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「うふ、ふふふふ……!」
ね、姉様⁉︎
突然、姉様が不気味に笑い出した。それは、今まであたしが聞いたことのない様な笑い方。
「姉様……その笑い方はダメです!」
「あら、ごめんなさい。レティ。あまりにも嬉しすぎて、私我を忘れてしまったわ」
姉様は、ぴったりのガラスの靴を指差して柔らかく笑った。
そっか、姉様そんなに嬉しいのね!
「姉様が嬉しいなら、あたしも嬉しい!」
紛れもない本心を言うと、姉様は一瞬残念な子を見る様な目で見た後に兄様に視線を向けた。
「アレク様」
鈴が鳴る様な美しい声。
兄様は、ハッとした様に姉様を見た。見つめ合う。美男美女……いいよねー!
「……」
姉様は兄様の耳に口を近づけ、何か囁く。愛の言葉かしら。あたしも知りたい!
あぁでも、姉様があたしに言わないと言うことは、あたしに伝えたいわけでは無いと言うことよね。
ならば、我慢よあたし。
「……婚約してください、リリアナ・シェスタ令嬢」
兄様は一瞬暗い顔をして、それからにっこりスマイルで姉様に婚約の申し込みをした。
「えぇ、喜んで。アレクシス・ミランダード様」
姉様はとっても幸せそうに微笑んだ。
やっぱり、姉様と兄様は結ばれる運命にあったんだわ!
「姉様、おめでとうございます!」
あたしは心の底から拍手した。姉様、これで将来も安定ね!何と言っても、財産だけは有り余るほどあるアレクシス様だもの。
小耳に挟んだのだけれど、兄様の個人財産だけで我が家は持ち直すほどあるんだとか。
やだ、お金せびったりしないわよ?
そんな心の葛藤は全部飲み込んで、あたしは姉様を祝福した。姉様は天使の微笑みであたしにありがとうと言った。
「兄様も、おめでとうございます」
あたしが言うと、兄様は複雑そうに弱々しく笑った。姉様が兄様を見つめると、弱々しそうな笑顔が満面の笑みになった。
兄様、そんなに姉様に見つめられて嬉しいとは。どこまでも運命的な2人なのねぇ。
「あれ、姉様。アマンダを知らない?それに、お母様もいないわ」
「アマンダさんなら、さっき洗濯物が!と言って何処かへ行ったよ。それから、シェスタ伯爵夫人なら、やだもうこんな時間と言って、屋敷を出て行かれたよ」
……え、姉様が婚約していると言うのに?
求婚されたというのに?
我が家のお母様は、少しずれているのかもしれない。
「そんなことより、リリィ、レティ」
兄様は、真剣な表情で切り出した。そんなことより、と言うほどの話題がありまして?
「何でしょう、アレク様」
「2人には、今日からでも僕の屋敷に来て欲しい」
「屋敷?」
はて、兄様には“僕の”と言える屋敷はあったかしら。
「あぁ、2人は知らなかったんだっけ?僕は、君たちに会えなかった10年の間、愛おしい姫君を迎えに行くため資産を増やし、屋敷を買って……色々してたんだよ」
え、何それ初耳ですよ。
「あら?アレク様、麗しの深窓のご令嬢方とデートなさっていたのでは?」
姉様……このタイミングで聞くの?
姉様は時折間が悪い。
これも、お嬢様故だろうか。
「デート?あぁ、違うよ。ご令嬢の中には、独特の知識を持っている方もいるからね。その方達に話を聞いたり、事業のお手伝いを令嬢たちのお父様に頼んでもらったりしたんだ。ちなみに、人妻?とか言われる人たちも一緒だよ」
兄様は、令嬢達に好かれる様な微笑みで熱愛報道をぶった切って行った。
あたしとしては、姉様一筋であればなんでも良いんだけどね。