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36話「怪しい瑞輝と気負う梓」

「あっ、出たよ! やっぱりリュックしょってる!」

「ああ? ……本当だな、あいつもあいつで何やってんだ……」

 玄関を出た桃井を、駿一が目を凝らして見た。確かに、リュックサックの膨らみから察するに、相当に中の荷物は多いようだ。桃井は迷いを感じさせずに明確に左に曲がり、更に左へと道を曲がっていった。


「よし、追いかけるぞ……」

 桃井は、リュックサックを膨らませながら一体どこへと行くのか。駿一は、その事を知るために、そおっと歩き出した。


 悠の事だから、どうせ相当大袈裟に言っているのだろうと思っていたが……桃井は想像以上にリュックサックをパンパンにしている。これを土日に毎日やっているという悠の言葉も信用するならば、やはり桃井の行動は怪しいといっていいだろう。

 駿一は、そんなことを思いながら、静かに、音を立てないように歩いていたが、その横を、すうっと悠が追い抜いていく。


「……」


 幽霊だからとはいえ、特に何の注意も必要無く、地面の上を滑っていくように移動できる悠に、少しイラッとする。また、幽霊なので、駿一と、他の数人以外には、普通は見えない。なので、特に桃井の目を気にすることもない。考えてみれば、気付かずに後を付けるのにはうってつけな体質である。


「……あれ?」

 桃井の後を追い、駿一も角を曲がって脇道に入ったが、そこには桃井の姿は無かった。最初からそこには居なかったかのように、跡形も無く消えている。

「見失ったのか……」

 駿一が、頭をポリポリと掻く。駿一としては、かなり桃井に近付いて後を付けていたつもりだったのだが、どうやらそれでも見失ってしまったらしい。


「特に見失うような所も無いんだけどなぁ……」

 この先は、長い間一本道になっている。ここで見失うとしたら、他の人の家だが……こんな近所に、あんなに荷物を持って出かけているということなのか。


「ね、すぐ居ないでしょ?」

 どうだといった顔をして、悠は駿一の顔に、自分の顔を近づけた。


「分かった、分かったから……」

 駿一が両手の手の平を前に押し出して、悠に離れろとジェスチャーした。

 悠は満足そうに笑いながら、体をすうっと、少し引かせた。


「まあ……そうだな。本当にすぐ居なくなっちまうんだな……」

 駿一が、もう一回辺りを見回す。こちらに気付いて、何かの物陰に身を隠したのだろうか。それなれそれで、そうする理由も分からないが……とにかく、意識的に身を隠したりしなければ、見失わないような状況なのは確かだ。

「悠は、何か見えたか?」

「ううん、いつもと変わらない」

「俺には、そのいつもが分からないんだが?」

「駿一と同じだよ。曲がり角を曲がったら、すぐ居ないの」

「ううむ……なるほどな……しかし、そうなると、俺じゃあ無理だな。ここは悠でないと何も掴めないだろうから、俺が来る意味は無かったわけか……」

 不可解なことだが、生きている人の足よりも速い幽霊においても、全く同じ感触なのだから、これで駿一がここに来る意味が無くなった。


「ええっ!? 一緒に見ようよー!」

「おいおい、お前はお遊び感覚でも、俺の方は違うんだからな!」

「分かってるよー」

 悠が口を尖らせている。分かっていないようである。


「何にしても、桃井に何か変化があったら、教えてくれ」

 これ以上、ここに居てもしょうがない。駿一は自分のアパートに戻ることにした。







 湯呑を持った梓は、緑茶を一口すすると、ふと横を向き、丿卜のことを呼んだ。

「丿卜さん」


「応、なんだ梓や」

 丿卜が、梓の後ろから、すうっと現れ、梓の横へと座った。

「あら、丿卜さん、居ないと思ったら、気配を消してたんですね。私でも、今、気付きましたよ」

「ははは……いや、驚かすつもりは無うござったのだが、某、体のなまりが気になってな。こうして鍛錬をし直してるところにござる」

「そうなんですか……私も、頑張らないとですね。あの怪物を倒すには、人間離れした反射神経を身に付けるか、それとも破魔の矢を完全に身に付けて、精度の高い射撃を出来るようにしないと……」

 梓が唸る。どちらも練習はしているものの、どちらもまだ、怪物に対抗できるまでの腕前には至っていない。このままどちらも練習するよりかは、一つに絞った方がいいかもしれない。

 一つに絞るとしたら、少しでも望みがあるのは破魔の矢の方だろうか。人間離れした反射神経を身に付けることは、あまりにも現実離れしている。苦手な破魔の矢をマスターするのも並大抵のことではないが……それでも、前者に比べれば、僅かな希望は感じられる。


「この連続殺人が呪いによるものなのは、警察や杏香さんの情報から濃厚ですけど、だとするならもしかして杉村さんは狙われたんじゃないかって」

「ほうほう……杉村殿は見回りの最中にござったと聞いておったが……」

「ええ。パトロール中だったのは、そうだったんですけど……警察は、この事件に関しては、そろそろ区切りを付けようかとしているです。でも、犯人には、そのことって、多分、分かってないんですよね」

「うむ、捕り物を一旦、打ち切るというようなことを申しておったのう。犯人がどういう人物かは分からのうござるがな……」

「はい。犯人が警察関係者でなければ、打ち切りの事も分からないでしょう。……だから、今回の犯行に及んだのは、もしかして警察の戦力を削ぐためなのでは……と……」

「うむ……無きにしも非ずといったところだが……」

「私もなんとなく頭に浮かんだだけなんですけど、犯人が、そういった目的にも呪いの力を使うのであれば、次に狙うのはこの事件について捜査をしている私や刑事さん、それに杏香さん……それから、ティムちゃんの件で死神を見た桃井さんを狙う危険があるのではないかと……」

 悠が縁側の方を仰ぎ見た。

「呪いを操っているのは、十中八九人間です。今のところは、愉快犯のようなランダムな傾向しか見られないですし、その方面の専門家の警察も、そう結論付けてるですけど……人間は、いつ心変わりしてもおかしくないです。杉村さんが、もし、そういった変化の一つの現れだとしたら……」

「ふーむ……なるほどのう。そういった見方も出来る……か……」

「はい……」

 そうすれば、操作に関わっている警察や杏香、それに、怪物の姿を知っている桃井、そして、今、入院中のティムの身柄も危なくなるだろう。そして……梓自身も、また危険に晒されることになる。怪物に接近戦で張り合えるほどの反射神経を身に付けるか、破魔の矢を完全に身に付けるか……どちらかをしなければ、梓もまた、怪物にやられてしまうだろう。

 梓はお茶を一口飲み、ため息をついた。

幽霊って、結構便利ですよね。

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