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わたしをあなたのつまにしてください

作者: ぽちゃこ

 


 わぁ、素敵な人。


 小さな小さなシャルロットは、瞳をハートにして、父親が初めて連れてきた男性を見つめた。


 父親よりも身長が高くて体型もスマートだが、筋肉がついているからか逞しく感じる。


 やや灰色に近い黒い髪は無造作にセットされ、顔は今まで見た誰よりも素敵で美しかった。


 そして何より、こんな小さい女の子にでさえ、優しく女性として扱ってくれるジェントルマン!


 シャルロットは決意した。絶対、この人のお嫁さんになるわ、と。








***********************






「アスラン様! アスラン様!」



 ぱたぱたと駆けてきた少女は、とても可愛らしい姿をしていた。柔らかな金色の髪の毛はふんわりとカールして、真っ白なすべすべなお肌をより引き立てている。パッチリした瞳は、ピンクゴールド色をしており、ほっぺも美味しそうに色づいている。


 可愛らしいドレスに身を包み、シャルロットはアスランに抱きついた。見上げる瞳はハートが浮かび、キラキラ輝いている。


 そんなシャルロットは5才の頃から、父親の友人であるアスランに夢中だ。家に遊びに来たときには、側にまとわりついて離れないほどだ。


 だが、そんなシャルロットを邪険にすることなく、アスランは手慣れた様子で抱き上げると、自身の膝の上に乗せてやり、目を合わせて微笑んだ。



「あぁ、ロティ、今日も可愛いな。大人になったら、もっともっとかわいくなるぞ」


「アスラン様、私はもう12ですのよ! 充分大人になりましたわ! ですから、私を妻にしてくださいませ!」


「ちっちっち、甘いなぁ、ロティ。まだまだここが大きくなってないだろう? 俺は大きいお姉さんが好みなんだ。もちろん、ロティがそうなったときには、是非とも妻にしよう」



 アスランは、ちゅ、と鼻の先にキスを落とすと、シャルロットを簡単にあしらってしまった。


 いつもそうだ。大人になったら、大人になったら、と、シャルロットが妻にしてくださいませ、と迫ると、何かしらの条件をつけて、逃げてしまう。


 最初の時は、好き嫌いのない女性がタイプだ、とシャルロットに言い聞かせた。苦手だったピーマンとキノコを克服したと、シャルロットがアスランに迫ると、食事のマナーが綺麗な人が好きだ、とか、ダンスが優雅な人が好きだ、など、克服する度に沢山沢山条件を出した。


 もちろん、シャルロットは全てクリアしてきた。一つ一つ出される課題をこなす度に、アスランがぎゅっとハグしてくれて、唇ではないけれど顔のどこかに、優しくキスを落としてくれることが嬉しくて、頑張ってきたからだ。


 アスランのお嫁さんになれるなら、少し位の障害は何ともないのである。



「ここは、そのう、将来に期待とのことで、のびしろがありますもの! ええ、のびしろがありますから、大丈夫ですわ!」


「のびしろに期待ねぇ、そうだな、もう少し大人になってから確認させてもらおうかな。さ、ロティ、もうそろそろマナーレッスンの時間だろう? 時間に遅れずきちんとレッスンを受ける女性が、俺はタイプだぞ」


「わかってますわ! ふふん! アスラン様好みのイイオトナの女になってみせますわ! では、アスラン様、ごきげんよう!」



 シャルロットは無い胸を精一杯張ってアピールしていたが、ドレスの膨らみはさほど変わり無い。


 アスランは苦笑してそれを見つめていたが、そろそろマナーレッスンの時間だとシャルロットを膝の上から下ろした。


 シャルロットはぎゅっと拳を握って、えいえいおーと腕を振り上げて自らを鼓舞すると、一息おいて優雅なお辞儀で一礼し、蝶が舞うように美しく、足取り柔らかく部屋を後にした。



