21話 結婚式のお話
結婚式当日は生憎の曇り空で、吹く風は冷たかった。
けれど、結婚式の会場は多くの人が集まっていて、そんな寒さを感じさせないほどに熱狂した空気であった。
一般公開された英雄の結婚式に、興味本位で訪れる人は少なくなかった。中には、その結婚式に何か裏があるのではと勘繰るような声もあったが、大半はただの物見遊山だった。
「……随分と人が多いな」
着古した軍服ではなく、新調された黒のタキシードに身を包むヴェルザルは困ったように呟く。
「場所が場所だからな」
傍らに立つゴルドーは舞台袖から客席を覗く。
ヴェルザルとリコルットの結婚式が行われるのは、王国でも最大の野外劇場だった。
野外劇場の前方の客席には、周辺国家の関係者や帝国の議員たちが今は王国の外套を身に纏って既に着席している。
客席の中央には赤い絨毯が敷かれ、舞台からちょうど客席を挟んだ向かい側にまで伸びている。そこには掘立小屋と呼ぶにはいささか大きくて立派な建物があり、そこに花嫁、つまりリコルットが化粧などをして待機している。
そして関係者以外の席は一般公開されていて、多くの民衆がそわそわした様子で腰かけている。さらに王国野外劇場を取り囲むように人だかりができていて、それも含めれば数千人はいると予想されていた。
「……これだけ集まるとなると、警備もずっと難しくなるが」
「そうだな。正直なことを言えば、既にかなり苦しい」
ゴルドーは眉間を揉みながら言った。
「どういうことだ。まさかとは思うが、人員を削減したのか」
「そのまさかだ。おおよそ半分ほどにまで減っている。……必要最低限にしろとしつこく言われてな。まさか主戦派の連中がこんな晴れ舞台にのこのこ現れるとも思えないがな」
ゴルドーはやれやれと首を横に振り、ヴェルザルはその表情を深刻なものにする。
「元より正気かどうか怪しい連中だ。最大限の警戒をするべきだと思うが。この長い絨毯をリコルット殿が歩くことになるのなら、特に客席からの奇襲を警戒するべきではないのか」
ヴェルザルの提言にゴルドーは少し驚きながら、首を横に振った。
「お前の言いたいことも分かる。だが、あんなところに露骨に騎士を配置するわけにもいかないんだ。いったい何を警戒してるんだって話になってしまうからな。念のため、私服で何人か客席に紛れ込ませてはいる。……まあ任せておけ。お前は式で粗相をしないように心がけておくことだ。よくよく考えると、これだけの人前に出るのは随分久しぶりだろう?」
「ああ。緊張はしないが、少しばかり気まずいな。仮にも式典の主役である私が式典の雰囲気を暗くしてしまいそうでな」
ヴェルザルは自分の顎を軽く撫でながら民衆の反応を想像してその表情を陰らせる。
ゴルドーは珍しく弱気なヴェルザルを見て軽く噴き出した。
「私は真面目に心配しているのだが」
「そうだろうな。そういう奴だった。……おっと、そろそろ始まるようだな」
ゴルドーは舞台の上に司会の男が移動するのを見てそう呟く。
「……ああ」
ヴェルザルもまた司会の動きを目で追っていた。
◇◇◇
「皆さま本日は栄えある結婚式にお越しくださいまして、誠にありがとうございます! まず始めに、新郎新婦のご紹介をさせて頂きます。
かつての大戦において英雄と呼ばれるに相応しい獅子奮迅の働きを示したヴェルザル・クロスガーデ様! そして、かつての大戦において現在の王国騎士団長と共に戦い功績を上げたルグルド・ルーデランド伯爵のご令嬢であらせられるリコルット・ルーデランド様です!
