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ブラッド・メモリー  作者: じんぱる
6/7

反抗


 「流石にこれはまずいよな……」


 正道は食品コーナーの片隅で傷ついた身体の手当てをしていた。正道の身体にはいくつかのガラスの破片が刺さりそこから血が流れ出ている。包帯や絆創膏などの医療道具はなく自分の服を引き裂いてそれを傷に当てる。


  出血が酷く頭に血が回らないせいか思考が働かない。


  (血が足りないってやつか)


 正道はレインが今までにどのようにして氷を造り、どのようにして飛ばしてきているのか。ぼやける思考で考える。

 空中に急に現れたかと思えば、勢い良く飛んでくる。全く意味がわからない。もしかしたら仕組みとかそういうものは最初からない物なのかもしれない。

  

  (もしそうならつんでやがるな)



 目を閉じたり、首を捻ってみるが無情にも時間が過ぎていくばかりで何も浮かんでこない。異能力について知識がない正道にとって解けない問題を解かされている気分になってくる。

それに加えいつ見つかってしまうかもわからない緊張が正道に精神を蝕む。





 (もうここで諦めてもいいんじゃないのか…?)




 ふとそう思ってしまう。何の為にここまでする?たった数日しか一緒にいなかった少女の為に何も命を投げ出す事なんてないじゃないか。

 まだ正道自身若い、この先もしかしたら良い事づくめの人生かもしれない。良い友人に恵まれ、良い恋人が出来て、幸せな人生を送るかもしれない。


 だが、それもここで死んでしまったらおしまいだ。


 それに彼女自身だって言っていたではないか。


 『お主は少しの真実と、少しの嘘を言うといい。そしたら、きっと普通の日常にもどれるじゃろう』


 そう何もここで正道が降参してしまってもこれだけ時間を稼いだんだ。もう、十分だろう。

きっと彼女は逃げ切って助かる。むしろここで正道が死んでしまった方がきっと彼女は悲しんでしまうだろう。


 だから…だから……だからこそ………



             「諦める事なんかできやしねぇよ………」



あんな悲しそうな表情をしている少女の事を差し出して生き延びる?ふざけるな!!!

一人で夜の街を歩く彼女を思い浮かべる。

拳を握りしめる。強く。目を閉じる。優しく。




 正論立てて逃げることなんざ誰だってできる。むしろそれが正しい判断だって時も山ほどあるに決まっている。

逃げたってそれは罪じゃない。でも高槻正道は自分自身にそれを絶対に許すことができない。

どうやって今まで生きてきた?

自分を曲げたことなんかない。わがままに、自由に生きてきたではないか。

気に入らない物を殴り倒して前に進みつづけた。後悔はしていない。自分で決めて進んだのだから。だが、だけどそれは間違いなく罪なんだろう。どれだけの人間を救ったとしても……どれも結局は暴力だったのだから。

どれだけの涙を見てきた?どれだけ痛みを与えてきた?


正義の味方なんかじゃないのは自分が良くわかっている。


だからこそここでそれを曲げてしまったら、今までの、過去の自分が本当に許せなくなる。

高槻正道という人間の辞書に『妥協』なんてもの入れてしまったら、それこそ…



「俺らしくないだろ?」



 その言葉は誰も聞いてはいなかった。だが、確かにそこにあった。

 血は流れている。まだ高槻正道は死んではいない。







 動かないことには事態は進まないのは当たり前だ。

 

 (とりあえず移動するべきだ。留まるのはまずい)




 正道は立ち上がり移動しようとするが、足に力が入らずそのまま食品が置いてある棚に手をかける。


 (そういや塩切らしていたな………てかこんな状況なのにどうでもいいことばっか思い出すな)


 そんな自分にあきれ返りから笑いが漏れる。だが、その直後正道は思いつく。

 

