第10話 私の神様は現在旅行中ですか?
ぜぇー、ぜぇー
思いっきり走って呼吸困難に陥って倒れそうになりながらも、何とか両足でたち、走って乱れた制服を軽く直す。
そして思いっきりドアを開けて教室に入る。
入った瞬間、クラスの奴らに注目されたがそれは入学式のこともあり、あんまり愛梨自身気にしていなかった。
ただちょっと違うのはクラスの男子も女子と同じようにどこか熱の入った視線だったということなのだが、もちろん愛梨はそれに気づいてはいない。
自分の机の上に荷物を置き、実は隣の席であった奏太郎と何故か違うクラスなのにいる康志に挨拶をする。
「おはよー・・・・・・」
「おう、おはよー・・・・・・ってダレ?」
疲れ切った愛梨に向かって失礼なことを言ったのは奏太郎だった。
「なっ、失礼だなー。
俺だよ、俺、優介だよっ!!」
「あー、優介かぁー、眼鏡かけてなかったからわかんなかったよ、なっ、康?」
「・・・・・・」
「おいっ、康?」
奏太郎の応答に返事がない。
康志は「ぽかーん」と口を開けて呆けていた。
「そうだよ、俺、今日眼鏡かけてないっっっっっっってえぇぇぇぇ!!
うそだろ!!俺、眼鏡かけてないのか!!!!」
そして、愛梨は自分が眼鏡かけていないことに今気がついたのであった。
愛梨は走った。
全力で走った。
後ろからゾウに追いかけられているかのように走った。
具体的に言うと通学時間三十分のところを約十五分ぐらいにしてしまうぐらい。
愛梨自身も「人は必至になるとこんなにも頑張れるのか!!」と驚いてしまった。
そんな余裕のなかった愛梨だが、一つだけ走っていて気がついたことがあった。
それは、何故か今日は人の視線をいつも以上に感じていることだった。
「なんなんだろう?」
そう思いながらも急いで学校へ行き、何とか学校の予礼にギリギリ間に合い、やっと「ほっ」と出来た愛梨であった。
が、優介を演じるにあたって必要な眼鏡を忘れてしまったことに気がつき(自分で気がついたわけではないが・・・・・・)、またもやハラハラすることになってしまった。
幸い、優介を知っているものはこの学校にはいない(入学する前に一応家の方でチェック済み)ので助かったのだが。
キーンコーンカーンコーン
本礼もなり、康志が自教室に戻ったので愛梨も自分の席に着いた。
「はぁー、それにしても今日は慌ててたから気付かなかったなー」
「あー、だから驚いてたのか。
そりゃ、慌てるよな、なんせ初日早々遅刻しそうだったんだから」
そうからかいながら奏太郎が笑う。
「う、うるさいな〜」
「ハハッ。
それにしても、眼鏡って忘れるものなのか?」
奏太郎の鋭いツッコミに愛梨は「ウッ」となった。
「えっ、え〜と。
その〜、俺、目ぇ悪いけど、いつもかけとかなきゃいけねぇほど悪くないんだ、うん。
入学式の時は字も読まなきゃいけなかったし、まだ高校の建物全部を把握してたわけでもなかったから一応つけてたんだ」
愛梨は苦し紛れに説明する。
「あー、そういうことか」
どうやら奏太郎は納得してくれたらしい。
それに愛梨はほっとし、
「そう、そうなんだよ」
と言っている。
そんな感じで奏太郎と喋っていると、担任が教室に入ってきた。
ガラガラガラー。
ここで普通ならば「起立」という号令がかかるはずだが、まだ役員を決めていないので今日はない。
そのかわりに担任の先生が号令をかける。
「起立・・・・・・礼・・・・・・着席。
おはようございます。
えー、今日はみんなに紹介したい人がいます。
まー、ひとまず入ってきてもらいましょうか。
あー、入ってきてください、篠色君」
ザワザワー。
ざわめくクラスメイト達。
ガラガラー。
そして、ついに新しいクラスメイトが入って来た。
「どんな奴だろ?」
そう思いながらも、周りと同様にちょっとワクワクしていた愛梨。
しかし、入ってきた奴の顔を見た瞬間、愛梨の笑顔が凍りついた。
「・・・・・・っえ!?」