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悪い魔女と幼い正義の魔法使い 後編

前編の続きです。登場する悪魔や神様の設定は実際の事実と異なる場合がございます。

 採取を開始しておよそ三時間が経過した。アトリエを出た時間から考えるに今は丁度日本で言う所の丑三つ時に差し掛かろうとしていた。

手にした網籠も大分満杯になり、ズシリと重みを増している。


「これくらいでいいかしら」


今年は例年以上に素材が採取できたが、そんなときに限ってアイテムポーチを置いて来てしまったのは痛手だったと今更ながら思う。

アイテムポーチは物にもよるけど、見た目は腰下げ程度のただの革袋。しかしその性能は極めていい加減で、空間変異の魔法が施されており本来一キログラムも入らなそうに見えるが実際には十キログラム以上詰め込める。通常の合皮ではなく、ミニヒドラの喉袋のどぶくろを素材しそこに強化魔法をかける事によってでたらめな量を収納できるようになる。


「それにしても、今年はやけに嫌な紅さね・・・」


もう何度も経験したけど、今日は何故か厭な寒さを感じる。

早く帰って布団で暖まろう。そう思ったのに・・・。


「いい加減吐け!お前が魔女だって事はわかってんだよ!」


耳障りな男の声が聞こえ歩みを止める。

こんな時間に、それもこんな危険な森に一年の中で最も危険な時期に人がいるなんて明らかにおかしい。

それも、男が口にした魔女と呼ばれた存在。私が知りうる限りこの地域に本物・・はたった一人しか知らない。


気になり声のする方へと忍び足で近付き、茂みから様子を伺う。


「信じてよレリー!私は本当に魔女じゃないわ!何かの間違いよ!」


「黙れ!卑しい魔女風情が!そう言って一体何人の男を誑かしたんだよ!」


覗いた先は一人のブロンズ色の髪の女性を十字架に見立てた丸太に磔にし、複数の男がその女性を囲ってる。女性の足元は枝や落ち葉が敷かれており、近くには灯をともした松明が置いてある。