それではまず今回の結婚式の仲人である王国騎士団団長のゴルドー・ムンブルク様に御登壇いただきましょう! どうか拍手でお迎えください!」
司会の男性がそう言うと、大きな拍手の音が鳴り響きます。
私はその音を聞いてさらに早まる鼓動を何とか落ち着けようと深呼吸をしていました。
「……大丈夫かい、リコ」
お父様は不安そうに私の顔を覗き込みます。
普段私に見せることのない分かりやすいほどに落ち着きのないお父様の顔を見ると思わずくすりと笑ってしまいます。そのおかげというべきでしょうか、私は少し落ち着きを取り戻せました。
「ええ。もちろんです、お父様。お役目をしっかりと果たして参ります」
「…………うむぅ」
「リコちゃん、本当に大丈夫?」
それでもまだ食い下がるお父様の背後からひょこりと顔を出して心配そうな表情を浮かべるのはウェンディお姉様でした。
「ウェンディお姉様! 来てくださったのですね! ……素敵なドレスです」
私はお父様の背後から姿を現したウェンディお姉様は、落ち着いた赤色のドレスを着ていらっしゃいました。肩からは白の薄いストールをかけていて、大人の落ち着いた女性らしい雰囲気たっぷりです。
けれどその表情はどこか少年らしさを残した愛嬌があって、失礼ながら本当に可愛らしい方です。
「えへへ。結構高かったんだけどね、ウルデが買ってくれて……」
ウェンディお姉様は照れくさそうに、けれどそれ以上に嬉しそうに顔を赤く染めてひらひらとドレスをはためかせます。
「……って、私のドレスなんかはいいんだよリコちゃん。リコちゃんのドレス、すっごい綺麗だよ!」
ウェンディお姉様は目を輝かせて食い入るように私の来ているウェディングドレスをご覧になります。
「ありがとうございます、ウェンディお姉様」
私はそう言いながら自分の姿を改めて確認します。
純白のシルクのドレスには刺繍の類はほとんどなく、その品質の上等さだけで強い存在感を放っています。
私の貧相な身体と顔つきをどうにかするために、色々と盛りつけたおかげさまでそれなりに私の容姿は相当に整えられています。
「ドレス、大丈夫? キツくない?」
「はい。大丈夫です」
私は既に何度か着ていますし、仕立てる際にも様々なお願いをして作られたドレスなので、実のところこのドレスとの付き合いは長いのです。それ以上に特注かつ試作品もいくつも作られたドレスなこともあって、私にはもうほとんど新鮮味がなかったりします。
そうはいっても、いざヴェルザル様の前にこの姿で立つとなると緊張もしますし、とても綺麗なドレスをいただけて嬉しいと感じます。
「…………頑張ってね、リコちゃん」
唐突にウェンディお姉様は真剣な表情に切り替えてそうおっしゃいます。
私は少し驚いてしまって、咄嗟に言葉を返せませんでした。
「あ、ごめんね。なんだか辛気臭くなっちゃうね。……私にできるお手伝いはないみたいだから、せめて応援だけでもと思ったんだ。でも応援って難しいね」
「とんでもありません。……ウェンディお姉様には、大変なことをお願いしましたし、それを完璧にやり遂げてくださいました。今度は私が頑張る番です」
私に任せてください、と自信ありげにそう言ってみますが、ウェンディお姉様の表情は晴れません。
「……ねえ、リコちゃん。本当に、いいの?」
ウェンディお姉様のその問いかけは、これまでの全てを投げ出してもいいんだよとそうおっしゃっているようでした。
ですから私ははっきりと目を見てお答えします。
「私が考えて、決めたことですから」
「……そっか。うん、分かった!」
ウェンディお姉様はふっきれたようににっこりと笑ってみせます。
「リコちゃんが頑張るっていうんだから、私も応援しないわけにはいかないね! ……本当に、頑張ってね」
「……はい、ありがとうございます」
私は最後に、心からのお礼を申し上げるのでした。
◇◇◇
「――それでは皆様、お待たせいたしました! これより新婦入場です! 盛大なる拍手をもってお出迎えください!」
司会の言葉通りに盛大な拍手が割れるばかりに鳴り響く。
ヴェルザルは沸き立つ会場を壇上から眺めていた。
「……いよいよ、だな」
