神の生まれ変わり
代々優れた魔法の素質を持つ名家のひとつ、オルフォード家。
俺はそこで長男として生まれた。
俺は生まれたころ、『神の生まれ変わり』と言われたそうだ。
赤子の状態で国内最高の魔力量を持つ宮廷魔術師さえも凌駕する魔力量を持っていた。
父さんと母さんは、俺の生まれながらにして優れた才能に大いに喜んだ。
だが、ここまでの能力があると互いに抑制し合う他の名家との力関係を崩す原因になるため、俺は、世間に秘密にされて育てられた。
幼少期の俺は子供にも関わらず、どこか達観していて同年代の子供よりもずば抜けて賢かったそうだ。
そんな俺には、ひとつ上の姉と同い年だが俺より後に生まれた妹がいた。
姉のレイラは少しおっとりしていて、妹のエミリアはしっかりものだ。
オルフォード家の屋敷はとても広く、レイラ姉さんとエミリアに連れられてよく屋敷の中を探検したものだ。
父さんと母さんはいつも俺たちのことを優しく見守り、笑顔を向けてくれた。
家族で過ごした毎日はとても幸せなものだった。
だが、そんな幸せの日々は長くは続かなかった。
8歳の誕生日。
この国では、魔力を持って生まれた子供もそうでない子供も8歳になると、魔力測定をしなければならない決まりになっている。
測定する項目は二つ、一つ目は魔力量。
この項目は国内で一番の魔力量を持つ俺には有って無いような物なので省略する。
問題は二つ目の魔力操作だった。
魔力操作とは、魔法を発動するまでの速度、発動した魔法の強さの二つをまとめたことをいう。
俺にはその才能があまりにも乏しかった。
俺は自分の持てる全ての力を出し切り、魔法を発動させた。
しかし、火属性初級魔法であるファイヤーボールでさえ火の玉が出現するのに10秒以上もかかった。普通なら詠唱してから5秒後、天才なら1秒で出来る。
当然レイラ姉さんとエミリアは、1秒で発動出来る。
じつは、魔法の評価において重要なのは、魔力量よりも魔力操作であったりする。どんなに魔法が使えても、魔法を発動するまでの時間が長ければ長いほど敵に多くの隙を与えてしまうし、魔法自体の威力がなければ、武器を使用したほうが良い。
つまり、実戦で使えるか、使えないかが評価の基準であると言っても過言ではない。
結果、俺、エスト=オルフォードの測定結果は最悪であった。
そんなことがあった次の日から、俺の日常は劇的に変化した。
家族は俺に接する態度を変え、外出を禁じられた。
「この家から出ていけ、そして一生オルフォードの名を名乗るな」
ある日、父さんの部屋に呼ばれた俺は話の開始早々その言葉を聞いた。
父さんの部屋には家族全員が集まっていた。
父さんはその言葉以降、口を固く閉じ、目を伏せた。それ以上何も話すことは無いらしい。
母さんを見ると、母さんは俺を蔑むような目で見つめ返してきた。
その目を嫌がるように俺は目線を逸らした。その先は、レイラ姉さんとエミリアがいたが、一度も目を合わせてくれなかった。
魔法の名家オルフォード家にこんな人間は必要ない。そういうことだろう。
8歳の俺は幼いながらも悟ってしまった。
「分かりました。今まで育てて下さって、ありがとうございました」
俺は深々と頭を下げた。
そんな行動とは裏腹に、内心で俺はとてつもない怒りと絶望感に襲われていた。
今まで注いでくれた優しさやあの笑顔は全て嘘だったのかと。
彼らが見ていたのはどうやら俺自身ではなく、俺の才能だけだったようだ。
家族全員から発せられる拒絶に耐え切れなくなり、俺は平静を装いながらも何とか静かに部屋を出た。
扉を閉め、一人になると後から来た不安、孤独、悲しみの負の感情に押しつぶされそうになり、たまらずそのまま屋敷を飛び出した。
どれだけ走っただろうか。
疲れて少し冷静になった俺は立ち止まり、今、自分が置かれている状況の確認をした。
着ていた上質な服は、あちこちが破れていてボロボロになっている。
履いていた高価な靴は、土や泥で酷く汚れていた。
体には、いくつかの小さな擦り傷や切り傷があった。枝や葉っぱにひっかかった時についたものだろう。
もちろん持ち物は何もない。荷物をまとめずに屋敷を飛び出したからだ。
そしてここは深い森の中、俺はオルフォード家を出て、町を抜け、魔物が出る区域の森まで来てしまったらしい。
これからどうしようか考えていると、どこからか狼のような鳴き声が聞こえた。
まずい。
そう思い、この場を離れようとした瞬間、狼の姿をした魔物たちに囲まれてしまった。
「ああ、俺はここで死ぬのか」
そんな言葉を呟き、地面にへたり込んだ。
不意に家族と過ごした幸せな日々を思い出した。走馬灯だろうか。
思い出は急速に流れていき、屋敷を飛び出したついさっきのことを思い出した。
改めて思い出す理不尽な出来事に沸々と湧き上がる怒りの感情。
いきなり現れた魔物に対して混乱していた俺の頭は、徐々に迫ってくる死の恐怖と極度の緊張により、急速に冷やされ、冷静になっていった。
立ち上がった俺は、冷えた頭をフル回転させ、今の状況を整理した。
敵は3体、狼の姿をした魔物。3体の内いくつかの爪と牙に血がついていることや一瞬で俺を囲んだ協調性の良さから魔物たちの攻撃方法は素早い連携からの牙による噛みつきもしくは、爪による引っ掻きであると推測。
次に自分について客観的に観察する。
味方0、人族、エスト。体にはいくつかの傷あり、普段より運動能力低下の恐れあり。武器なし。魔法は使えるが、魔力操作が壊滅的である。
最後に俺は目に見える情報と自身の持つ情報全てを駆使して、即興の作戦を立てる。
この戦闘には戦力差があるため、倒すことは考えず、撤退を優先する。撤退するには、敵の連携を崩す。敵に囲まれている状況を一時的にでも打開出来れば、撤退できる可能性あり。
次に敵による包囲の打開策、武器は無く、格闘技術も無いため、敵の連携を崩すほどの衝撃を与えるには筋力的に不可能に近い、よって武器や素手による白兵戦は却下。
魔法による戦闘。魔力操作の技術が乏しいがそれを補う魔力量をもつため、可能性は低いが他に現時点で考えられる策は他に無いため、採用。
俺が立てた作戦はこうだ。
1、 火属性初級魔法ファイヤーボールを事前に発動しておき、何時でも発射できる状態で魔力を使って何とか止めておく。
2、 3体の魔物が襲ってきた瞬間を狙ってどれか一体に向けてファイヤーボールを放つ。
3、 当たった隙にそこから抜け出し、撤退する。
こうして俺の人生初、命がけの戦いが始まった。
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