・・・いつでも火炙りにできるって事ね。

挙句に女性は服を殆ど剥がれて局所だけをギリギリで隠せているだけのあられもない姿にされていた。露にされられている肌には複数の打撲痕が痛々しく付けられている。


「このクソアマが!お前は魔女で俺や他の男に媚薬を使って虜にさせて弄んだんだろ!」


「違う!本当に私は魔女じゃないの!どうして信じてくれないのよ・・・!」


女性の声は既に掠れており、今にも喉が潰れそうなほどだ。

魔女狩りの最も残忍な部分は女はどんな選択肢をしても殺されるか、陵辱されるかしかないという事。

魔女じゃないのに魔女と白状するまで地獄のような尋問をかけられ続け、責めに耐えかねて魔女だと言い許しを請うても“やっぱり魔女だったか”と言われ惨殺される。

過去から連綿と続くこの魔女狩りは恐ろしい事に“ただの一度も本物の魔女を”裁いた事は無い。


とどのつまりこれはただの男達の逆恨みから始まった『自分達の行いを正当化させて気に食わない女をなぶる』という最悪の行い。

最近は落ち着いてきたと思ってたのに、まさかまた私の目の前で起こるなんて。


「いい加減にしろよ!お前が浮気して俺以外の男と寝たのはここにいる奴らから聞いてるんだよ!しかも全員お前からホテルに誘ったらしいな?」


「違う・・・違うよ・・・本当に浮気なんてしてない!レリーは私の事嫌いなの・・・?」


乾ききった頬が一滴の涙で濡れる。


「ふざけた事ぬかすな!俺はお前を愛していたさ!お前が裏切りさえしなければな!」


「裏切ってなんていない!私はレリー以外の人とは寝てないし、好きにもならない・・・のに・・・」


もう殆ど女性は声を出すことが出来ないほどに衰弱している。


「だがここにいるビリーもハーヴェンもクロウもお前に体を求められたと証言してるんだぞ!“証拠”だってある!!」


「してない・・・っ!本当に・・・けほっ!」


「(っ!)」


喉が裂けたのか、既に内臓がやられているのか口から血を吐く女性。

ビリーと呼ばれた恰幅の良い男もハーヴェンと呼ばれて反応してた優男も、最後に呼ばれたクロウというガラの悪い男も全員胡散臭い。

いや、それどころかビリーと言う奴は歪んだ笑みまで浮かべている。

誰が犯人であれ、これ以上はあの女性の体がもたない。


「(フローズンブレード!)」


心の中で術式を編み小さな氷の刃を女性の近くにある松明へ向けて飛ばす。

氷の刃は松明の火を切り裂き鎮火させると同時に地面に鈍い音を立てて突き刺さる。


「な、何だ!?誰かいるのか?!」


物音に反応し周囲を見回しながらレリーが叫ぶ。


「えぇ、勿論居るわよ?」


ゆっくりと女性が磔にされている集団の中央へと向かう。さっきの物音の正体が自然の物ではないと地面に刺さった氷の刃から察したらしいレリーは若干引き攣った顔で私を見やる。


「だってここは魔女わたしの住んでる森よ?当然じゃない」


言いつつ女性の前まで来たところでスカートの裾をひるがえし男たちに目を向ける。


「どう?このは魔女じゃない証明になるわよね?その上でお目当てのわるーい魔女も現れた。どうする?まだこの娘への尋問は続ける?」


男達は事態が呑み込めないらしく数分硬直する。


「ホントにもう、酷い事するわよね。こんなに体を痛めつけられて・・・」


女性も同じく目をまん丸にさせて私を見ている。

―――この絶望的な状況で本物の魔女が来たんじゃ敵なのか味方なのか不安にもなるわよね。


そっと女性の両手足の拘束を解き、自己治癒能力を高める白魔法をこっそりとかける。

普通の回復魔法じゃきっと更に怖がらせるだけだろうからと、自己の治癒力を上げるだけに留めておいた。

手足はすっかりうっ血していて縄の跡が痛々しく刻まれている。

体も薄着のせいだけじゃない、恐怖で震えている。


「(このままじゃ風邪をひいちゃうわね・・・)」


そう思っても私もロクな物を持っていない。


「これ、気休め程度にはなると思うわよ」


取り敢えずと私の羽織っていた紫色のケープを羽織らせてあげる。

なぜ魔女の私がこんな事をするのかと疑問顔の女性。でもその理由には答えず再び男達の方へ向く。


「・・・・・・。や、やっぱり魔女とグルだったんじゃないか!!魔女じゃなくても魔女の味方をしてたんなら重罪だろ!?なあ?!お前らもそう思うよな?!」


レリーは予想通りまだ女性への疑いを取り消すつもりはないらしい。

仮にもう疑っていなかったとしても、ここまでやっておいて『やっぱり彼女は魔女じゃなかった。無罪だったんだ。疑ってごめんね。これからも付き合ってくれる?』何て虫のいい事余程ツラの皮が厚くない限り言えるわけない。