傍らに立つ仲人役のゴルドーが真剣な面持ちで呟く。
「そうだな」
ヴェルザルは返事をしながら、自分の手が震えていることに気が付いた。
心は平常心そのものであるつもりだったが、無意識に感じている何かがあることに気が付かされてしまった。
「……全く、この歳になって」
ヴェルザルは自嘲するようにふっと息を吐く。
そして、それを振り切るように前を向く。
真っ赤な絨毯の続く先に、真っ白なウェディングドレスを身に着けたリコルットがいた。
ヴェルザルの鋭いその目には、ルグルドに手を引かれて歩くリコルットが、ぎこちない笑顔を浮かべているその姿が見えていた。
ヴェルザルはそんなリコルットを見て、頬が緩んでいる自分に気が付き、苦笑する。
「……彼女に笑顔を向けてもらえる自分でありたいものだ」
ヴェルザルが自分に言い聞かせるように呟いたその瞬間だった。
鋭い悲鳴が上がった。
それに続くように男の叫ぶ声が響く。
「―――――」
ヴェルザルは鋭い悲鳴が上がった直後には壇上から駆け下りていた。
「おい、ヴェルザル!」
ゴルドーの声を背後に聞きながら、ヴェルザルは駆けた。
軍服に比べるとずっと動きづらい服装に、ヴェルザルはそのわずかな移動の時間を無限に感じるような苦痛を覚えていた。
そして、男の叫ぶ声が、リコルットのすぐ傍の男のもので、その男がヴェルザルよりも老いた男で、その手に小刀を持っていることにヴェルザルは気が付いた。
老いた男の動きは明らかに訓練されたもので、すぐ近くに座る人間を巧みに避け、リコルットを庇うようにして立つルグルドを突き飛ばし、リコルットに襲い掛かる。
この距離では間に合わないと判断し、咄嗟に何か投擲できるような武器はないかと自分の持ち物を確認するが、杖すらも持っていない。
それをほんのわずかな時間で理解すると、ヴェルザルの目は客席へと移り、客席の女性が小さな鞄を持っていることに気が付いた。
「――許されよッ」
ヴェルザルはその鞄を強引に奪い取り、そして振りかぶって投擲する。
その鞄は老いた男の顔面に命中し、怯む。
そのわずかな怯みの間に、ヴェルザルは少しでも前進しようと試みる。
しかし、ヴェルザルは駆けながらも、自分が思い違いをしていたことに気が付いた。
リコルットを狙う暴漢は、一人ではなかった。
もう一人の暴漢も、また年老いた男で、その手に小刀を持っていた。
そして、その小刀がリコルットの腹部を、貫いた。
「――――」
凄惨なその光景を見ながら、ヴェルザルの思考も行動も止まることはなかった。
何かがふつりと、自身の頭の中で切れるのを自覚しながら、ヴェルザルはリコルットを襲った老いた二人の男へと駆け寄る。
年老いた男がヴェルザルの姿に気づいた次の瞬間には、ヴェルザルの拳がその顎を打ち抜き、打ち抜いた拳で男の襟元を掴むと片手でもう一人の男へと投げつけた。投げつけた男がもう一人の男にぶつかった次の瞬間にはヴェルザルはその拳を構え、二人の男を顎と腹部を素早く数発殴りつけ、即座に行動不能に追い込んだ。
「――リコルット!」
叫びながら振り返った視線の先には、腹部からおびただしいほどの血を流すリコルットの姿があった。
純白のドレスは血に塗れ、その流れ出た血液の量は、ヴェルザルの経験に照らし合わせれば、致命傷なのは明らかだった。
「――――ッ!!」
ヴェルザルは激情と怒りと混乱と、様々な感情で吐きそうになりながら、その思考はあくまでも冷静だった。
まず最も重要だともいえる止血をする必要があった。
ヴェルザルがリコルットの下に辿りついたその時には、既にルグルドが自身の上着を出血する部分に強く巻き付け、止血を試みていた。
戦場においてもそうだが、応急処置としてできることは簡単な止血ぐらいなもので、それ以上のことをしようとすれば手間と場所が必要になる。
腹部からのこれだけの出血となれば、ヴェルザルがどうこうできる範囲を完全に超えていた。
ヴェルザルを追い込むように、客席から立ち上がる男たちがいた。
それは先ほどの二人の老いた男に比べると、ずっと若い男たちだった。
「ざまあみろ英雄! これがお前のしでかした罪への報いだ! お前も死ね!」
