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ブラッド・メモリー  作者: じんぱる
7/7

ものさし

 

 血が溢れ出る。レインの氷剣は正道の胴体を大きく切り裂いた。

 崩れ落ちる正道。


 「まだ息があるなんてやっぱり凄いよ君は」


 レインは倒れている正道にまだ息があるのを確認して言う。

 だが正道は苦しそうに倒れているだけで言い返すことはない。

 あっけない幕切れに落胆する。


 「なんであんな化け物のためなんかに命をすてたんだい?全く理解できないよ。それにね君の予想も的外れだったよ、正道君」


レインはそう言うと一欠けらの氷を造る


 「私の能力は空気中の水をつかうんじゃない、あらかじめ自分の中に貯水子があってね、そこから水を取り出して使うんだ。」


 そうレインが言うと噴水の中にあった水がどういう仕組みかはわからないが徐々に無くなっていく。


 「それでも君は凄いよ、これだけ私に水を使わせたんだ。この噴水が近くにあったから余裕を持って戦えたけどそうじゃなかったらと思うと身震いが止まらないよ。だからこそ気になるんだよ。何がそこまで君をうごかしたんだい?」


  きっともう正道は答えてくれないだろう、それでも質問する。そして、不思議なことに一言話したら独り言が止まらなくなる。


 「君と血の魔女の関係って結局何だったんだい?接触していたとしてもたった数日間しか一緒にいなかったんじゃないのかい?そして君がこうして死にそうになっているにも関わらず姿すら見せないじゃないか。今頃あの化け物は悠々と夜の街でも散歩でもしてるんじゃないのかい?」


 どんどんと声が荒ぶっていってしまう。


 「あいつは悪魔だよ、私たちの中でもね、君が知らないだけで、意味もなく沢山の命を奪ってるらしいからね。あの悪魔は…」


 そう言い終えるとレインは倒れている正道をみて少し同情の目を向ける。


 「君はきっと騙されたんだね。あいつに良いように言いくるめられたんだろう。可哀想に…」


 このまま朝になれば一般人が確実に気づくであろう。そしてこの男の事だ。もしかしたら生き延びるかもしれない。愚者への情けだ。

そう思って後ろを振り向き歩き出した瞬間レインの肩に何かがぶつかる。

それは石ころだった。

驚き、そしてレインは後ろを振り向く。



 そこに彼はいた。

 そこにはボロボロになりながらも高槻正道が確かに立っていた。


 「さっきから聞いてりゃ好き勝手言いやがって……」


 憤怒に染まった表情で叫ぶ。


 「騙されてここにいる?違うね!俺は俺の意思でここにいる!他の誰のためじゃねぇ!俺の為にここにいるんだ!

 

  理解出来ない、レインは驚愕すると同時にそう思う。だからこそ反論する。ここで止めなければ間違いなく彼を殺すことになるだろう。


 「それなら尚更意味がわからないね、なんであんな血も涙も無いような奴に手を貸す?少なくとも君はそんな奴には見えないけど」

「だからそこが根本的に間違ってんだよ…」


 正道は拳を握りしめ構える。だがその目の焦点はあっていない、おそらく、いや確実に立っているだけで精一杯だろう。

 それでも戦おうとしている。もはやレインにとってやはりそれは狂ってるようにしか思えなかった。


 「君は無知で愚かだ!君はあの化け物について何も知らないからそんなことが言えるんだ!私たちの中でもあいつはただの快楽殺人者なんだよ高槻正道。君のような人間がかばう必要のない化け物だ!!!」

 「違う!あいつは化け物なんかじゃねぇ!!!ましてや快楽殺人者でもねぇ!!!」


 正道はレインを睨みつけながら反論する。


 「確かに俺はあいつのことはそんなに知らねぇよ…、多分あんたらの方が長い付き合いなんだろうな。俺の知ってることといえば、血の魔女って変なあだ名ついてたり、たかがゲームに熱くなりすぎて泣き出したり、可愛い服を居候のくせに無遠慮に欲しがったり、自分ですればいいのにすげぇ悲しそうな顔して頼み事して、挙句の果てには嘘をついて逃げろとか甘いこと言ったり…」


 正道は息を吸う。

 そして言葉にする。


 「でも、だから、そんだけで十分なんだよ!俺はそれだけ知っていればあいつがそんなやつじゃねぇって胸張って言えるぜ!!!だから俺の命ぐらいかけて言ってやる!」




      「エーラ・ファラ・ベルアリアは化け物なんかじゃねぇ!!!!!」



 高槻正道がエーラを信じる理由はこれだけで十分だった。



「………わかったよ…………君の言い分は………」


 そんな正道に対してレインの感情は冷めていく、物事をきちんと理解しようとしない愚か者には罰が必要だ。

 そう、これは罰だ。正しき行いなのだからもう…


 「もう…殺す…!」


その表情は今までのレインと違い能面のように何も表していなかった。


 愚か者が走り出す。

 その姿を見てやはりレインには正道がバカとしか思えなかった。

 真正面から走りこんできているのだ。

 今まで何をしてきたのか忘れてしまったのだろうか?

