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86話「屍たち」

「――い……嫌……!」

「――杏香――大事に……持ってて」

「――俺はまだ……っ!?」

 杏香は知っていた。志半ばで倒れた戦士たちの無念を。


「――あの人と一緒に死ねるのなら」

「――杏香、君に僕の命をあげる」

「――すでに呪いは発動しているのでな――もう儂の命はいらないんじゃ――」

 杏香は知っていた。自分の目的を果たすため犠牲になり、満足と、少しの悲しみの中で死んでいった者たちを。


「死ぬより……ね……」

 時に、杏香は危険な仕事も引き受ける。死と隣り合わせと言ってもいいだろう。そんな中で、杏香の目の前で死んでいった人たちがいる。心霊と常に接している梓とは、また違う視点で死を見てきた。年齢、性別、性格、罪の重さや生への執着……そういったものに関係無く、死は訪れる。そんな屍を見ながら、今日まで生き延びてきた杏香だが、死よりも苦しい者とは何なのかを本気で考えたことは、あまりなかった。……しかし、こうして少し考えただけで、この世の中には、死ぬ以上の苦痛はあるのではないかとも思えた。

 杏香でさえ、少し考えただけで、死ぬ以上の苦痛はあると考えるのだから、主に幽霊にかかわっている梓からしたら、このことは当然なのかもしれない。

 ……杏香は、ふと梓の顔を顔を見た。そこには少しおっとりした、高校生の女の子の顔があった。

「こんなかわいい顔しちゃって、まあ……」

「え、何ですそれ? 杏香さんだって年齢、同じくらいでしょ?」

「いや、そりゃ、そうなんだけど……まあいいわ。それで、死ぬより苦しい苦痛って?」


「生きながらにして死より苦しい苦痛を感じる。その理由は人によって違いますけど……今回の場合、呪いを阻止しても殺された数は同じ、二人だという特徴があります。そして、連続殺人は続いている。その事実から推察すると、呪い返しの対象は、犯人以外の人間です。更に、その中で犯人にとって死ぬより苦しい苦痛とは何かを考えると……その人にとって大事な人が死ぬ。ということでしょう」

「うーん……」

「あれ? なんか杏香さん、ピンときてないです?」

「まあ……梓の理屈も正しいとは思うけど……ここまで殺人を犯しといて、人の死を苦痛に感じる……ってのがね……しかも、犯人は自分を好いた人を生け贄にする冷徹人間よ。それだって、利用してるだけなんじゃないの?」

「それは……犯人も、そう思い込んでいるでしょうね。そして、思い込みたくもあるでしょう」

「……というと?」

「この呪いの場合も、多くの呪いの例に漏れず、呪い返しは忠実に行われるです。つまり、犯人が本当に大事に思っている人でなければ、呪いの対象として選ばれないんです。なので、犯人が本当に大事だと思っていなければ、犯人はとっくに、呪い返しによって死んでいるということになるです」

「そっか……そういうもんなのか……説明を受けても、なんだか釈然としないところではあるけど……そう説明できるんだったら納得するしかないわよね。梓の手によって失敗した呪いは返され、どこへと行ったのか……犯人にとって近しい存在へと行くことになった……と」

「そう考えるのが、一番自然ですね。また有力な情報が出てこないことには」

「うん……えーと、それも踏まえて犯人の手掛かりを纏めると、呪い返しによって、自分に近しい、若しくは親しい存在の人物が亡くなっている。ダークウェブ経由で何らかの骨の、頻繁な取引がある。そして、多数の人間と頻繁に肉体関係を持っている。ってところか……」

「ダークウェブ経由での骨の取引は、手掛かりにするにはちょっと厳しいですね。ダークウェブと謳うだけあってセキュリティは強固ですし、頻繁な骨の取引も、そう珍しい話じゃないでしょう。逆に、最後の手掛かり、肉体関係を多数の人間と頻繁に持っている人物を探し出すのは、比較的簡単に出来そうです。肉体関係が例え一夜のものだとしても、これに関しては、相当に目立つ行動だと考えられるですね」

「そうね。今までそういう発想が出てこなかったから、全く調査はしなかったけど……それが逆にいいわよね。これによって、犯人が完全に特定できるかもしれない」

「はい。それも自分を一夜にして虜にさせるほどの人物ですから、どこかの界隈では有名になっているかもしれないですね」

「それって……ええと、つまり、相当上手い人物ってことかしら?」

「あはは……そ、そこまでは分からないですけど……何らかの魅力はあったんでしょうね。生け贄を作るには、自分からはともかく、人から自分へは、本当に信頼関係を作らないといけないですから。インスタントとはいえ、本当に信頼関係を作っていたということは、犯人は、人に取り入ることが得意な人物でしょう」

「そうね。いずれにしても、かなり目立ってる人物だろうから、裏社会を中心に調べてみると、手っ取り早く手掛かりは見つかりそうね」


「はい……それともう一つ、これは出来る限り犯人の見当を付けてからの、最後の詰めとして、場合によっては有効な手段ですけど……」

「うん? 何、それ?」

「もう一つ、犯人を見つけるために利用できることがあるです」

「もう一つ……」

「はい。もう一つ、利用できることは、こちらの顔は見られている可能性が高いということです」

「ん? ええと……えっ、それってつまり……」

「そうです。犯人をハメるということです」

「結構ハイリスクね。失敗したら、犯人は相当警戒してくるでしょう」

「はい。だから、あくまで最後の手段に取っておきたいですけど……いえ、とにもかくにも、今は犯人を出来る限り絞ることに専念した方がいいですよね。この手段は、使うとしても大詰めですし」

「そうね。この方法が生きるかどうかも、失敗するリスクがどれくらい減るかも全部、犯人をどれだけ正確に把握できるかが勝負だし」

 梓と杏香は、お互いの意識が一体となったように頷き合い、再び本格的に、紙に書かれた犯人候補に目を走らせたのだった。

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