「絶対に殺してやる!」
「戦争の恨み、ここで晴らす!!」
「皇帝に仇なす逆賊どもが!」
その叫び声で、客席は完全な恐慌状態に陥った。
怯え叫び戸惑う人々と怒り狂う暴漢たち。
その中を冷静に動き、暴漢たちを止めたのは、私服で紛れていた王国騎士たちだった。
「ああっ!? くそがっ! やめろっ!」
王国騎士たちは、暴漢たちを素早く行動不能に追い込み、その腕を縛り上げたり気絶させたりすることで確実にその動きを止めさせた。
ヴェルザルはそれを確認し、さらにリコルットを襲おうとするものがないことを確認する。
「担架だ! 彼女を早く運べ!」
そう指示を出しているのはゴルドーだった。
ヴェルザルは担架が到着すると、リコルットを抱きかかえた。
「……ヴェルザル、様」
霞むような声で呟いたのは、リコルットだった。
ヴェルザルは抱きかかえた少女の軽さと、リコルットの真っ青な表情にその表情を震わせた。
「……口を閉じるんだ。今はただ生きることのみを考えてほしい」
「………………」
リコルットはその言葉に黙って頷く。
その表情はますます青くなっていた。
「決して、諦めるな。諦めないでほしい」
担架に乗せられたリコルットにヴェルザルは声を掛ける。
リコルットは、その表情を苦痛に歪めながら、その口元をわずかに動かした。
「ごめ、ん……なさい」
それは、謝罪の言葉だった。
ヴェルザルは、ついに冷静な思考を失った。
「―――――ッ! 何を謝ることがあるというのだ! 私が、私に関わったばかりに、こんな、こんな!!」
ヴェルザルの悲痛な叫びを聞きながら、リコルットは頬に涙を流した。
そして、そのまま担架に乗せられ、移動するのに、ヴェルザルもついて行こうとするが、それをゴルドーが止めた。
ヴェルザルは激情に任せてゴルドーを振り払う。
「ヴェルザル!」
「今彼女についてやらないでどうする! 彼女は、リコルットは!」
――ヴェルザルの脳裏に浮かんだのは、彼の近くで息を引き取ったこれまでの戦友たちの姿だった。彼らは皆、孤独に死にたくはなかった。誰かに声を、言葉を、何かを残そうとして死んでいった。
「彼女が死ぬと決まったわけではないだろう! さっきのような暴漢が狙うとすれば、次は必ずお前だ! お前が一緒にいては治療などできん!」
「私が近くにいれば、暴漢だろうと何だろうと撃退する! 近くに、近くにさえいれば!」
「冷静になれ! そんな状況で治療ができるか! ……彼女の護衛は、王国騎士団に任せてくれ」
「任せてくれ? 任せてくれだと……?」
誰のせいでこんなことに。
お前がもっと警備をしっかりしていれば!
そう叫びそうになる声を、ヴェルザルは抑えた。
警備の不足は、ヴェルザルもゴルドーも感じていた。
それを理由に結婚式を強引に取り止めることが、ヴェルザルには出来たはずだった。
しかし、それをしなかったのは国家間のやりとりだとか、次の戦争を防ぐ為の足掛かりだとか、そんな大義のためだった。
それを、ヴェルザルは承諾したのだ。
こんな事態にはならないだろうと、たかをくくっていた。
襲いにくるのならば、それは自分が相手だろうと思っていた。
「……すまない。冷静ではなかった」
「いや、俺の方こそすまない」
二人が互いに謝罪をすると、また別の声が上がった。
「いいか! 王国のクソ共! お前らは絶対に幸せになんてなれねぇ! 帝国ある限り、てめぇらに安寧の日は一生訪れねえ! よく覚えておけよ!」
捕えられた男の一人がそう叫んでいた。
王国騎士がそれを抑えつけ、黙らせようとする。
「その暴漢、こちらに渡してくれ」
ゴルドーが王国騎士にそう指示すると、暴漢はその両腕を紐で縛られた状態で、突き出された。
「てめぇが王国騎士団長様かよぉ。こんな面した奴が団長様だったのかよぉ。道理で王国騎士の連中はどいつもへっぽこで性根が腐ってやがんだな」
暴漢が口汚く罵るのを無視して、ゴルドーはその暴漢を引きずる。
そしてヴェルザルとすれ違う瞬間に、暴漢は唾を吐き捨てる。
「英雄様よぉ! てめぇのせいで人が死ぬ気分はどんなだぁ!?」
「――――」
ヴェルザルは、何も答えない。
