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魔法学校の次元使い  作者: Tsuki
幼少~少年編
1/13

少年は次元使い

初投稿です。

読んで頂けたら嬉しいです。

 とある世界では、魔王が存在する。

 魔族という種族の頂点に君臨する絶対強者だ。

 魔王は魔族が占領する大陸で何万もの魔物の軍勢をつくり、その圧倒的な力で世界を破滅に導こうとしていた。


 そう、この世界は滅亡の危機に瀕していたのだ。


 「ゼノ様、全ての準備が完了いたしました」

 「わかった。お前は我と共に来い」

 「かしこまりました」

 

 魔王の側近であろう悪魔型の魔物が魔王に報告を終えると、その悪魔は魔王の後ろに控えた。

 魔王は玉座からゆっくりと立ち上がると、全軍に向けて言い放った。


 「時は来た。我々魔族がこの世の頂点に立つ時が! この世界の全てを破壊し、蹂躙しろ! 全軍、進軍開始!!」

 『ウォォォォォォーーーーー!!!!!』


 魔物たちは声を上げて進軍を開始した。


 最初の目的地は主にヒト族が暮らすアルカルニア大陸にある国々のようだ。


 魔王は最後列にて巨大な馬の魔物に乗り、進軍の様子を見ていたが、少しすると前方からいくつもの小さな悲鳴が聞こえるようになった。

 

 魔王は不思議に思い、進軍を止めさせてから馬を降りた。

 自らの眼に宿る魔眼の力を発動し、遥か前方を見た。

 全てを見通す魔眼が見たのは、歪な形をした槍を装備した魔物の集団とその間を風のように通り抜ける一人のヒト族の少年。

 魔王軍の最前線、魔族最高峰の貫通力を誇る突撃部隊が、悲鳴の発生源だったのだ。


 少年が走り抜けると魔物たちは次々と倒され、否、装備した鎧や武器ごと文字通りに消されていった。

 後には、なにも残らない。


 魔王は、驚愕した。

これまで数々の種族を滅ぼしてきた魔族の先鋭たちが、たった一人のヒト族、しかも子供によって壊滅させられていることに。


 「ゼノ様、いかがなさいましょう?」

 「ヤツを殺せ。今すぐだ」


 魔王は、側近を通じて各軍の師団長らに少年抹殺の命令を飛ばし、自身も魔力を練り始めた。

 魔王としては、まだ国境すら越えていないこんな荒地で戦闘が始まり、さらには相手が未知の力を使い攻めてくるなど、全くの想定外だったのだろう。

 だが、この状況に素早く対応し、未知の力を持つ少年を危険と判断し、全勢力で攻撃を始めた。


 少年は、魔物や攻撃魔法を消し飛ばしつつ、魔王の魔力に反応したのか、魔王がいる方を向き、立ち止まった。

 すると攻撃が当たったわけでもないのに、少年の体の輪郭が崩れ、跡形もなく消え去ってしまった。

 まるで先ほど消されていった突撃部隊の魔物たちのように。


 だが魔王は、そこで油断をしなかった。

 すぐに後方支援部隊に索敵魔法を展開させ、警戒態勢を強化した。

 形のない不安が魔王軍全体を包む。

 側近である悪魔は戻って来ない。

 大方、あの少年に消されたのだろう。

 と、そこで不意に後ろから声をかけられた。


 「お前が魔王ゼノだな」

 

 魔王の額に冷や汗が浮かぶ。

 もちろん、魔族の頂点である魔王を知らない魔物などこの世には存在しない。

 つまり、話し掛けてきた者は、魔族ではないことがわかる。

 魔王が恐る恐る後ろを振り返った。


 そこには、先ほどまで魔王軍の前衛部隊と戦いを繰り広げていた少年が静かに立っていた。

 この世界の人族では珍しい黒髪黒目、武器は何も持っておらず、紺色のコートに身を包んでいる。

 纏っている魔力の量はもはやこの世のものではない。遥かに次元(・・)を越えている。

 

 「貴様・・・・・・一体何者だ?」


 魔王の問いかける言葉に少し間があったのは、支援部隊の索敵を掻い潜りいきなり現れた少年に驚愕したためか。

 それとも、目の前の少年との圧倒的な力の差を感じ取ってしまった故の恐怖によるものか。

 

 突然現れた少年に戸惑いながらも、魔物たちは少年を取り囲んだ。


 「これから消す相手に名乗る必要は無い」


 声も10代の少年のものだったが、その淡々とした口調はどこか大人のようにも感じられた。

 

 「任務を続行する」


 その言葉と共に、少年の周りを囲んでいた魔物たちや他の魔王軍が魔王だけを残して、いきなり消失した。

 魔王は、刻々と襲いかかってくる死の恐怖に慄然とした。

 

 「くそっ! 魔王であるこの私が、たった一人のヒト族などにやられてなるものかぁぁぁぁぁ!!」

 

 魔王は自分の魔力の全てを開放し、最上級魔法を詠唱する。

 少年の頭上には大陸もろとも滅ぼさんとする、第二の太陽が現れた。

 だがその魔法は最後まで紡がれることは無かった。


 少年が呟く。


 「消えろ」


 途端に第二の太陽は、消え失せる。


 魔王は、この世界の絶対強者であったはずの一体の魔物は、自分の命が目の前の少年の手に握られていることを悟った。


 だがそこで魔王の表情は一転して無理に笑みを浮かべる。


「わ、わかった、我の配下にさせてやろう。金も名誉もこの世界も全ては我と貴様の思いのままだ」


 そう、命乞いだ。

 だが、少年の応えは返ってこない。

 返ってくるのは、沈黙のみ。

 一時も崩れないその無表情に魔王は再び問う。


 「貴様は・・・・・・なぜ生きている?」


 魔王は、死ぬ前にもかかわらず、何の目的も欲望もないこの少年は、一体何を日々の糧にして生きているのだろうと思い、素直な疑問をぶつけた。


 返って来ないかと思われた問いにしばらくの沈黙のあと、予想に反して、応えが返って来た。


 「自分でもよくわからない」


 答えにならない返答をした少年の前には、もう何もいなかった。

 荒れ果てた地面が広がっていた。


 この日、魔王を含めた何万の魔物の軍勢はこの次元(せかい)から姿を消した。


 そしてこの日、滅亡の危機に瀕していたこの世界は、たった一人の少年によって秘密裏に守られた。



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