「そ、そうだぜ!きっとそこの魔女と結託して俺らを騙したんだ!やっぱ女ってこえーよな!」


「レリーとビリーの言う通りだ!女はみんな悪女さ!」


「わざわざ俺らの前に顔出したんだ。何されても文句言えねぇよな?」


男四人は未だに私達のせいにしようと目論んでいるらしい。


「そうねぇ、でもその前に“誰が嘘つきか”『ダンタリアン』に聞いてからにしましょう?」


「んなっ?!ダンタリアン?!何を言って・・・」


「真実を極めし書物の猛者よ!虚実審判を行い、悪人に裁きを与えよ!『偽王を断罪せし革命者ジャッジ・オブ・ダイタリアン』!」


召喚魔法の詠唱を行い、真実を見通すソロモンの悪魔をグリモワールとして呼び出す。

召喚された幾何学模様の魔導書『ダイタリアン』を右手に持ち、虚言刑罰の種類の設定を手早く終わらせる。


「さ、もう一度本当の事を聞いてみましょう?レリー以外のそこの三人。本当にこの娘に迫られたの?」


「んなもんお前みたいな魔女が変な魔法かけたらイカサマできるに決まってんだろ!!」


レリーが吠えるがあいつには今は聞いていないので無視する。


「自分の言っている事が本当に正しいと、嘘偽りないと自信があるならこんな事に臆さずはっきり言えるわよね?」


「「「・・・」」」


「だんまりを決め込むなら嘘だったって事になるわね?」


「ち、ちがっ・・・ぬぐぅぅ!!?」


慌てて違うと言おうとしたハーヴェンは“嘘を言おうとした瞬間”に全身に流れた電流で体を痙攣させ言葉が遮られる。


「違うの?じゃあちゃんと言ってみなさい」


「ひ、卑怯だぞ!こんなやり方で自分の都合のいい答えを言わせようとするなんて陰湿だ!」


自分達の事を棚に上げて陰湿だと突きつけるレリー。


「あなた達がこの娘にやっていた事はそれよりも酷いと思うけど?御託は良いから、この女性と性交渉をしたのかしてないのかYES・NOで答えなさい!」


「うぐっ・・・お、俺はやってない!ビリーかクロウの奴のどっちかだ!」


痛みを最初に味わったハーヴェンは素直に“ヤってない”と証言。答えは真実のようで刑罰はなかった。


「・・・けっ、怖気付きやがって。・・・一応言うが俺は怖気付いたわけじゃあばばばばば!!」


怖気付いていたらしい。ほんっと馬鹿ね。


「くそっ!俺もだ!俺もそいつと性的関係は持ってねぇ!これでいいんだろ!」


唾棄と共に捨て台詞を吐くクロウ。でも実際私が嘘か本当かを見抜いているわけじゃない。ましてや都合のいい答えを言わせるだけならこんなまどろっこしいやり口でやらない。


「残るのはそこの太っちょさんね・・・、あなたはどうなの?あの娘とエッチしたの?」


これで真実が分かる。全員迫られてないし、関係も持ってないとなれば女性の無実が証明できる。

けど・・・。


「俺はしたよ・・・、あぁしたさ!どうした?あの二人にやったみたいな電流の魔法はかけないのか?」


ビリーの今の発言は、嘘じゃなかった・・・。少し想定外だったけど、予定外ではない。

何を勝った気でいるのかしら・・・つくづく理解できない。


「えっと、あなた・・・まだ名前聞いてなかったわね。あのビリーという男と、性交したの?」


女性に目配せだけ送り、出来るだけ恐怖心は煽らない様にゆったりと話した。


「わ、私は・・・えと・・・しっ・・・、うぅ・・・」


言い淀んでいるところを見ると、関係をもってしまったのは間違いない。

ダイタリアンが虚実診断を下している時点でそれは分かっている。でも問題なのはそこじゃない。


