第7話 行ってきます。
ピピピピピッッッッーー。
目覚まし時計が頭上で大きく鳴り響く。
「ん〜〜〜」
だが、愛梨は起きない。
ピピピピピピピピッッッッッーーー。
そんな愛梨を起こそうと目覚まし時計が頑張る。
「ん〜、うるさぃ〜」
しかし、愛梨はまだ起きない。
ピピピピピピピピピッッッ〜〜!
頑張る目覚まし時計。
「ん〜」
ねばる愛梨。
ピピピピピpッ!ッッダン!
「うっせぇんだよっ・・・・・・って、またやっちゃったな、はぁー」
そう言った愛梨の横には無残に砕け散った目覚まし時計の破片が散らばっていた。
春の新芽のような緑のワンピース
キラキラ光るアクセサリー、ワンピースにあう靴に鞄
そして忘れてはいけない黒く長いウィッグ
「よっしゃ、完璧ッ」
そう言った鏡に映る愛梨の姿はどこからどう見ても普通の少女の姿をし、そしていつものメガネをかけていなかった。
実は愛梨は目が悪くないのだ。
なのに何故、いつもメガネをかけているのかというと、兄である優介が目が悪くメガネをかけていたからである。
今日はその兄に会いに愛梨は病院へ出かけるのだ。
愛梨の兄、優介は現在意識不明中である。
医師には、「意識を取り戻す可能性は低い」と言われた。
その時の父と母の落ち込みようはすごかった。
母は自室に籠ってしまい、父は何もしゃべらず、ただ空を見つめていた。
もちろん愛梨もそれを聞いたときは泣きじゃくり、優介のそばにいると駄々をこねる程だった。
今は見舞いに行ける程平気にはなったが。
今日、青空高等学校は始業式前の休みで、『この日(今日)に絶対お兄ちゃんのお見舞いに行ってやるっ!』と愛梨は前々から決めていたのだ。
「ついでに今日壊した目覚まし時計も買って帰らないとね」
そう言いながら愛梨は家を出た。
「あっ、愛梨ちゃん。
お出かけかい?
気をつけていってらっしゃい」
「はい、行ってきます」
愛梨は皐月荘の階段を下りながら挨拶をする。
今、挨拶してきたのは皐月荘の大家さんの吉永さんの奥さんで、吉永さん夫妻には愛梨と優介(実際は優介に成りすましている愛梨)の兄妹二人で住んでいると話している。
朝でも昼でもない、ちょうどいい気候の午前10時
愛梨は階段を下り、駅に向かった。