第17話 とにかく、眠い。
どよ〜ん
朝から空は白く曇っていた。
そして、愛梨も朝から曇っていた。
「どうしたんだ、優介。
そんなに元気なさそうにして?」
自分の机に頬を押し付けるような格好で、「はぁー」と暗い溜息をつく愛梨を横から男にしては可愛らしい、何でも女性のモデルの仕事もしているらしい奏太郎が顔を覗かせた。
それに虚ろな目で顔に薄っぺらい笑いをくっつけた様な元気のない顔で愛梨が答える。
「あー、奏太〜。
そだな、昼に食べたプリン、美味しかったな・・・・・・」
「いや、そんなこと聞いてねぇーし。
しかも、昼にプリンなんか食ってねぇじゃん」
すかさず愛梨のおかしな答えに奏太郎は突っ込み、「こりゃ、重症だわ」と顔を上げる。
奏太郎、いや、誰から見てもどこか重症な愛梨。
そんな愛梨に聞こえるように、後ろから声がかかる。
「はっ。
そりゃ、元気もなくなるよな。
なんせ、寮の部屋、あんな顔するほど嫌いな俺と一緒だもんな、女装野郎」
わざとなのか、皮肉のこもったわざわざ大きな声で。
その声に愛梨はビクンッと反応し、急に背筋を伸ばす。
奏太郎は、その清重の言葉と愛梨の反応でそのことが本当だとわかると、心底ビックリしたようで、思わず叫んでしまった。
「えー!!
清と優介、寮の部屋一緒なのかっ!?」
先ほどの清重よりも大きな声。
六限目HR、今度ある球技大会の種目決めで盛り上がるクラスの生徒を一斉に振り向かせるほどの大きな声。
クラス中の生徒の目を一身に受け、愛梨は机にうつ伏した。
暗く机しか見えない視界とは裏腹に、耳に聞こえるのは何故か女子生徒の「キャー///」という感極まった声と奏太郎の「よかったな」という声。
(何がいいものか・・・・・・)
そう思いながら「はぁー」とため息がまた出る。
(あんな顔するほど嫌いって、先に「嫌い」って言って来たのあっちじゃん)
昨日。
柚透に案内された部屋。
なんとそこには愛梨が会いたくないベスト1の男、篠色清重がいたのだ。
そして、驚きの余りに愛梨は・・・・・・愛梨は、心底嫌な顔をしてしまった。
後で悪いことをしたと愛梨も思ったが、清重もそんな愛梨の顔を見て不機嫌な顔になっていた。
その後はもうただただ重い沈黙が続くだけ。
お互い、一言もしゃべらなかった。
部屋の雰囲気は息苦しく、しかも女とバレないかハラハラドキドキの愛梨は当然眠れるわけもなく、今現在にいたる。
(あー、眠いな〜)
あんな雰囲気の中、これから暮らしていくと思うと先が思いやられる。
きっと清重の方も自分と同じことを思っているのだろう。
そう思いながら、愛梨はいつの間にか深い眠りについていた。