「し、してな・・・ひうっ?!」


後ろめたさからだろう、女性は嘘を吐こうとしてしまった。

虚言刑罰は私が手にしたグリモワールから半径十メートル以内の人間に効果が発揮される。

つまり私もこの女性も例外ではないという事。嘘を吐いた場合刑罰が起こる。

だからこういう事も想定して刑罰の種類を男性には強力な電流、女性には微弱な電流が体に流れるように術式を組みなおして設定した。


「は、ははは・・・。な、なんだよ。やっぱり浮気してなんじゃねぇか!今自分でそれを証明しただろ!レイラが否定できなかったのが何よりの証拠だろ!」


「黙って!話は最後まで聞きなさい!」


自分の発言で浮気をしていたという疑いを確固たるものにしてしまったと思ってしまったのか、女性・・・レイラはすっかり青ざめてしまっている。


「レイラ・・・落ち着いて。何も怖がることはないわ。貴女は何も間違った事はしてない」


自責の念で心が壊れそうになっているレイラは私の言葉に力なく首を横に振った。


「レイラ、貴女は本当はビリーと肉体関係を持ってしまった。これは本当なのでしょう?」


「う、あぅぅ・・・。は、はい・・・」


声に出してはいないけど、男どもは下卑た笑みを浮かべてるのがよくわかる。


「それはレイラの意思?」


「ち、違いますっ!本当です・・・っ!」


レイラは目尻に溜まった涙を零しながら必死に声を押し出して否定した。


「レイラがビリーと肉体関係を持ってたのは事実、でも“レイラが誘ってそれを望んだわけじゃない”これで殆ど正解は出たわね?」


「わ、罠だ!これは罠だ!魔女が俺を嵌めようとレイラを操っぐぎゃぁぁぁぁ!!!」


見苦しく言い訳をしようとするクズに制裁が与えられる。

他二人の“発言は”嘘じゃなかった以上、無理矢理強姦したのはビリー一人という事になる。

後は・・・。


「ビリーがレイラをレイプしてたというのが真実だったわけだけど、ハーヴェンとクロウはこの事を知っていた?」


「なんでまた俺らに聞くんだよ!?俺らはやってないってわかっただろ!」


一応嘘はないみたい。


「いい加減にしろよクソアマ。もう答えは分かったんだ。これ以上何聴きてぇってんだ」


「質問に答えなさい。ビリーがレイラをレイプしていた事を知っていたかどうかを聞いてるのよ。そんな簡単な質問にも答えられないの?」


「そ、そんなの知らなかっ・・・うぐぁぁぁぁぁ!??」


ハーヴェンは知っていた。その横でケロウジを噛み潰したような間抜けヅラをしているクロウ。


「ふんっ!俺もハーヴェンも知ってたさ。これで満足か?クソビッチが」


「そうね、後は論より証拠でしょう?」


「証拠?」と男達はぽつりと零しながら「んなもんあんなら最初からやりゃあよかったんだ」とひそひそ話している。

私はグリモワールを開き、空中に小さな魔方陣を形成し開いたままグリモワールを宙に置く。

スカートのポケットから小さな縫い針を取り出して左の人差し指の腹を軽く指す。

指から血が滲むのを確認し、一滴グリモワールの中心に落とす。


「ダイタリアンよ、真実を暴かんとする知恵者よ。血の盟約に従い、我が論を証明する物あれば、ここに示し給え!」


魔言まごんを詠唱した後、羽ペンを右手に顕現させる。さっき垂らした血をインク代わりにし、羽ペンで血を伸ばし文字を形作る。でたらめに動かすペンは血を的確にヒエログリフの様な文字で文章を編んでいく。文は虚実審判で分かった真実と捻じ曲げられた虚偽の内容が記されている。

