55話「抹茶フラペチーノ」
「確かに、何かをするのには捗りそうな場所ですね」
梓が座った席は、ふわりとしているソファーになっていて、座り心地はまずまずだ。店内のシックな雰囲気も落ち着きを感じさせ、居心地はいい。勉強をする環境としては、リラックスし過ぎて眠くならないかと不安だが、合う人には合いそうだ。
「カフェラテも美味しいピ」
ロニクルが笑顔で、白いカップに入ったカフェラテを口に運んだ。
「カフェラテですか……」
梓は、テーブル端のメニュー立てに入っている、メニューらしきものを抜き取り、開いてみた。
「ああ……色々あるんですね」
初めに出てきたのは飲食物だ。ドリンクはコーヒーや、カフェオレ、ロニクルが飲んでいるようなカフェラテ、キャラメルマキアート、上にクリームが乗っているフラペチーノのようなものもある。
チョコレートケーキ、スコーン等の甘味や、サンドイッチ、トースト等の軽食もあって、軽い食事程度なら出来るようにもなっているらしい。
「値段はちょっと高めだプが……席に座るだけなら無料で出来るみたいだピ」
「なるほど、そういう感じですか」
梓が頷いた。ロニクルさんの言う通り、一般的なコーヒーショップよりも高めの値段設定にしてあるのは無料で利用できるからか、無暗に注文をされないためか……何にしても、少し高い。
「確かに、ちょっと高いですねぇ」
梓がぺラリとメニューをめくると、次のページの半分は、同じ飲食物のメニューで占められていて、もう半分のページには、レンタルできるものが書かれているようだ。
プリンター、スマートフォンや携帯電話の充電器、イヤホン、櫛、数に限りはあるがノートパソコン、同じく部屋数に限りがあるが、ミーティングルームも借りれるらしい。無線LAN環境も整っているようだ。
他にも備品の販売も行っているようだ。メニューの裏にはシャープペンシルやボールペン、補充インクや替え芯等、文房具の値段が書いてある。プリンター用紙やCDも売っているようなので、インターネットで調べた情報や、パソコンで作った資料等を出力することも出来そうだ。例によって、値段は相場よりも高く感じるが、便利なサービスには違いない。
「へぇ……色々とあるんですね」
「一通りのものは揃ってるみたいだピ」
ロニクルが、カフェラテを飲みながら言う。
「じゃあ私も……」
梓がメニューのページを飲食物のページに戻す。
「ピーチ……いえ、ここは冒険せずに、抹茶フラペチーノを頂きましょうか」
梓は、そう言いながらメニュー立ての手前に備え付けられている、呼び鈴ボタンを押した。ピーッという控えめな音が鳴る。
「抹茶フラペチーノだプか……結構甘めなやつピね。甘いの好きポか?」
「ええ、甘いのは大好きなんです。逆に苦いのは好きじゃないので……コーヒーも、グレープフルーツジュースとかも苦手で……」
「へー、そうなのかピ」
「お茶の渋みは好きなんですけどね」
「んー、なるほど、なんとなく分かるプ」
「……それで、ロニクルさん、私がここに来たのは、実はロニクルさんに会うためなんですけど」
「ピ? ロニクルに会いに来たっていうのかプ?」
「はい。実は――」
「どうだ梓、捗うておるかな?」
「はい、あそこの高校生の話を聞いて、大まかに高校生の放課後の行動が分かったです。それに、あのオシャレフリースペースでもロニクルさんから話を聞いて、理解もさらに深まったので、結構正確に目星を付けることが出来そうです」
梓はそう言いながら、マウスをコタツ板の上で滑らせる。
「ほほう、期待できそうにござるな」
「えーと……」
梓はパソコンの画面を見て、カチカチとマウスを数回クリックした。
すると、部屋の隅にあるプリンターが動きだしたので、梓は立ち上がって部屋の隅のプリンターへと向かうと、プリンターから出てくる紙に手を伸ばす。
「うん……全部入ってるですね」
梓が、プリンターから出てきた紙を取り出し、見て頷いた。