 それとも、もう思考するだけの力もないのだろうか?


 氷槍をぶち込めば終わりだ。

レインは構える。走りこんでくる愚か者を串刺しにするための凶器を…


だが……そうはならなかった……


「———————遅い!?形成出来ない——————!?」


 明らかに遅い、今までよりも確実に遅い

レインは混乱する。こんなことはなかった。自分の能力の不発なんてものは。


 そんなレインにおかまいなしに正道は突っ込んでくる。

 まるで最初からこうなるとわかっていたように。

 そして、レインの瞳には不敵な笑みを浮かべている正道が写る。


 「——————何をしたんだ!?高槻正道!!!」


 偶然なんかではない。正道のその表情には不敵な笑みを浮かんでいたからだ。

 正道は拳を後ろに引く、その姿が、レインにはやけに遅く見えた。

 どうやら答えは教えてくれないようだ。

 自然と言葉が漏れる。


 「やるじゃん………」


 瞬間。

 正道の拳がレインの右頬を打ち抜いた。

 レインは数メートル吹っ飛びそのまま動かなくなった。






 レインに渾身の一撃を決め吹っ飛ばしたと同時に正道は膝をつく。

 限界だ、喋る気力もない。正直、殴る前にそのまま倒れてしまうのではないかと思ってしまっていた。

 だが、拳は、思いは、確かに届いた。


 迎えにいかなければ、もう逃げ回らなくてもいいと彼女に伝えなければいけない。

足を動かさなければ。歩かなければ。迎えに行けないではないか。

 動けと命令する。だが、正道の足は動かない。自分の足だというのに情けない。視界がやけにぼやける。自分の瞳なのにいう事を聞かない。

しかも、やけにけだるくて、まぶたが重い。

 考えることすら辛い。


それでも迎えに行かなくては。

 また悲しい表情をしてしまうであろう優しい少女を…


 「エーラ………」


 少年はそう呟き。

 倒れた。






 


 レインは目を覚ます。頭と右頬がやけに痛い。

周りを見渡す。そこには自分を殴り倒した少年が自分の血だまりの中で倒れていた。

レインは立ち上がり彼にゆっくりと近づく。まだ死んではいない。

 そのことを確認すると右頬の痛みも気にしないで満面の笑みで言った。


 「惚れたよ、正道君!まさかこんなもので私に一発入れるとは驚いたよ」

 

 その手には食塩と書かれたプラスチック製の空の袋があった。

 そしてそれと同じものがあちらこちらに隠されてあった。


 「まさか、あの小麦粉煙幕はとりでこっちが本命だったとは思わなかったよ。噴水の水に塩を撒くための時間稼ぎだったとはね」


 水が凍りになるためには水の中の分子がお互いに結合して固まる必要がある。だがその中に塩が入ると水の中の分子の結合を阻害する。つまり氷になりにくくなる。


 レインは血まみれになっている正道を仰向けにして自分で傷つけた切り傷を氷で塞ぐ。

そして、そのまま担ぐ。


 「結構危ないけど、あいつに頼めばなんとかしてくれる。それに、この子を私たちの仲間に引き入れることができれば目的にも一歩近づける…」


 「楽しみ」そう呟く。

 無能力の正道の身体能力に特殊能力が備わればまさに鬼に金棒だろう。

 血の魔女を逃したことは上に文句を言われるが、それでも人材確保の方が良い。

 いや、レインにとっては高槻正道だから良いのだ。


 そう思いつつ撤退を試みようとした瞬間、背筋が凍るような殺気を感じレインはその場から飛び去る。


バカンッ!っという轟音。


 それとともに先ほどまでレインが立っていた場所に銃痕が刻まれていた。

 レインは冷や汗を流す。そして今日はなんとも退屈しない日だと思う。


 「随分と遅い登場だね?すっかり逃げてしまったものだとばかり思ってしまったよ」


 月明りの陰から歩いてくる。


 一方からは血の魔女と恐れられ、また一方からは、守るべき存在だと思われた一人の少女が立っていた。


   「そやつから手を離せ、この屑が………」


 血の魔女、エーラ・ファラ・ベルアリアが右手にハンドガンを持ち無表情で立っていた。


 

 







 

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