「すまないな、アスラン。うちのシャルロットがいつも甘えて」


「いや、気にしてないさ。それよりギルバート、本当に良いのか?」


「もちろん、シャルロットが成人を迎えても、アスランのお嫁さんになることを望んでいれば、な」


「フッ、まあそうだな」



 シャルロットの父、ギルバートはそういって笑った。アスランは満更でもなさそうな笑みでそれに応える。


 シャルロットは初めて出会ってから、今日に至るまでお父様と呼んだ数よりも、アスラン様と呼んだ数の方が多く、アスランが好きというよりも、アスラン信仰に近いものがある。


 アスランもそんなシャルロットを可愛く思っているらしく、このまま順当に行けば迎え入れることを暗にギルバートに確認した。


 ギルバートとしても、どこの馬の骨とも分からぬような軟弱な男に可愛い可愛い愛娘を渡す位なら、親友であるアスランになら任せられるようで、シャルロットが心変わりしないなら、と頷き返した。



「成人を迎えるまで、あと3年か。そろそろ迎え入れる為に、準備を始めようか」


「迎え入れるまでに、シャルロットの憂いを晴らしておいてくれよ」


「もちろん、ロティの為に俺も努力するさ」







*************************





「嫌ですわ! 私はアスラン様のお嫁さんになるために頑張ってきたのに、どうして王に嫁がなくてはならないのですか!」


「シャルロット、王様がお前を是非とも王妃に迎え入れたいと、そう言われているのだ、仕方があるまい?」


「お父様のバカ! 私が大好きなのはアスラン様なの! アスラン様のお嫁さんじゃなくては、嫌ですわ!」



 あれから3年の月日がたった。シャルロットは相変わらずアスランが大好きなのか、努力を続け、未だに妻にするようにと迫っている。


 社交界デビューした際に、アスランの為に努力した結果が如実に表れて、ついた通り名は『舞蝶の華姫』、蝶が舞うように軽やかで優雅な立ち居振舞いと、美しく磨かれた華(容姿や性格)を讃えられた通り名だ。


 きっと、アスランは私の努力を認めてくれて、成人を迎える年齢にもなった私をお嫁さんにしてくれるはず、シャルロットはそう言ってギルバートが持ってきた結婚話を嫌がって拒否した。


 ギルバートはほとほと困り果てたが、王の望みを叶えることが優先であるため、心を鬼にしてシャルロットに告げる。



「シャルロット、三日後に王様に拝謁し、王妃として迎え入れられることへの返答を、是と答えるように」


「バカ! 私もう知らないですわ!」



 シャルロットはよほど感情が高ぶり、冷静さを失ったのか、ドレスを翻してバタバタと足音を立てて自室へと逃げた。


 ギルバートはそんな娘の様子に、少しばかり胸が痛んだが、これは決まったことだからと、ため息を吐いて自らも政務室へと戻った。









***********************





 持っているドレスの中でも、一番可愛くてお気に入りのものを着せられ、化粧と髪を丁寧に施され、シャルロットはギルバートと共に馬車に乗っていた。


 ふてくさった表情のシャルロットに、ギルバートはため息を吐く。居心地の悪い空間を何とか打破しようと、ギルバートは話しかけた。



「シャルロット、あー、その、王様はなアスランに勝るとも劣らないイケメンだからな、安心するといい」


「.........」



 シャルロットは無視したまま、窓の外を見つめる。流れるように次々と人々や、建物が通り過ぎていく。


 みんなは生き生きと、したいことをしたいように暮らしているのに、どうして私だけこんな目に合うのかしら。


 深い深いため息がこぼれ、シャルロットは目を閉じるとアスランのことを想った。









**********************

 





 馬車は王宮の一等上等な出入り口......外国からの使者や賓客を迎え入れる時や、国内で王より招かれ表彰される者などを迎え入れる時に使用される、名誉ある門前......に、横付けされた。


