あれから7年
季節は冬。
窓から差し込む朝日に眩しさを感じて、俺は目を覚ました。
「はぁ・・・・・・あの時の夢か」
窓から見える時計塔によると、ただ今の時刻は5時、いつもより1時間早く起きてしまったようだ。
そういえば昨日の夜はカーテンを開けたまま寝てしまった。次から気をつけなければ。
とりあえず二段ベットの二階から降りて、ぐっと背伸びをする。
施設の宿舎は全て二人部屋だ。
俺は特例で部屋を貸して貰って以来、この101号室をずっと一人で使っている。
眠気覚ましに洗面所で顔を洗ったら、いつもの訓練用の服に着替えて部屋を出た。
宿舎を出て訓練場に行くと、朝早くからトレーニングをしてる何人かの軍の人が俺に気付いて、その一人が声をかけてきた。
「おう、エスト! 今日は早いな! いつものやった後、久しぶりに俺たちと一勝負しないか?」
「おはようございます。良いですね、お相手します」
一言返してから俺は訓練場の外側を走り始めた。この後は武術の型の往復練習だ。
これが俺の日課となっている。
走り終えた俺は中央の広場で型の練習をする。
まずは自然体で精神統一。次に右足を半歩前に出し、右手を肩の高さへ左手を腰の高さへ移動させる。
基本の構えから腰を落とし右足を踏み出しながら右手を素早く突き出した。右手を引き戻し今度は左手を突き出す。
足幅を広げ、流れるように体重移動させ体の芯がぶれないように鋭い蹴りを放つ。
足さばきを活用して体を反転させ再び突き。
朝のトレーニングを終えた軍の人たちがこちらを見ているのが分かる。
俺はそれを気にもせず、型の一つ一つの動作をきちんと丁寧にかつ力強く決めていく。
全ての型を決め終わり、大きく息を息を吐くといつの間にか俺の周りは賑わっていた。
「やっぱエストの型はいつ見てもスゲーな、一つ一つの動作が洗練されている」
「ありがとうございます。でも俺は修行中の身なのでまだまだ完璧にはほど遠いです」
他の人たちからも同じような賞賛の言葉受け取るので俺も同じように返していく。
そこで俺の型を見ていた一人の軍の人が
「おいおい、冗談だろ。エストがまだまだならここにいる俺たちは一体何なんだ?」
そこでどっと笑いが起きる。
「さあさあエスト、そろそろ朝食の時間になるしさっさと始めようぜ」
「今日こそはやっつけてやろうぜ」
『おう!』
すごい団結力だ。なんだか俺が悪者扱いされているみたいだ。
「いくぞ!」
誰かの声が合図になり、数人が同時に攻めてきた。
まずは一人目の足を真横から刈り取る。二人目の突き出された拳に左手を添え、巻き込むようにして衝撃を完全に吸収する。相手の懐に入り、その勢いを利用して背負い投げる。
三人目は俺が投げた瞬間を狙って蹴りを出してきたが、体を半歩ずらすだけでその蹴りは俺の体のすぐ横を通りすぎて行った。
すぐさま間合いを潰し、鳩尾付近に拳を叩き込んだ。
こんな感じでいつの間にか朝トレをしていた全員と戦わされた。
「くそーまたやられちまったぜー」
「武術だけならエストに敵うやつはいないんじゃないか?」
「全員と相手して息ひとつ切らしてないとかとか、化け物かお前は・・・」
「まだエストがここに入ってきたばっかりのときは、俺たちに散々しごかれて泣きべそかきながら一人で特訓していたのは良い思い出だ」
「あの時のエストはまだ可愛かったなぁ」
「いやいや今も十分に可愛いだろ! 見ろ! あの綺麗な黒髪に一点の曇りも無い黒い瞳、線の細い女顔。あれはまさしく美少女!」
「いやあいつ男だから」
誰が美少女だ。全くもって遺憾である。子供の頃に何度か言われたことがあったが15歳にもなってまだ女と間違われるレベルにいるのか。冗談じゃあない。トレーニングは毎日続けているというのにがっしりとした体つきにならないし。しかし力は結構ある。
一体俺の身体どうなっているのか疑問である。
いつの間にか時間は過ぎ去り、朝食の時間になっていた。
急いで自室に戻りシャワーを浴びる。軍の制服に着替え、今日は何を食べようか考えながら食堂へと足を進めた。
俺がオルフォード家から追放されて7年が経った。
最初のほうはかなり苦戦したが、今では軍に慣れ、生活が、行動がしっかり染み付いている。
訓練も文字通り死ぬ気で頑張り、何時しかブレンシア王国国防軍の中で上位の格闘技術を身につけた。
勉強もやった。
魔物を倒すための知識やこの国のどこにでも認められるための座学を片っ端から頭につめこんだ。
ただし、残念ながら魔法のほうはいくら練習してもだめだった。
一様、初級魔法から始まり、下級、中級、上級、最上級、機密魔法と一通り使えるようにはなったのだが、 どれも発動までの時間がかかりすぎる。
ファイヤーボールなどの初級魔法ならまだしも、普通の魔術師なら一瞬で発動出来る下級、中級魔法は10秒から20秒もの時間がかかる。
上級、最上級魔法を発動しようものなら2分から5分もの時間がかかってしまう。
これがもし、本当の実戦であれば5分の隙など、見せたときにはとっくに死んでしまうだろう。
まあ、この問題は俺だけ持つ世界で唯一の魔法で解決できるのだが・・・・・・。
軍からは機密魔法に認定されているためあまりむやみに使えないのだ。
食堂でそれなりの食事を取り、いつも通り他の人たちと国の外にいる魔物の討伐に行こうとすると、頭の中で声が聞こえた。
『エスト、私だ。至急総隊長室まで来い』
『了解』
無属性下級魔法テレパシーボイス、俺は即座に返答を返し、他の人にことを伝えてから足早にアドルフの部屋に向かった。
「失礼します、エストです」
「入れ」
ドアをノックして、名乗る。返答があったため、部屋の中に入った。
そして総隊長の第一声
「魔族の王、魔王が復活した」
「・・・・・・はっ?」
「もう軍隊を作り終えているらしい。直にこの国を破壊しに攻めてくるだろう。そこでだ。対処が遅れれば大惨事になるであろうこの問題を即急に解決するため、我がブレンシア王国国防軍は戦略級の魔法兵器を投入する。これはアルカルニア大陸の各国の王が集まって開いた円卓会議によって決められたことだ」
「・・・分かりました」
急に魔王と言われたのでなにかと思ったが、国からの討伐依頼が届いたのか。
円卓会議によって決められたということは、許可はとってあるということか。
「エスト」
「はい」
総隊長が俺の名前を読んだ。
「次元属性機密魔法、次元幽閉を用いて魔王軍全てを殲滅せよ」
「了解」
久しぶりに使うなぁ、と思いながら俺は自然の笑みを浮かべて声を発した。
最後のほうの表現は某ライトノベルに影響を受けました。
誤字・脱字報告お願いします。
感想下さい!