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16話「映画の帰りにお好み焼き」


「うー、早く焼けないかな、こいつ」

 ティムがヘラで鉄板の上の物体をぐちゃぐちゃとこねくり回す。

「はー……」

 丁度、夕飯時のお好み焼き屋なので、人は多く、グループ客も目立つ。おまけにそこかしこでジュウジュウとお好み焼きを焼く音も発せられている。

 そんな喧騒の中で、瑞輝はお好み焼きの形を整えながら、映画の事や、週末にエミナに会う時の事を考えている。

 勿論、周りにはティム、空来、上田も居て、一緒にお好み焼きを焼いているのだが、瑞輝はこういう時、自分から誰かに声をかけることは滅多に無い。静かに座ってお好み焼きが取り分けられるのを待つか、自分の分のお好み焼きを淡々と焼いているかだ。

 今回の場合、一人につきお好み焼き一つ分のタネがそれぞれに運ばれてきたので、それぞれで自分の分のお好み焼きを作る事になった。なので、後者にあたるだろう。

 上田もお好み焼きの面倒をたまに見ながら携帯ゲームをしているので、喋っているのは空来とティムだけだ。


「そういえば、なにかいい方法、無いかな……」

 ふと、瑞輝は、常々思っていた、あちらの世界で不便だと思う事を思い出した。

 あちらの世界は、移動手段があまり発展していないのだが、そのせいで大きな都まで行くのに馬車で二週間ほどかかってしまう。

 魔法も、エミナと瑞輝だけの練習れはなく、ちゃんと魔法修練所で習いたいと思っているのだが……二週間となると、週末では間に合わない。

 夏休みなどの長期休暇を使えば行けないこともないが……それはそれで、そんなに長期間この世界から居なくなって大丈夫だろうかという心配もある。

 魔法修練所によっては、一日二時間くらいのコースもあるらしいので、都まで短時間で行ければ、週末を魔法を習うのに使ったりできるし、都に直接飛べたりするなら平日だって、少し忙しくなるけど行ける。

 その辺り、どうにかならないかと、時々エミナとも相談しているのだが……自前の魔法で都まで行くとなると、空間を転移する魔法を習得しなければならない。しかし、どうやら空間魔法や時間魔法というのは他の魔法と違って、相当な練度が必要な上級者向けの魔法らしい。それこそ、魔法修練所で習わないと難しいレベルの魔法だ。

 他の誰かに使ってもらおうにも、人が見つからないし、魔法雑貨もレアで、常用するには値段的に厳しい。


「おい瑞輝、ぼーっとしてると焦げてしまうぞ!」

 ティムが瑞輝のもがちゃがちゃかき回す。

「あーっ! 何すんの!」

「何するって、焦げてしまうぞって言ってるんだ。ぼーっとして!」

「いや、これでいいんだよ。お好み焼きなんだから」

「なに? なんでいいんだ。普通、人間は食べ物を温める時は、こうやってかき回すだろ!」

「だぁーっ! だから、やめて! それは普通に炒める時じゃないの? フライパンでとか!」

「おお、それだ! フライパンで野菜とか卵とかを焼くときは、こうやって……」

 瑞輝が、ティムが更にお好み焼きをかき混ぜようとしたヘラを、二つのへらでがっちりと掴んで止めた。


「お……おう、やるじゃないか瑞輝」

「ね、ちょっと説明を聞いてくれる? ティム」

「……そんなに殺気立つなよ」

「説明が終わるまで手を出さない?」

「……出さない」

「本当? なんか声、小さかったけど……」

「出さないぞ!」

「……フライパンで炒める時だって……例えば卵を焼くときとかさ、ティムがやってるみたいに、ガチャガチャかき回してスクランブルエッグを作るじゃない」

「おう」


 瑞輝は「もー……」と口を尖らせつつ、お好み焼きを修正し、どうにか元の丸型にしようとしている。そうしながらも、話を進める。

「でもオムレツも作れるでしょ?」

「あのレモンみたいな形のやつだな」

「そう。オムレツは、最初はスクランブルエッグと同じで掻き回すけど、ある程度固まってきたら、そのまま待つんだ」

「なるほどなるほど……」

「そして、下が焼けたらゆっくりと巻いて、あのレモン型の形を作る」

「ふむ……いや、駄目だろ! あれ、たまに中身がトロトロで固まりきってない時があるぞ!」

「ええ……!?」


 瑞輝はあきれて、一瞬、口をあんぐりと開けてしまった。

 まさか本当にオムレツも知らないのだろうか……あっちの世界の住人みたいだ。……いや、あっちの世界にだって、卵はあるんだから、オムレツくらい知っているのかもしれない……ああ、もしかすると、ティムの親が、固いオムレツしか作ってなかったのかもしれない。その後もテレビとかでオムレツを見る機会が無くて、外食でオムレツを注文していなかったら、あり得るのかも。それもかなりのレアケースだが。

