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71話「魔法のドリル」

「穢れしその身に解呪の(げん)を……ディスペルカース!」

 瑞輝の手からディスペルカースが発射され、遠く離れた紙に当たった。

「あ、当たった」

 瑞輝が走って、ディスペルカースが当たった紙の方へと進んでいく。

「んん……? あれ? 当たってないじゃない」

 紙の近くまで来た瑞輝は紙を見たが、紙は真っ黒のままだった。瑞輝はその様子を見るなり、もう一回走って紙から遠く離れた。肉眼でも、ぎりぎり紙の場所が分かる程度の距離で、もう一回ディスペルカースを唱える。


「穢れしその身に解呪の(げん)を……ディスペルカース!」

 瑞輝の手から、再びディスペルカースが放たれる。


 一か月と少し、瑞輝はディスペルカースばかりを練習していたが、瑞輝はふとしたきっかけでディスペルカースのコツを掴むことができたので、威力は並の水準程度には上がっていた。なので、今はコントロールの問題の方が大きい。

 威力を抑えれば弾道は乱れ、照準がぶれる。ある程度照準がぶれるのに妥協すれば威力は上がる。怪物を倒すのには、どちらがいいのだろうか。瑞輝は威力や正確さのバランスをどこで取ったらいいのかを試行錯誤している最中だ。これは、魔法の制御能力を高め、より精度の高いコントロールを可能にする練習にもなっている。


「どうかな……?」

 今度もディスペルカースが的となっている紙に当たったように見えた。とはいえ、ディスペルカースは結構強烈な発光を伴って発射されるので、命中したかどうかが判別し辛い。近くで見てみないと本当のことは分からないので、瑞輝は本当に当たったのかを、首を傾げながら走り寄って見に行った。


「ん……あっ! やった!」

 紙に駆け寄った瑞輝は歓喜した。中心からは大きく逸れているが、髪の右端の部分が白くなっている。やや灰色がかっているということは、まだ呪いは完全には浄化されていないことを意味しているが、それは許容範囲だ。この距離からでも十分に威力は発揮されていることが、今、証明された。


「精が出るね瑞輝ちゃん、調子はどう?」

「ようやく形になってきた気がするよ」

「そうなの? どこどこ?」

 エミナが紙を覗き込んで、ディスペルカースの効果を見る。


「あっ! やったじゃん! 効果あり!」

「えへへ、まだちょっと灰色っぽいけど……」

「上等じゃない。一ヶ月前なんて、至近距離でもこんなに白くならなかったよ」

「そっか……そういえば、そうかも」

 ここ一ヶ月弱の瑞輝の記憶が蘇ってくる。今でさえ、距離が近ければ紙を確実に白く出来るくらいの威力が出せるようになったが、練習し始めた時は、これが全く白くならなかった。しかし、何回も黒い紙にディスペルカースを当てていると、瑞輝はある時、本当に僅かに紙の色が灰色に変わっているのに気付いた。

 練習を始めてからずっと紙が黒いままで、進歩が無いと感じていた瑞輝は、紙の色が僅かに灰色に変わっていると気付いた時には飛び跳ねるくらい喜んだことを覚えている。

 それからは、本当に少しづつだが効果が大きくなっていった。いや、効果が可視化出来るようになったという言葉の方が適切だろう。紙の色が変わったということは、瑞輝使うディスペルカースの威力が紙の色を変える程度の威力に至ったということだからだ。紙の色の変わり具合を目で見えるようになってからは、瑞輝にとって、それが励みとなっていった。黒と言っても差し支えないくらいの灰色から、徐々に白に近い灰色になっていき、効果範囲も、徐々に範囲を広めていく。瑞輝は練習を続けるにつれて、次第にその変化を楽しみに感じるようになっていった。


 今のように、至近距離からなら紙全体を真っ白に出来るようになるまでに、瑞輝は更にコツを掴むことになった。瑞輝が紙の色を、部分的に真っ白に変えることが出来るようになった頃、平和になったと思われた異世界で事件が起きた。それは異形の者の侵略ではなく、人間によるもので、その人間は、呪いを用いて事件を引き起こしていた。

 現代世界で起こっている連続殺人事件に通ずるものもある事件だが、瑞輝は異世界での事件にも、いつのまにか関わることになった。かつて異世界を救った瑞輝なので、その力を頼りにする人が、未だに多いからだ。

 瑞輝は、この異世界の事件に関わったために、高校を何日か休まなくてはいけなくなってしまった。しかし、この事件に関わる中で、実戦でディスペルカースを使うことができた。また、瑞輝はその時に、何らかのコツを掴むことができた。あの事件が無ければ、瑞輝がここまでディスペルカースを使いこなせるようになるまで、もっと時間がかかっていたことだろう。


 そんなことがあって、今ではコントロール面や、怪物を想定した練習をするようになった。もう、エミナの部屋では距離が足りなくなってしまったので、こうして外の広い環境で練習するようになったのだ。


「穢れしその身に解呪の(げん)を……ディスペルカース!」


「穢れしその身に解呪の(げん)を……ディスペルカース!」


 瑞輝が繰り返しディスペルカースを唱える。エミナが、ディスペルカースの練習を始める時に言った通り、ディスペルカースは複雑な魔力の使い方を求められる、難しめの魔法だった。他の魔法に比べても覚えにくく、また、魔力の流れを制御しづらい。練習で何回もディスペルカースを使い、ふとしたきっかけで実戦でも使う事になったが、魔力の消費量にしても、魔力のコントロールにしても、求められる水準が、瑞輝が使っている他の魔法に比べて一回りも二回りも高い。


 とはいえ、繰り返しディスペルカースの詠唱をすることで、精度も威力も徐々に上昇していく。瑞輝はエミナの説明を聞いて、漢字や計算のドリルを連想した。そして、練習の成果の出づらさを通してディスペルカースの難解さと直面した時には、難しい数式のようなものかもしれないとも思った。結果、瑞輝は難しい数式のドリルを何回も解き続けているようなイメージを抱くようになったのだ。

 難しい数式のドリルを解くのと、魔法を練習するのとは、大部分は異なるが共通点もあり、瑞輝にとってはその共通点こそが重要であり、一番目立つ部分でもあった。


 すればするほどに、ディスペルカースの効果は理想に近付いていく。それは、数式を解いているうちに、解くスピードが速くなっていくのと同じ感触だった。

瑞輝の魔法の練習シーンが、そこそこ細かく描かれているのも本作品の特徴の一つです。

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