私が文字を書き終えるとグリモワールから眩い光が放たれる。

光は軌跡を描きながら真っ直ぐにハーヴェンの懐へ潜り込む。


「な、何なんだ!?何が起こってるんだよ!」


狼狽えるハーヴェンの懐で光が炸裂。その瞬間に懐のポケットからハンディカメラが地面に落ちる。


「あ・・・っ!」


「ふーん。これが動かぬ証拠ってやつね」


カメラをハーヴェンが回収する前に素早く拾い上げる。


「ばっ、ばかっ!テメェなんで今日それ持ってきてんだよ!?」


「い、いや!違うんだ!あのカメラは間違いなく家に置いてきたはずなんだ!」


もう十分言い逃れが出来ないほど自滅しているけど・・・。


「っ!?い、いやっ!それは・・・」


「レイラには辛いかもしれないけど、この中身の内容見せてもらうわね」



カメラに録画されていた動画は目を覆いたくなるような悲惨極まりない強姦の瞬間だった。

嫌がるレイラは涙ながらに拒絶しているのに、最初に撮った映像や写真をネットに公開すると脅し度々犯していたようだ。

発言通りハーヴェンもクロウも直接肉体関係は持っていなかった。彼らはその様子を撮影して歪んだ快楽を貪り楽しんでいたという事。

そんな無理矢理犯している映像の中に一つだけ雰囲気が違うものがあった。

内容は、レイラが自らビリーの体を求めているように見えるもの。それに対しビリーは『レリーという彼氏がいるのにこんな事ダメだよ』と拒むポーズをしている。


「つまり、レリーにレイラだけを悪者に仕立て上げられるように脅してレイラが誘っているように見える映像も取らせたってわけね・・・」


「マジかよ・・・。こんなのってありかよ!?」


動かぬ証拠と、凄惨な彼女の姿。今まで自分が疑って、制裁を加えていたのが全くの逆恨みであった事を

ようやく理解したレリー。

地面に両膝をつき、頭を抱え倒れこんだ。


「何か言い訳はあるかしら?最低なお三方さん?」


私の問いに三人は何も答えない。


少し待ったところで。


「俺らが犯人だったとしてよ、この後魔女はどうする気なんだ?サツにでも突き出すのか?んなことすりゃ俺らより魔女のほうがよっぽどサツに付け狙われそうだな?くはっはは!」


レリーも同罪と判断して、強気に出たのはクロウだった。


「そうねぇ・・・。どうする気か、なんて愚問ね」


一歩、二歩と少しずつ三人と距離を取り。


「私は悪い・・・。魔女なのよ?あなた達下種(ゲス)をこのまま逃がしてあげると思う?」


右手に持っていたグリモワールを左手に持ち替え、懐から茨のように棘の付いたむちを取り出す。


「ま、待てよ!い、今のは冗談だろ!?自首する!だからみのがぎゃぎゃぁぁぁ!!?」


「まだダイタリアンの効果は持続してるの。自首する気もないみたいだし。それに」


「まっ!?やめっ!?」


言葉を待たず鞭を振るうとヒュンという風切り音を伴いながら波を打つ。

鞭は刹那の合間にビリー、ハーヴェン、クロウの首を豆腐を切るかのようにあっさりと刈り取る。


「ひぃっ!?」


どすどすと地面に三人の首が落ちる鈍い音が響き、遅れてレイラから悲鳴が上がる。


「最初から殺す気だったんだから。いかな弁明も聞く気はないわ」


断頭台ギロチンで処刑するのと同じか、あるいはそれ以上の速度で頭部を切断したため三人はまだ少しだけ意識が残っているようで幽かに呻いている。

レイラもレリーも絶句し、悲鳴も出さない。


「それじゃ、後は彼氏のレリーだけね。当然あんたも私から見れば同罪。浮気をしていて許せなかったからと言って、こんな拷問にかけていい理由にはならない!」


「や、やめ・・・やめてくれ!頼む!本当に知らなかったんだ!レイラがあんな目に遭わされているなんて!本当だ!だから・・・」


次は自分が死ぬ番だと、停止しかかった思考でも悟ったらしく半狂乱で言い訳を述べるレリー。


「知らなかったからで済むなら人間社会に警察なんていらないのよ。お分かり?愚かな人間の男さん?」


腰が抜けているみたいでへたり込んだまま後ずさりしている。


「さようなら。精々あの世で愛する人を疑った事を後悔なさい!」


「やめてください!」



―――これは、流石に予想外ね。


レイラがレリーの前に立ち塞がり庇う。足は震えているし、まだ傷も癒えてないのに、彼女は私の前に立った。


「なんでそんな最低な彼氏を庇うの?あなた、自分が何をされたのか分かってるの?」


「わ、わかってます!でも、でもっ!」


ぐっと右手を握り締め声を絞り出すレイラ。


「私はっ!それでも彼が!レリーの事が大好きだから!」


「っ?!」


理解できなかった。ここまでされて、裏切られて、それでも好きなんてどうかしてる。


「た、確かに彼に今回酷い事されたけど、でもそれはレリーが私の事本気で愛してくれてるからだって、思うから」


「愛してる恋人を拷問する奴のどこが・・・。あのままじゃあなたは死んでたのよ!」


殺されかけても、好き?殺されかけたのは、愛があったから?