「えっと……それはね、正常なんだよ」

 気を取り直して、オムレツの事から解説を始める。

「うん?」

「トロトロが好きな人が居るの」

「そうなのか? じゃああれは手抜きじゃないのか……」

「そうそう。むしろ、そのひと手間があるから中身だけトロトロにできるんだし、あの綺麗な形が作れるの」

「ふーむ……なるほどな」

「お好み焼きの場合は、形を保ちつつ、熱を均等に通したり……こうやってひっくり返すとね」


 瑞輝が二つのへらをお好み焼きの下へ入り込ませて、勢いよく捻り、お好み焼きをひっくり返した。

「おー、見事だな。そういうことか」

「そ、ほら、豚肉だって、綺麗に焼けるでしょ」

「あー、なるほどなぁ……でも、どうせ食うなら丸くても丸くなくても一緒じゃないか?」

「そりゃそうだけど……人のを崩すのはやめてよ」

「ん……まあ……悪いことをしたな」

「うん……分かってくれれば、いいよ……ん?」


 いつの間にか、空来と上田がじーっと瑞輝の方を見ていた。

「え……なになに?」

「いや……お前ら、仲いいなって」

「あのティムちゃんがおとなしく聞いてるし、瑞輝君は瑞輝君で、なんかいつもと違う気迫を出しながら妙に説得力のある説明してるし」

「ああ……。お好み焼き、そして卵料理とはそういうものかと、特に新しい発見も無いのに納得してしまったぜ」

 空来も上田も、妙に熱い眼差しを瑞輝に投げかけている。


「あー……あれかなぁ、なんか、ティムとは喋り易いからかな。普段から結構、喋ってるし」

「え、そうなの? この二人が親しいのは意外だわ」

 空来が驚いている。

「意外じゃないだろ。ボクは普通に話しかけてるだけだぞ」

「そうそう、別に普通だよね。ほら、僕、普段から無口だから、普通に喋るとお喋りに見えるんだよ、きっと」

「ふーむ……気も合うみたいだし……」

 上田も釈然としない様子で腕組みをしている。

「相性って分からないものね、あの鉄拳番長と内気な瑞輝君の相性がいいなんて……」

「ああ。まるでカップルみたいだぞ」


「おい何言ってんだ! ボクがそんな浮わついた奴に見えるのか!?」

「ええっ!? そんなんじゃないって! 別に普通に話してただけで!」


 瑞輝とティムが同時に、凄い勢いで否定した。

「おまえら……」

「なんか否定するのにも息が合ってるんだけど……」

「うう……それは……その……偶然なんだけどな……」

「いいから食べるぞ! さっさと食べないと焦げる!」


 ティムが自身で焼いた、ぐちゃぐちゃのお好み焼きを口に運んだ。

「あ、ティム」

 瑞輝がそっと、手でトッピングの入った容器をティムに寄せた。ソースは小さい壺に入っていて、ハケで塗るタイプ、マヨネーズは柔らかいプラスチックの容器から押し出すようになっている。青のりは口の広い容器を振るタイプなので、かけ過ぎに注意が必要かもしれない。鰹節は、大きめなのをトングで取る方式だ。

「おお、すまないな」

 ティムがソースをブチュブチュとかけだした。瑞輝もマヨネーズの入れ物を取って、マヨネーズを格子状にお好み焼きにかける。


「やっぱり仲、いいよね……?」

「だな。盲点だったぜ」

 空来と上田がこそこそと喋っている。

「……よし、食うぞー!」

 一通り好みのトッピングをしたティムは、がつがつとお好み焼きを食べだした。がつがつとお好み焼きを口に運ぶティムを見て、瑞輝はふと、ガブガブと水を飲むイミッテを思い浮かべたが……さすがにイミッテでも、鉄板に口を付けたら火傷するだろう。

「そりゃ、そうだよね。何考えてるんだ僕……」

 わけのわからない想像は瑞輝自身にとっても不可解だったが、特に考えずに、さっさと味付けをしてしまう事にした。

「よし、と……食べよ」

お好み焼き

もんじゃ焼き

烏賊焼き

カルメ焼き

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