ゴルドーは黙ったまま暴漢を引きずり、壇上まで運び、そして客席に向き合った。
恐慌状態もいくらか収まってはいたが、それでも人々は騒々しく慌ただしく動き回り、口々にいったい何が起きたのかと喋っていた。
そんな中、客席の前の方に座る人々は、そのまま全く移動せず、口を開くこともなかった。
ゴルドーが壇上に立つと、自然と視線が彼に集まる。
「王国の皆々様。まず何よりも、王国騎士団長としてこの度の悲劇を招いたことをお詫び申し上げる! 王国への深い憎悪と敵意を持つ帝国の者たちから皆さまを守ることができなかった!」
ゴルドーのはっきりと通るその声は、騒々しい民衆にもよく響いた。
「その上で、ここに宣言する! 我々が、帝国と戦争をすることはない!」
その声に民衆はざわめく。
「なに言ってんだてめぇ。本物の腰抜けか? 恥ずかしくねぇのかよ? 王国騎士様には誇りってもんがねえのか? あ?」
暴漢が驚きと怒りを滲ませてそう言うのを、ゴルドーは完全に無視した。
「なぜならば! 本来、この結婚式は、帝国と王国との友好の証となるためのものであったからだ!」
ゴルドーがそう言うと、客席の前の方に座っていた人々が立ち上がり、その外套を脱ぎ捨てる。
そして、民衆のざわめきは一層大きくなる。
他の国々の正装を知らずとも、そこにいるのが王国の人々ではないことは明白であった。
多種多様なその服装の人々を見て、最も困惑していたのは、暴漢の男であった。
「なんだ……? こりゃあ……?」
その声を無視して、ゴルドーは叫ぶ。
「ここには帝国の方々と、対帝国の同盟に参加している国々の代表が集まっている! この結婚式は、その友好の証と平和への願いを込めたものであった! それをこの場で無下にすることは、どんなことが起ころうとも決して! ない!」
客席から一人の男が壇上へと上がる。
それは、帝国外交省のガルド・ロベンダだった。
「我々は、帝国の代表としてここに招かれ、そして参列いたしました。我々に戦争の意志はありません。しかし、この度の騒動を引き起こしたのが、我々帝国の人間であることもまた事実であります。そのことについて、謝罪をさせていただきたい。誠に、申し訳ありません」
ガルドの言葉には怒りと決意が込められていた。
「我々帝国の中に、戦争を望む意志があることも事実です。しかし、それを望まない人々が大多数であり、だからこそこの式典に参加させていただいたことを、知っていただきたい。そして、なによりも、我々もまた戦争を憎み、戦争を引き起こそうとするものを許さないという考えを表明させていただく! 重ね重ねになるが、この度の不祥事、お詫び申し上げます。誠に、申し訳ありません! そして事態の収拾とこの度の悪事を働いたものたちを捕えることに誠心誠意努力させていただく所存です」
ガルドは再び頭を下げた。
民衆はその言葉に戸惑い、中には怒りの声を上げるものもいた。
しかし、その多くはガルドの言葉を真っ直ぐに受け止めていた。
ガルドの言葉にもっとも強烈な反応を示していたのは、暴漢だった。
目を見開き、愕然とした表情をして項垂れていた。
「うそ、だろ。なんで、そんな、帝国の人間が、こんなところに。そんな情報、どこにも。こんなことになったら」
ゴルドーとガルドはそれを冷たく見下ろす。
「お前たちがやったことのツケは、必ず支払わせる。戦争には、決してならない」
「戦争しか能のない人殺しの集団を、我々は決して許しはしません。あなたたちは、もはや帝国の総意でもなければ、帝国臣民ですらありません。ただの逆賊です」
「……ッ! くそがっ! くそがっ……!」
二人の憎しみと怒りを込めながら、あくまでも冷静な言葉を聞き、暴漢の男はぐったりその場に倒れ込んだ。そして辺りに構わず咽び泣き始めるのだった。
暴漢の男を見下ろすゴルドーの目は、客席の方へと自然に向かう。
そして、その場に直立したまま動かない男の姿を見つける。
「……ヴェルザル」
ヴェルザルは地面にできた血だまりの場所から一歩も動かずに、ただそこに立っていた。
彼の表情には、強い自責の念だけがあった。
――そして、この翌日にリコルット・ルーデランドの死が公表された。