そんな訳ないじゃない・・・。バカみたい。

みたいじゃない、バカそのものよ。


「それはっ・・・。助けてもらっておいてこんなこと言いたくないけど、人間は過ちを犯す生き物なの!それでもその過ちを乗り越えて人は成長していくの!どんなに時間がかかっても、失敗を克服できた人はもっと強くなれる!“魔女には分からない”かもしれないけど、それが人間なの!」


私には、分からない?魔女だから?

人間はそれが出来るから強い?


ほんとだ・・・、やっぱり私には、何一つ理解できない。

レイラが言っている言葉の意味も・・・。




『ダイタリアン』が反応しない理由も――――――。




「レリーは、レリーは私の事を真剣に思ってくれていたからあんなに怒ってたんだと信じてる!私だって逆の立場だったら怒ると思う!だって悲しいから。好きな人が他の人のところに行っちゃうなんて・・・だから!」


「・・・もういい。もう、レイラの気持ちは分か・・・・・・。ったから。帰っていいわよ」


「い、言い過ぎたかもしれないね・・・。ごめんなさい。でもっ!きっと貴女にも分かる日が・・・」


「いいから帰りなさい!ここは魔女の森なのよ!危険なんだから早く出ていきなさい!」


何で、私はレイラに対して怒っているんだろ。

どうしてレイラは、こんな魔女の事も庇ったのだろう。

どうしてあんな怪我でも立ち上がれたんだろう。



どうして―――――。





「どうして・・・?どうしてここで人が死んでるの?フロリア姉?大丈夫?!ねぇってば!」


どうして、あの子が。そう君がここに、いるの・・・。


「そう君・・・寝てたんじゃないの?」


「だって、フロリア姉が帰ってくるのが遅いから心配になって」


よく見るとそう君は裸足だった。それだけ慌てていたのだろうか。


「でも、なんでここに居ると思ったの?」


「そんなの、わかんないよ・・・。きっとこっちにいるって考えながら動いてたら、ここにたどり着いたんだもん」


バカみたい。こんな月も紅い夜に、あてもなく人探しなんて。そんな自分も死ぬかもしれないような無謀を犯すなんて。


あの女も、この小さな魔法使いも、私も。



皆バカみたい・・・っ!



「それよりも、この死体は?!誰が殺したの?!フロリア姉は、犯人を退治できたの?」


「あははは・・・。そう君も面白い事言うね。それじゃあまるで私が犯人の可能性はないって言ってるみたいよ・・・?」


「だって、僕はフロリア姉を信じてるから!」


きりきり・・・。


「そう・・・。残念だけど、私が犯人よ。私が殺したの。気に入らない男達だったから」


「嘘だ・・・。嘘だ!フロリア姉がそんな事・・・、そんな程度の理由で人を殺すわけない!」


きりきりきりきり・・・・・・。


「本当よ?これ見てご覧?ダイタリアンは、教えた事あるわよね?だから、嘘はつけないの」


「じゃあ、ごまかした言い方してるだけでしょ!?フロリア姉は悪い人じゃないって僕知ってるもん!」


きりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきり・・・・・・。


「ざーんねんっ。私は悪い・・・っ。悪い魔女なのよ・・・」


「じゃあ僕が『正義の魔法使い』になってフロリア姉を“懲らしめる”!」


きりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきりきり。


「こらしめる・・・ね。ほんっと、日本語は変わってるわ・・・」


「だから!絶対にフロリア姉よりも強くなってみせるから!もっともっと早く強くなるから!それまで待っててよ!」


変なの。



「えぇ、楽しみに待ってるわ。そう君が、悪い魔女を・・・退治してくれる日を」











ぴりぴりと痛む体を引き摺って私はそう君の前から姿を消す事にした。





いつか必ず、正義の魔法使いが魔女を退治してくれることを祈って。


その為にも――――――。





今感じている痛みを消して、その魔法使いとまた会えるように。


























今度は、“嘘偽り”のない素直な気持ちで、あの子に遭えるようにしなきゃ・・・。

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