梓はその紙を持って、こたつの元の場所へと戻り、こたつの上に紙を置いた。髪には地図が印刷されている。桃井と駿一が通っている高校周辺の地図だ。
梓は傍らに置いてあったボールペンを握ると、印刷された地図を見据えた。
「えーと……高校周辺だと、ここと……こことここ……それにこの辺り……」
梓がボールペンで、点や線を引き始める。
「あ、話には出てこなかったですけど、こっちにもゲームセンターがありますね、ここも一応……」
地図上のゲームセンターにボールペンで点を付ける。
「えーと……」
他にも、高校生が行きそうだと思う場所に、印を付けていく。
「……こんなところですか」
一通り印を付け終わった梓は、満足そうに地図を眺めた。地図には、主に高校から駅までの間に、ボールペンで書かれた印がびっしりと書き加えられていた。
「んー……」
梓が、所々に黒で印を付けた地図を、今度は指でなぞる。
「この近辺で、ひと気の少ない所が、怪物が現れる確率の高い危険な所ですよね……これまでの特徴で、数少ない共通点が、「人目につきにくい所」だったですし……」
梓が目を走らせる。大通りからの人の流入が少なく、それでいて高校生の行動範囲から逸脱していない。かつ、人目につかなそうな場所……。
「ここと……ここと……ここもそうです……それから……」
梓はカチりとノックボタンを引き下げ、ボールペンを赤に切り替えて、また地図に丸を付けだした。
「ここのどこかで見張っていれば良さそうですけど……」
赤丸は全部で五つ。うち、三つは密集しているので同時に見張ることも出来そうだが、一つは少し外れた所にあり、もう一つはもっと外れた所にある。
「うーん……」
梓が考える。この五つを同時に見張るのは難しい。かといって、今頼れるのは杏香さんだけだ。しかし、その杏香さんは隣の駅周辺をカバーすることになるので、この一帯は私だけでなんとかしないといけない。一人でどうにかするには……。
「えっと……これは背に腹はかえられないですかね……」
まず、一つだけ大きく外れている箇所は、そもそも高校生が通ることはないかもしれない。そして、それを抜かした残りの四つを見張るのなら、ぎりぎり可能かもしれない。
「んー……」
ここで悩みどころは更に絞って三か所にするか、多少無理をしても四か所を見張るかだが……。
「至近距離なら、アレが使えそうですかね」
梓がちらりと戸棚の方を見た。戸棚の中には霊的なまじないが施された鈴が入っている筈だ。その鈴は響き鈴と呼ばれるもので、その鈴を使えば、ある程度近くであれば、離れていても呪いを感知することができる。
「響き鈴でどうにかすれば……うん、いけるかもです」
梓がコクコクと頷く。改めて黒と赤で書き込みのされた地図を見た。
「一人で納得しておるようにござるな」
「納得の計画です! さ、今から見回りを……と言いたいところですけど……」
梓がちらりと、天井近くの壁にかけられた時計を見る。時計は既に午後十時を回っている。
「……もう放課後じゃないですよね」
「いかにも、そのようだな」
「明日ですね、今日はもう寝るです」
「ん……もうか?」
「早く寝て、少し薙刀の練習をしないといけないです」
「ああ……その方が良かろうな。最近は破魔の矢ばかりであったからな」
「ええ、そうなんです。この予想が当たってたら……明日遭遇する可能性はゼロではないでしょうから。薙刀の扱いも、薙刀に破魔の力を乗せるのも、もう一回、感触を確かめておこうかと思うです」
「ほうほう、それがよかろうな」
丿卜も頷いた。
考えが上手くまとまって満悦している梓だが、不安もある。明日怪物が現れるとすれば、梓と杏香、どちらかが遭遇する可能性は高いだろう。その時、梓は怪物に勝つことが出来るのだろうか。
フラペチーノとかデザート系ドリンクのカロリーは、なかなか凄いらしいです。注意して飲みたいですね。