 見上げる程高い重厚そうな扉は、普段は閉じられており、中の様子を伺うことは出来ない。


 だが、今日はシャルロットを賓客として迎え入れる為か、扉は内向きに開かれ王宮の見事な庭園が目の前に広がっていた。


 庭園の向こう側に白亜のお城があり、そこの出入り口の扉も開かれており、沢山の人々が歓迎ムードで待っている。


 ギルバートは王の心遣いに感謝すると共に、シャルロットを本気で迎え入れたい王の気持ちに感動し、シャルロットと共に一歩踏み出した。


 刈揃えられた芝生を歩き、美しく咲き誇る花々を見て楽しむ。また荘厳で華美な白亜の城がより近くで見られると、思わず感嘆の声が出てしまう。


 シャルロットも自分の意に反して連れてこられはしたのだが、普段目にすることの無い王宮の景色に、本当はそわそわキョロキョロして目一杯堪能したかったのだが、舞蝶の華姫の名は伊達ではなく、淑女として静静とギルバートと共に歩みを進めていた。



「お待ちしておりました、ダクルーゼ侯爵並びに、シャルロット嬢様」


「あぁ、すまないな、待たせたか?」


「いえいえ、それでは王がお待ちしておりますので、僭越ながら私めがご案内をさせて頂きます」



 城の入り口には王専属の執事頭が恭しく礼をして待っていた。滅多なことでは出迎えに来ることがない彼だが、今回は出迎えに来ていた。


 シャルロットはもう逃げられないと思ったのか、歩みを止めて、叫んだ。



「ごめんなさい、お父様! 私、私はアスラン様が良いのですわ!」



 そのまま、シャルロットはドレスを翻して捕まらないようにと、あらぬ方向へ走り去った。


 ギルバートを始めとするその場に居た人間は呆気に取られて、シャルロットを見送る。


 執事頭が呆れたようにギルバートを見た。



「もしや、説明をされてないようで?」


「あぁ、王に......ネタバラシは会った時にする、と頼まれてな」


「まったく、王もお戯れが過ぎますな」



 執事頭はやれやれと首を横に振ると、各部署に的確に指示を出していき、シャルロット包囲網を作り上げた。


 一瞬で情報提携を行った執事頭は、眼鏡をくいっと片手で持ち上げると、ギルバートに着いてくるように促し、当初の予定通りに案内を始めた。








*************************






 シャルロットは奥へ奥へと、知らぬまに逃げ込んでいた。警備兵に見つからないように、城の住人に見咎められぬように、と、時には隠れ、時には走りながら逃げていた為に、何処にいるか分からなくなってしまった為だ。


 入り組んだ迷路のような場所は、人気もなく、日は射し込んでいるものの、寂しげな様子だ。


 シャルロットは心細くなってしまい、人目を避けるようにバラの生け垣の裏に隠れると、メソメソと泣き始めた。



「アスランさまの嘘つき、お嫁さんにしてくれるって言ったのにっ、うぅ、アスランさまぁ......ぐすぐす」


「ここに居たのか、ロティ。随分探したぞ」


「! あ、あすらんさま!」


「仔兎のように目を真っ赤にさせて、どうしたロティ。俺に話してくれないか?」



 えぐえぐと泣いているシャルロットの、ふわふわの髪の毛はバラの生け垣の向こうからピョコピョコと動いていて、ここに居ますよー、アピールになっていた。


 アスランはそれを見つけると苦笑をこぼしながら、生け垣の向こう側へと出向き、シャルロットの前にしゃがみこんだ。


 シャルロットは、大好きなアスランが目の前にいることに、とうとう我慢出来なくなったのか、大きな声で泣きながら、アスランに抱きついた。



「どうしてぇ、わ、わたし、アスラン様のお嫁さんになるために、頑張ってきたのにっ、......王様が私を王妃に迎え入れるから、アスラン様のお嫁さんになれないの」


「そうか、それでロティは悲しくて泣いてしまって、王妃になりたくないと逃げて来たのか」


「アスランさまぁ、私はアスラン様のお嫁さんになれないの?」



 シャルロットの大きな瞳は涙でうるうるとしており、泣いたことで頬は真っ赤に色づいて、アスランを見つめる。


 アスランはその様子にグッと来るものがあったのか、シャルロットのさくらんぼのような熟れた唇に、自身の唇を初めて重ねて、甘い甘い口づけを落とした。


 目をぱちくりしながらも、シャルロットは懸命に口づけに応える。口づけが終わる頃にはもう涙は出ておらず、嬉しそうにアスランに抱き抱えられているシャルロットの姿があった。








