第11話 神様、お土産は食べれるものにしてください。
「どうぞ入ってきてください、篠色くん」
ガラガラー
クラスの皆が好奇の目で入ってくる奴を見る。
愛梨もそんなクラスメイトと同様だった。
しかし、入って来た奴を見た瞬間・・・・・・
「げっ!!」
思いっきり笑顔を引きつらした。
「う、嘘だろ・・・・・・」
そう言って、もう一度見る。
間違いない。
スラッとした高い身長に、なで心地の良さそうな黒い髪、そしてきれいに整った顔。
間違いない。
そいつは今日の寝坊の原因であり、愛梨の心に傷をつけた張本人でもある。
そう、昨日の例のあいつだ!!
『何だったて、あいつがここに!?』
もうこの世の終わりと言いたそうな愛梨。
そんな愛梨の横で奏太郎がニコニコ笑う。
「あっ、キヨだぁー。
あいつ、やっと学校来れるのかぁ」
ニコニコ
「優介、あいつがこの前言ってた“キヨ”だぜ」
ニコニコ
「・・・・・・な、なんだって」
「だから、あいつが“キヨ”だって」
「・・・・・・」
数秒固まる愛梨。
そして叫びたくなった、が一応そこは押さえて奏太郎に聞く。
「えっ、“キヨ”って<お母さん的存在>と奏太郎が言ってたあの“キヨ”さん?」
「そうそう、その“キヨ”っ!
・・・・・・って、どうしたんだ優介?
もしかして暑いのか?
汗がダラダラ滝のように流れてるぞ?」
「・・・・・・え?
あっ、うん、なんでもないよ」
愛梨はいつの間にか流れていた汗を制服の裾で拭う。
だけれど、拭っても拭っても汗は流れてくる。
『ほ、ほんとにどうしよう!!
確かあいつって私の女の姿も男の姿も知ってるんだよね。
しかも今日、メガネかけてないし・・・・・・誤魔化し様がない!!
どうしよう、どうしよう!!!!
これは・・・・・・これはあいつが私の顔を覚えてないことを願うしかない!!
えぇーい、どっかにいる神様、仏様!!どうか私を助けろー!!!!』
そう愛梨は願い、黒板の方に向き直った。
「え〜じゃあ簡単でいいので、ま〜自己紹介でもしてもらおうかな」
先生がそう言いながら黒板に奴の名前を書き始める。
それと同時に奴が口を開く。
「篠色清重、よろしく」
が、喋ったのはこれだけだった。
「あらまー、ホントに簡単だねー。
まーいっか。
篠色君の席は、ここから見て右から三列目の前から五列目、神無月君の後ろだから」
先生がそう言うと奴、篠色は無言で席に向かい出した。
『やばい、来る』
愛梨は不自然じゃない程度に顔を伏せる。
見えるか見えないかのギリギリ。
ドキドキ
篠色が近づいてくるとともに緊張感がわいてくる。
そんな愛梨の横で奏太郎は呑気に「清ー」と嬉しそうにしている。
どんどん近づいてくる篠色の足音。
それに比例するようにバクバクなる胸の鼓動。
『どうか、どうか私のこと覚えてませんように!!』
愛梨はそれだけを一心不乱に願い続けた。
そして、ついに足音は愛梨の座っている机の近くまで来た。
『通り過ぎろォー!!』
ピタリ
何と篠色は愛梨の机の前に止まった。
『やっぱり、覚えてたか!?』
愛梨はそう思った。
しかし、ここで諦める(?)のはまだ早い。
『いやいや、きっと止まったのは奏太郎がいるからだよ』
そう、それ以外のはずがない。
きっと大丈夫。
そう愛梨が思った瞬間だった。
グイッ
いきなり篠色に顎をつかまれ、顔を持ち上げられ、そして・・・・・・
そして、
「やっぱり、お前、昨日の女装野郎じゃねーか」
と愛梨の願いもむなしくクラス全員の前でハッキリ言われたのは。
愛梨はその瞬間、
「あー終わったな、私の人生・・・・・・(泣)」
と悟ったそうな。