 自分よりはるか高い空を飛ぶ鷹に届くかどうかはわからないが試してみる価値がある事を。






 レインは一人噴水に腰を下ろし鼻歌を歌っていた。まるで恋人を待つ乙女のように。

 天窓から降り注ぐ月の光がその光景をより妖艶にさせる。

 そして、そこに一人の少年が現れる。


「まさか正道君、君自ら姿を現すなんて、予想が大的中でお姉ちゃん嬉しいよ」

「俺はまさかお前が俺を探さずにこんな場所でくつろいでいるなんて思わなかったぜ。なんだったらもう少しゆっくり休んで来ればよかったな」


 レインはゆっくりと立ち上がる。そしてポケットからヘアゴムを取り出し髪をまとめながら言う。

 


 「まあ、君の性格ならまさか尻尾を巻いて逃げることもないと思ったからこうして待っているのが一番いいと思ってね。そして実際こうやって君は来た。そうだろう?」


 大的中だと満足そうにするレイン。

 

 「なんで追ってこなかったんだ?」

   

 レインはそんな正道の問いかけに嬉しそうに、そして狂気のこもった目をしながら高らかに歌うように言う。


 「君という人間が面白いからだよ、正道君!人の身ながらここまで私に食いつくなんて普通はありえないからね!本当に面白いね!だからこそそれを潰したい!楽しませてくれたからこそ完膚なきまでにこの私の手によってね!!!」


 レインの周りに無数の氷槍が出現する。そんなレインに対して正道は拳を握りしめる。そして吠える。


 「まるで自分の勝ちが決まってるように言うんだな…なら、後悔すんなよ!!!」





 飛来する氷槍を柱を利用して何とか回避する正道。やはり一方的な戦いになってきている。


 「どうしたんだい?何もしてこないのはつまらないじゃないか正道君!」


 (随分とお喋りだな、やっぱり)


 正道はそう思いつつチャンスを探す。レインが言った通りに策は用意したのだが、それは策と呼べるかどうかも怪しいものでしかない。だからこそ失敗は許されない。


 チャンスは自分自身の力で生み出すしかない。


正道は柱から前に出てレインに全力で近づく。いきなり突っ込んできた正道に少しだけ眉をしかめるレイン

 

 (何の作戦も無しに突っ込んできそうにはないけどな)


 氷槍を正道の正面に落とす。激しい衝撃と共に地面のコンクリートがえぐれる。

 それとともに吹っ飛ぶ正道、だがすぐに体制を整え追撃は躱す。その動きはやはり普通の人間とは思えないぐらい俊敏だ。


 (普通ではないけど変革者チェンジャー並ではない、本当に不思議ね)


 レインが正道を見る感覚を一般人で言うなら犬が言葉を喋って、普通に生活しているという感覚だ。

摩訶不思議であり好奇心がくすぐられる。次はどんな芸を見せてくれるのであろうと。

 そう思っていた矢先また正道が走りこんでくる。


 「何回やってもそれじゃ同じだって!」

 「同じじゃないねぇ!」


 正道はついに隠し玉を投げ込んだ。

レインはそれを瞬時に作り出した氷剣で切り払う。

しかし、それを見て正道はしてやったりとほくそ笑む。


 バフッ!っと音がしてそれははじけた。瞬間辺り一面に煙幕のように白い粉がまき散らされた。


 「何だこれは!?」


 レインは戸惑う。そしてそこに響く正道の声。


 「小麦粉だ、頑張って大量に詰めたやつな。これで空中の水を使っての生成はできないだろう?」


 確かにあたり一面白くて何も見えない。だが、所詮急ごしらえの煙幕もどき、視界を防ぐといってももって数秒しかもたないだろう。

 つまりこの数秒の間に仕掛けてくるしかない。

 レインは構える。ゆっくりと。

 そして、


 (やっぱりこんなものか……)


 落胆して。


 レインの丁度真後ろから正道が拳を握りしめ突撃してくる。

 それをレインは…


   「フッッッ!!!!」


 切り裂いた。


 


 






 


 


 












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