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兄様は、あたしの発言に苦笑いするみたいな顔になった。
あたし、何か変なこと言ったかしら?
「あのね、レティ。僕は君かリリィ、どちらを婚約者にすると決めて来たわけではないんだ。この靴が合う方を婚約者に迎えようと思って、来たんだよ」
あら?あらあら。あたしったら、少しばかり早とちりした?
……ん?ちょっと待って。
この靴に合う方を、って、あたし達どっちも合わないってこともあるんじゃ無いの⁉︎
「兄様、それは、あたしと姉様のどちらにも合わない可能性もあるのでは?」
それは困る!
「あぁ、それは大丈夫だよ。君たちの足のサイズは、ドレイクに調べさせたからね。で、二足作って僕はどっちがどっちか知らないまま片方選んで来た」
「それは良かったです!」
あたしは息混んでいう。うん、それなら大丈夫。多分、この様子から察するに兄様は知らないんだと思うけど、あたしと姉様の靴のサイズは一緒。
姉様は自分の足のサイズも服のサイズも知らないので、これで靴がぴったりだったら姉様は心置き無く兄様と婚約できる!
運命だと捉えるはず!
あぁ、何て素晴らしい!
あたしと姉様の靴のサイズが一緒で良かった!
でも一応、兄様にも姉様にもあたしと姉様の靴のサイズが一緒であることは気づかれないようにしないと。せっかくの運命なシチュエーションが台無しになってしまうもの。
「兄様、ぜひ、姉様に先に履かせてください。そのガラスの靴は姉様のですから!」
「え」
あ、しまった。口が滑った。
まだ兄様の中ではわからないことなのに、あたしは決定事項のように言ってしまった。
「あ、えっと……姉様!履いてみてください!」
それまでぼーっとしていた姉様に、急かすように声をかける。
「え、えぇ。アレク様、私に履かせていただいてもよろしいですか?」
「はい、どうぞ」
兄様は訝しげにあたしを見て来たけれど、あたしは片足を持ち上げる姉様が倒れないように手を持つので、兄様からは自然に(多分)目を逸らす。
兄様は、白い姉様の足からピンクのヒールを脱がせた。そして、代わりにガラスの靴を履かせる。
まるで、物語を見ているようだった。
形の良い姉様の足が、吸い込まれるようにガラスの靴の中に入っていく。それは元々姉様のものであったかのように違和感はなく、ピッタリと入った。
こんなことなら、姉様にとびっきりの白いドレスを着せておけば良かった!
あたしはそんなことを思いながら、朝着せたドレスが普段着用であることを悔やむ。
兄様。今度からこんなロマンチックなことをやるなら、あたしに教えてください。
姉様をとびっきり美しく仕上げますから。
兄様は、姉様の足がピッタリ入ったガラスの靴と姉様を眺め、何故か困惑しているようだった。あれ?なんで?
あ、兄様は確か姉様に合うとは思っていなかったとか?
んー。そういえば、兄様は姉様のことが好きなのになんでわざわざあたし用のガラスの靴も用意したんだろう……。まぁ多分、あたしへの優しさかな。
でも良かった、姉様の足にピッタリ合ったガラスの靴。これで姉様は兄様の婚約者よね!