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第13話 家に湿布ってあったかな?

はぁー、はぁー、はぁー。

学校の廊下を走り切り、階段を何段も駆け上っていくと、必然的にたどり着くのはあのお決まりの屋上。

立入禁止と書かれた紙を無視して、老朽で今にも崩れ落ちそうな鍵をドアを蹴り飛ばすことによって壊し、そのままの勢いで屋上に出る。

その一連の動作を男一人、引きずって上って来た愛梨はすごい。



まぁ、すべて無意識で行っていたことなのだが。



「はっ」

屋上に出ることによって、涼しい春の風にあたり、今更になってハッとする愛梨。

しかし、時すでに遅し。

意識を取り戻した愛梨が、恐る恐る振り返る。

振り返った先には・・・・・・もちろん、不機嫌に睨んでくる怖い顔の篠色がいた。


「あー、えーと、これは、そのー・・・・・・」


何て弁明すれば、奴は納得してくれるだろうか。

そんなことを思いながら、目を泳がし、言葉を探す愛梨。

そんな愛梨にお構いなく篠色は、愛梨が掴んでいた自分の制服の腕の裾をバシッと振り払い、はなす。

そして、ツカツカと屋上から出て行こうとする、無言で。

それを愛梨はいそいで止める。

「ちょっ、ちょっと、待ってくれっ!!」

止めるために今度は篠色の制服の背中部分の裾を引っ張る。

もうここまで篠色を連れて来たなら、“女装”のことを口止めしようと愛梨は考えた。


しかし、それは難しいのではないかと振り返った篠色を見て愛梨は思った。


振り返った篠色は、先ほどよりも不機嫌さが増していた。

『そんなに私のこと、嫌いかよっ!』

そう思いながらも、一応、愛梨は口止めを試みる。

「あの、昨日のことだけどさ・・・・・・「そのこと、忘れてほしいとか言うんじゃないよな」」

喋りかけた愛梨を篠色が遮る。

そして、篠色が話を続ける。


「あのさー、お前。

昨日は「女だー!!」とか言ってたくせに、今日になって「男です」とかさ・・・・・・」

そう言いながら、篠色はさっきの行動とは反対に愛梨を追い詰めていく。


ガシャンー


『いったー』


屋上のフェンスに思いっきり背中をぶつけた愛梨。

もう、これ以上下がれない。

そこまで追い詰めて、篠色は軽く睨んでみた愛梨を見降ろしながら、見下しながら、ハンッと鼻で笑いながら、言った。



「何、お前。

もしかして「体は男ですけど、心は女です」とか?」



むかっ


それを聞いた愛梨の中で何かがブチッという鈍い音を立てて切れた。

そして反射的に手で拳を作り、それを篠色の顔面めがけて振り上げていた。


パシッ


が、いくら今は男の優介であれども、女の力が男に適うわけがない

「・・・・・・っ」

案の定、止められる。

「うわっ、あぶねぇ。

何?、怒ったの?」

クスクス笑いながら問う篠色。

「細ぇー手だなぁ」

止めるためにつかまれた愛梨の細い手首が篠色が力を込めるたびに、キシキシと軋んで折れそうだ。

「・・・・・・」

その苦痛に耐えながらも、愛梨は篠色の問いに答えず、ただひたすら無言で睨む。

いや、睨むのが精いっぱいだ。

愛梨は今、怒鳴りたい気持ちでいっぱいである。

だが、今の愛梨は優介であって、愛梨ではない。

よって、私情による行動は許されない。

「だんまりかよ」

「・・・・・・」

「・・・・・・まぁ、いいや。

俺、お前のこと、嫌いかも」

黙り続ける愛梨に飽きたのか、篠色はそう言うと学校の中へと帰っていった。


愛梨は、今度はそれを追わなかった。


だって、今追えば、怒りにまかせて何をするかわからないから。

もしかしたら、本当のことをペロッと吐いてしまいそうだから。



「話し合い何か、どーせ元々出来っこなかったってことか・・・・・・」


ポツリと呟く愛梨。

篠色のいなくなった屋上でフェンスにもたれかかりながら、愛梨は空を仰ぐ。


「あーあ、初日から嫌われちゃったぽかったなー」


そう言いながら、伸びをする。


「優介が復帰した時、支障をきたしたらどうしようかなー?

っていうか、自分のことで怒ったの、俺、何年ぶりかな?」


空に向かって上げた手を見て、手首の痛みを思い出す。


「あいつ、力いっぱい掴み上がって」


こんなに悔しい“痛み”は久しぶりだ。


「あいつが俺のこと嫌いなら、俺もあいつのこと嫌ってやるっ!」


昔っから、兄のこと以外で怒ったことなかった自分が、何で今回の些細なことでキレたのだろうか?


「あっ、やべ、一限目始まってるんじゃねーのっ!!」


何でだろう?


「やばいっ、やばいっ」


あいつに、侮辱されたから?嫌われたから?

それとも・・・・・・


「あー、ついてないな今日はっ!」




まっ、いっか。




愛梨は走った。

間に合いもしない授業のために。




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