*********************





 アスランのマントにくるまり、お姫様抱っこでシャルロットは何処かへ向かっていた。


 何処に向かっているのだろう、とアスランを見上げるが、口を開いて聞こうとするその度に、甘い口づけを落とされる為、シャルロットは頭を?マークで一杯にしながらも、おとなしくしていた。


 時おり通りかかる兵士や、王宮に勤める人々が注目しているのを肌で感じ取っていたが、何も見咎められることなく、とうとう王宮の白亜の城の中へと入ってしまった。


 サッと顔を青ざめさせたシャルロットに、アスランは大丈夫だから、と宥めると、足を止めることなくスタスタ歩いて何処かへ向かう。



「俺だ、シャルロットを連れて来たぞ、扉を開けろ」


「アスラン様っ!?」



 白亜の城の中は何処を見ても、豪華で荘厳で、自分の家とは比べ物にならないくらい素敵だった。


 いくつものシャンデリアの煌めきにうっとりとしながら、シャルロットは城の中を楽しんでいたが、一際豪華な扉の前でアスランが立ち止まると、シャルロットを連れてきたといい放ち、扉を開けさせた。


 シャルロットは絶望の声をあげ、私は王様に献上され、もうアスラン様に会えないのだわ、と目を伏せてアスランの胸に顔を埋めた。



「陛下! シャルロットが大変失礼を致しました、と言いたい所だが、アスラン! 早くネタバラシをしていれば、こうも騒ぎにならなかったものを」


「ギルバート、そう言ってくれるな。ロティを驚かせたかったのだが、少しばかり裏目に出ただけではないか」



 シャルロットは目を丸くして、アスランを見上げた。たった今アスランのことを、父親であるギルバートが陛下と呼び掛けた気がする。


 父親とアスランとを見比べては、何か言いたげに口をパクパク動かすのだが、言葉が出てこない。



「ロティ、ちょっと待っていてくれ、すぐに戻ろう」



 頭が混乱していて挙動不審なシャルロットを、フカフカのソファに座らせると、アスランは頬にキスを降らせて部屋から出ていった。


 シャルロットはそのアスランの後ろ姿をいつまでも見つめていた。


 気がつけば、いつのまにか部屋へ戻って来たアスランの姿は、いつか遠くから拝謁したことのある王の姿になっていた。


 シャルロットはアワアワしながらも、淑女として王に対する優雅な一礼をした。


 アスランはシャルロットの前に膝まづくと、その顔を見つめた。



「シャルロット・ダクルーゼ、お前を是非とも王妃に迎え入れたい、アスラン・シュバリエの妻となってくれるか?」



 アスランは恭しくシャルロットの手を取りキスを落とす。その姿に、ぽぉーっと頬を染めていたシャルロットは、ハッと我に返り、満面の笑顔で頷くと、アスランに抱きついた。



「ええ! ええ! もちろんよ、アスラン様! 私はずーっと、ずーっと、あなたのお嫁さんになりたかったの!」


「ああ、シャルロット。随分待たせてしまったな」



 












************************







「あのね、あのね、アスラン様」


「なんだい、ロティ」


「わたしをつまにしてください!」


「そうだな、ロティが大人の女性になったら、考えておこう」


「シャルはもう大人の女性なの!」









.


























 甘いお話に飢えていたので、さっぱりとした短編小説を執筆しました。


 シャルロットとアスランの年の差について、まとめ

 初めて出会った時、シャルロットは5才で、アスランは23才です。18才の年の差ですが、アスランは断じてロリコンではありませんし、シャルロットもファザコンではありません。



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― 新着の感想 ―
[一言] うーーん。 ドッキリどころのいたずらじゃないですよね、これ。 悲観するあまり自害でもしたらどうするんだろう。 この子の一途ぶりからして、どんだけ泣くかわからないのだろうか? いい大人がするこ…
[一言] いや、ファザコンじゃないのはわかったけど、アスランはロリコンだろう。(断定)
[一言] 良い感じに甘くて良い話でした。 ただ、アスランがロリコンでは無いという事だけは信じませんwww
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