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40話「セイントボルト」

「お、おい……悠、見てるか……?」

「え? ええと……う……うん……」

 瑞輝の唐突な変化に狼狽えているのは吉田だけではない。駿一と悠もまた、目の前で起こった現象が理解できずにいる。

「ね、駿一……」

 悠は目を向いて、駿一と桃井を、首をブンブン振りながら交互に見回している。相当に取り乱している様子だ。

「桃井君はどうなったの? なんか……桜色? 髪もおかしいし、服もいつの間にか女子制服になってるんだけど!?」

「いや、俺に言われてもな……まあ、俺らの場合は宇宙人やら妖怪やらに会ってるから……」

 駿一も、悠ほどではないが、目の前で突如として起きた現象に、まだ頭が付いていけてない。

 しかし、幽霊だけでなく、UMAや妖怪が闊歩している世の中ではそれもおかしくはない話かもしれない。逆に、桃井が女に変わったという事実を認めない方がフェアではないんじゃないか。そんな気が……。


「ほんと? 駿一……」

「こ……この場合は、また違った衝撃があるな、やっぱり……」

 さすがの駿一も、今回ばかりは悠に同意した。当たり前のようにクラスに居た人物が全然当たり前ではなかった……というのだろうか。人によってはティムやロニクルさん、雪奈よりも奇妙に映るではないだろうか。単なる衝撃より、色々と複雑な感情を感じる。だから吉田の怨霊も、あれほど錯乱しているのではないだろうか。


「だ、だよね……」 

「クラスメートが女ってお前……」

 クラスメートが女。その言葉にはクラスメートが女になったという意味が込められている。大人し目の性格で、クラスでも、吉田に絡まれている以外は目立たない存在である桃井が、いきなり、しかも派手なピンク色で、腰まで伸ばしている。女体化したのと同時に、いつの間にか男子制服から女子制服の姿になったのに、その制服がボロボロなのはどういうことなのかは分からないが、ダメージジーンズのような様相なので、派手なピンク色の長髪と相まって、更にファンキーに見える。


「ね、女装の噂ってさ、もしかして……」

「可能性は……否定できないがな……」

 瑞輝は……と、今の状態の瑞輝を呼んでいいのだろうか。……とにかく瑞輝はセーラー服を着ている。ということは、他にも普段着等を買った可能性は高いだろう。瑞輝が女物の服を買う所を見たという噂が本当だとしたら、目の前の状況にも説明がつくというものだ。


「……おい悠、桃井が何で女になったのかは分からないが、そろそろなんとかしないとヤバそうだぞ?」

 我を取り戻した駿一が、悠に言った。吉田の攻撃は、更に激しくなっているように見える。暫く戸惑って、取り乱した様子で身をよじらせていたように見えたが……もしかすると、その反動なのかもしれない。

 どちらにせよ、桃井は、服も体もボロボロで、満身創痍に見える。梓さんが近くに居ればいいがと駿一は考えたが、それを当てにしていては遅いかもしれない。

「悠、なんとかしないとヤバイかもしれんぞ」

「う、うん……なんか、怖いけど、やるしか……!?」

 荒ぶる吉田の怨霊を抑え込もうと悠が決意し、胸の前に拳を握って勇気を奮い建てた時、悠の目に、白い輝きが見えた。






「よ、吉田君、吉田君なら聞いてほしいんだ。こんなことになって、僕もほんとに悲しくて……」

 瑞輝には、吉田がもがき苦しんでいるようにも見えた。なんとか助ける方法は無いのか……いや、今はまず、落ち着かせる方が先か。思考を巡らせながら、瑞輝は声をかけた。


「あの……吉田君、苦しいの……?」

 瑞輝がゆっくりと立った。激しい打撲のせいで体は思うように動かなくなっているが、足に力を入れれば立っていられそうだ。


「えと……吉田君、僕もどうすればいいか分からないけど……取り敢えず落ち着いた方がいいと思う。なんか、暴れるほど消耗してる気がするし……苦しそう……」

「何でお前は……あぁぁぁぁ!」

 吉田は相変わらず苦しそうにもがいている。瑞輝は、自分の言葉が届いているのかどうかも分からない。

「……」

 近付こうか。瑞輝はそう思ったが、近付いたら余計に刺激するのではないかと躊躇している。


「お前は、いつもそうやって……!」

「はっ……!」

 吉田の悪意が自分の体に集中した。そう感じたミズキの体に緊張が走る。


「いい子ちゃんぶって……自分だけが……特別だって思いやがってぇぇぇ!」

「あ……うああっ!」

 瑞輝に体を、再び、あの締め付けが襲う。


「うぐっ……うああっ!」

 吉田がまた、瑞輝を襲いだした。


「がっ……あっ……」

 瑞輝の体が、再び塀、地面、電柱に叩きつけられる。

「う……くぅ……」

 このままでは、死んでしまうのではないか。瑞輝はそう思うと同時に、吉田の方へと手をかざした。もう女の子の体になってしまったのだ。なりふり構う必要は無い。


「聖なる雷土(いかづち)の力以て、(よこしま)なる者へ裁きを! セイントボルト!」

 右に左に吹き飛ばされながら、瑞輝は呪文を唱えた。かざした手からは稲光を帯びた白く光る球が飛び出すと、吉田の方へと向かっていった。


「なに……うがぁぁぁ!」

「やった……? うわっ!」

 突如として謎の引力から解放されたミズキの体が落ち、地面に僅かにバウンドした。


「うぅっ……」

 地面に体を打ち付けたとはいえ、ただ落ちただけなので、今までよりは幾分かマシだ。瑞輝は痛みを感じながらも吉田の方を見る。


「うがああぁぁぁっ! うわぁぁぁぁぁ!」

 瑞輝には、体の方は、相変わらず黒い何かにしか見えないが、声の方は、はっきりと吉田の声に聞こえる。

「吉田君……」

 上下左右に揺さぶられる中では照準が定まらずに、黒い何かの端を掠っただけのセイントボルトだったが、黒い何かの体は、それによって削られたようだ。瑞輝には、吉田の悲鳴が、苦痛に満ちて聞こえる。


「……」

 瑞輝は、地面に落ちた段階で、癖のように手を吉田の方向にかざしていた。自分では意識していなかったが、恐らく、二発目の魔法を打つ準備のために、反射的に体が動いたのだろう。現に、ここで素早く呪文を唱えれば、悶え苦しんでいる黒い何かの中心に、もろにセイントボルトを当てられる事だろう。しかし……そんなことをしたら、吉田君はどうなるんだ……? 瑞輝は手をかざしたまま、沈黙した。


「痛え……痛えぇぇぇ……何した……お前……えぇぇぇ!」

 瑞輝は思わず顔を反らした。吉田君の顔は分からない。黒い何かにしか見えない。でも、きっと吉田君は苦痛に顔を歪めてるんだ。そして……吉田君の声は、恐怖に震えている。そんな吉田君に、僕は魔法を打つのか? ……いや、そもそも、もしセイントボルトが吉田君に命中したとしたら、吉田君はどうなるんだ……? 死ぬのか? いや……もう死んでいるのだろうから……完全に消滅してしまうのか……? 僕の一発で、吉田君が消滅してしまうかもしれない。しかし、このままでは、僕は吉田君に殺されてしまうかもしれないし、吉田君も苦しい思いをし続けるかもしれない……。

 瑞輝は、果たして魔法を打っていいのか、手の平を吉田に向けたまま、考えている。

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