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姉様があたしを呼んだのは、どうやら着替えるためだったらしい。姉様は白魚のような美しい手を、さながら彫刻品のように持ち上げてクローゼットを指差した。
「今日は……そうね、明るい色がいいわ」
「明るい色ね、わかったわ」
あたしは姉様のクローゼットに向かう。ドレスや夜着に関しては、貴族は全てオーダーメイドなので売ることは出来なかった。
だから、ほとんど残っている。
あたしは姉様のクローゼットの前で仁王立ちして、色とりどりのドレスを睨み付ける。姉様のドレスを選ぶために、有る程度条件がある。あたしが勝手に作った条件だけど。
・2日前と同じはダメ
・レースとか破れそうなものは少なめ
・姉様の気分に合わせて
・着やすく脱ぎやすく
だいたいこんな感じ。ひとつ目の条件は、貴族気分な姉様は連続で同じドレスを着ることに耐えられないから。貴族は一回袖を通した服は着ない、というノリ。
でもまぁ、2日空ければいいかなと思っている。いざとなったら誤魔化す。
ふたつ目のは、洗濯する時のことを考えて。メイドがいた頃は丁寧に丁寧に洗えたけど、もし破れても捨てれば良かったけど、今はそんな贅沢出来ない上、洗濯のスペシャリストはいないから。
みっつ目のは、そのまんま。さっきみたいに、姉様に色合いとか聞いておいて、それに合わせる。
よっつ目は、あたしがもしも手伝えなくても、着替えられるように。ほとんどあたしが手伝うから、あたしが着やせやすく脱がせやすい、という意味でもある。
今日は、薄い桃色の普段着用のシンプルなドレスを選んだ。
「レティ、これ3日前にも着たやつよ」
注意されてしまった。
「ごめんなさい、姉様。うっかりしていたわ」
本当にうっかりしていた。そう言えば確かに、3日前もこれを着せた気がする。
2日前じゃないからまだ大丈夫だと思うけど。
しゅんとして謝れば、姉様は慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。
「今度からは気をつけてちょうだいね」
「はい」
優しい姉様を持って妹は幸せですよ。
「レティ、後はあれをとってちょうだい」
姉様が次に指したのは、宝石箱。これは、質がいい上にかなり大きい石がついた物ばかり入っている。
姉様は売らないで!と言っていたけど、ごめんね、姉様。使っていなさそうな宝石を数個、内緒で売っちゃった。
姉様はかなり大切に使っていたので、あたしもお母様もお父様もびっくりするほどの値段になりました。おかげで屋敷は売らずに済んだ。
今日は……うん、これにしよう。あたしが出したのは、小さなダイヤが付いたネックレス。鎖の部分はピンクゴールドで、肌に馴染む控えめな可愛さ。
姉様に見せたら、うんそれでいいわと言われたので姉様に着けた。
後は髪。手触りの良い金髪を梳いて、結い上げる。昔は上手く出来ずに、姉様が痛がっていたけど、今は手慣れた物だ。
「はい、出来たわ」
「ありがとう、レティ」
姉様の笑顔は天使の微笑み。
この笑顔が好きなんだよなぁ。