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「さて、もう問題も疑問もないね?」
「まぁ、はい……」
何故か兄様はあたしの方を向いて聞いて来た。問題があるかどうかはわからないけど、今出てくる疑問は全部答えてもらった、かな……?
「リリィ、僕の屋敷に来てくれるかい?レティも」
「えぇ、私はいいですわ」
姉様はとびっきりの笑顔で答える。
「ちょ、ちょっと待って!兄様!」
「ん?何か問題があった?」
問題と言うか、疑問!
「兄様、どうしてあたしも行くことになってるんです⁉︎」
「え?あぁー……えっと……君は確か、極度の姉様ラブなんだとか。だから、ついて来てもらった方がいいかなと。それに、リリィも慣れない環境で1人は可哀想だろう?
もちろん、僕もリリィを支えるけれど、女性にしかわからない悩みとかね。レティがいてくれた方が、リリィも安心だと思うんだよ。
あとは、そう、これが一番の理由だね、僕の屋敷にはまだ使用人が揃っていない。特に女性がね。レティは10年もリリィの世話をしてきたんだよね?だから、適任だと思うんだ」
「そうなんですか!なら!喜んであたしも行きます!姉様、あたしもついて行くからね!」
姉様と離れなくていいなんて、嬉しい!
姉様が兄様の元へ行くのなら、あたしは時々姉様に会いに行くことしかできないのかと思ったけど、それならまた一緒にいられる。
やっぱり、兄様は素晴らしい人だ。姉様と婚約して、いずれ結婚するのが兄様で良かった。
「……え、えぇ」
姉様は困った様に笑った。え、なんで?
それから、姉様は兄様に視線を向けた。兄様は、ふっと笑う。
姉様の視線が鋭くなった気がした。
気のせいだと思い込むことにした。
「あ、でも兄様。婚約の話も、兄様の屋敷に住むと言う話も、お母様とお父様に話してからでないと無理です」
あたしと姉様は、両親の庇護下にいる存在だ。両親の許可なしにそこまで決められるわけない。
「あぁ、そうだね。じゃあ、シェスタ伯爵夫妻はいつ帰られる?」
「そうね……夜には帰ってくると思うわ」
あれ、あたしばっかり話してる様な気がする。
「そう。じゃあ、僕は夜にもう1度来るね」
「はい。……あ、お茶も出さず申し訳ありません」
今更ながらに気付いたことを告げる。大事なお客様なのに、あたしは玄関先で話していた。
「いいのよ、レティ。この男には……げふんっげふん。アレク様は忙しいらしいから、お茶なんて飲んでいる暇はないのだから」
姉様の言葉には何故かトゲがあった。
姉様は意外と恥ずかしがり屋だから、照れ隠しね、きっと。これからはずっと一緒なんだから、慣れて行くといいねと妹は願ってますよ。
「……リリィ、お茶ぐらいは飲む余裕はあるよ?」
「レティの手を煩わせると言うのですか?」
「普段びっくりするほどレティの手を煩わせているのは君だと思うけどね……。
あぁ、レティ。気にしなくていいよ。僕はそろそろ行くよ」
早口で行われた会話に、あたしは入って行くことも聞き取り切ることもできなかった。
何の話だったんだろう。そんな疑問を思っているうちに、兄様は屋敷を出て行った。