと。


 まさかそれを騎士に提供したとは思わず、いくらかの疑念がフックを襲う。


 素材の量から小さなコロニーなのは確定しており、小さなコロニーを全ているならゴブリンキングも若い。


 成長を続けている彼なら倒せるかもしれない。

 だが若いとはいえゴブリンキングの素材は如何様にも使うことができる。


 例をあげれば魔法の回復薬、ポーション等だ、それも高価値の。

 それに伴ってゴブリンキングの素材は高く買い取られ、需要も比例して高い。


 帝国と敵対する王国のスパイであれば、そんな疑念が強くなる。


 だが反対に一切彼を疑うことをしないマリアベル。

 彼の人柄から価値も知らずに渡した可能性の方が高かったからだ。それは間違っていない。


 彼はバレた、とばかりに冷や汗をかきながら薄く笑う。


 それを見てマリアベルは小さく聞いた。


「これどうしたの?」

「……俺よりも必要としている人がいたのであげました。……駄目……でしたか?」


 そんな彼の顔を見て、心の中で黄色い声をあげるエリシャ。


 それを見てため息を吐くマリアベル。

 常識を教えなければいけないか、と心の中で決意した。


「駄目じゃないわ、だけど素材があれば冒険者ギルドが得をするのは事実よ。……それに疑われるかもしれないからね」


 そこで彼は疑われていることを理解した。

 頭の中で騎士との話を言うかどうか悩んだが、黙ることにした。


 最悪アルたちが助けてくれるだろう、と軽い気持ちで考えて。


「……その人、スパイじゃないですよ」


 不意に開いた扉から入ってきた一人の少年。


 その言葉でフックが驚いた顔をした。マリアベルはやっぱり、というような顔をしている。


 それだけで少年が冒険者ギルドにとって信頼されているのを理解できた。


「それは本当かい? キール」

「うん、まあ渡した相手はわからないけどね。嘘をついてはいないみたい」


 確かに彼の言葉に嘘はない。


 派閥争いでより必要な平民派の騎士がいたのだから。


 そしてフックは最後に一つだけ聞くことにした。簡単なことだ。


「……その相手は帝国に仇なす者か?」

「いいえ、それはありません」

「……うん、大丈夫。帝国の人が相手みたいだね。でもそれ以上はわからない」


 キールはケラケラと笑った。

 それを見て訝しげな視線を向ける洋平。


「ああ、キール君は数少ない審判員の資格を持っているんだ。……要は嘘をついているかの確認だね」

「そうそう、あっ別に暇だからやっただけだから。普通はこんなことしないよ、得ないし」


 余程自分の言葉が面白かったのだろう。


 より大きな声で笑うキール。


 フックは彼の近くまで行き、耳元で囁いた。


「こんな見た目だが、この街で三番目に偉いからな」


 彼は驚いたのを内心で留め、くすりと微笑む。


「それで何か用なのかな?」

「えーと、あーそうそう。騎士の話だよ」


 それを聞いて目を剥くフック。


 彼は大体のことを理解していたためあまり驚かなかった。


 だがそれは悪手だったようだ。

 キールが小さく呟いた「ふーん」という言葉。


「……その話は奥で。エリシャ! 依頼完了手続きを引き継ぎお願いする」


 エリシャは「はい」と返事をし、それを聞いてキールと奥に戻るフック。


 彼はまだ休むことができないようだ。

新キャラ、キール君の登場です。

なぜフックがキールを呼び捨てにできるのかは後々出てきますのでお楽しみに。


ダンジョンまでの道のりが近くなってきました。

奴隷までの道のりは少し遠いですが。


これからもイヤホンをよろしくお願いします。出来ればブックマークや評価等もよろしくお願いします。

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