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ロリの惑星  作者: 神原ハヤオ
【前章】ロリの惑星
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08「ようじょの誕生日」その2

 私とトゥインクルさんは公園に向かいました。

 しばらくすると幼女さんがやって来ました。


「本のおねーちゃん!」


 駆け寄ってきました。


「幼女さん、違います。私は『本のおねーちゃん』じゃありません」

「え? でも」

「幼女分を回復ですわっ!」

「ひゃうっ」


 トゥインクルさんが幼女さんの太ももにダイブしました。


「やわらかぁい……あれ、柔軟剤変えました?」

「やめてよぅ、くすぐったいよぅトゥインクルさん!」


 はっと幼女さんも我に返ったようで。

 なるほど、トゥインクルさんの蛮行は幼女さんの目を覚ますためだったんですね!

 そうだったんですね!

 その割にはやめませんね……?


「……あれ、おねーちゃん? どうしたの、こんな所で」

「目が覚めたようですわね! 行きましょう!(キリッ)」


 いや、幼女さんのふとともでカッコつけられても……。



 私たちはそろって丘の上に戻りました。


「何だったんでしょう、この街……」

「わかりませんわ。でもーー悪いところじゃなかったのかなって」


 そう言ってトゥインクルさんがふところから取り出したのは、パンツでした。

 うさぎさんがプリントされていました。


「パンツじゃないですか?!」

「え? パンツですわよ、何言ってるんですの」

「何やってるんですか、あなたは!」

「盗んだわけじゃないですわよ! ちゃんと履いているヤツをもらったんですわ」

「もっとダメじゃないですか!」


 にわかに霧が出てきました。

 私たちの帰路の先に、一人のジャージ少女が立っていました。


「もう行っちゃうの?」

「六花……ちゃん?」

「解せないなぁ……」


 少女が笑いました。

 無邪気な……とはとても形容できない、せせら笑うような笑み。

 直感が告げていました。

 違う、と。

 わたしの目の前にいるのは六花ちゃんではない、と。


 トゥインクルさんが私に耳打ちをしてきました。


「あれ、アンドロイドですわ」


 少女の姿が溶けて消えて、白髪の青年に変わりました。

 整いすぎた顔は、どこか人間味がなく不気味でした。

 トゥインクルさんと同じような白い体。

 ジーンズにTシャツ……ずいぶんとラフな姿でした。


「僕の名前はヴィクター・R・シュタイン。アンドロイドだよ、よろしく」


 早口で畳み掛けるようにアンドロイドが言いました。

 トゥインクルさんが私の一歩前に出ます。


「あなたがこの街の仕掛け人ですの?」

「いんや? この街は彼女たちが人間のために造ったものだ。実に興味深いからね、調査していた」


 またしても早口。

 

「彼女達……」

「君たちが幼女と呼ぶ連中のことだよ。それにしてももったいないなぁ。いや、実にもったいない。ここにいれば、地球が滅亡するまでは平穏な暮らしを続けられたんじゃないかい?」


 平穏な暮らし。


「……何なんのですの、この街は? あなた、何か知っていますの?」

「この街の中の方が良かったろうに。この中の人類はこの先も滅びない。外は……どうだろうね? 案外、君が最後の人類だったりするかもしれないよ」

「わ、私を無視するんじゃありませんわ!」


 最後の人類……私が?


「一人ぼっちの地球は寂しいだろうねぇ……話し相手は誰もいない……君の理解者も誰もいない……食べ物はどう集めるのかな? 病気になったら? 直してくれる人はいないしねぇ……」

「やめなさい! やめなさいってば!」


 足元が揺れました。

 肩が勝手に震えました。


 考えないようにしていたのです。

 どうせ夢だから、いつかは覚めるのだと。

 覚めなければ……どうなるの?

 このままずっと、一人ぼっちのまま……。


 この街での暮らしは楽しかった。

 誕生日パーティーも楽しかった。

 誕生日ーー


 ……誕生日?



ーーおねーちゃん、きょーははやくかえってくるでしょう?


 どうして?


 ーーもー! わすれたの? ひっどーい!


 うそうそ、冗談だよ。

 早く帰ってくるからね。


 ーーうん! まってるからねー!



 そうだ。

 思い出した。

 急いで帰らないといけなかったんだ。


 あの日は妹の誕生日で……私は早く帰ろうとして、焦っていたから……走ってきた車に気がつかなかった。

 そこからずっと眠っていたのでしょう。


 きっと妹はずっと待っているんだ。

 あの日からずっと、私の帰りを待っているんだ。


「……ずっとこの街にいるわけにはいきません。会いにいかなきゃいけない人がいるんです」


 青年が無表情で私を見つめました。


「……ふぅん。やっぱり人間って解せないなぁ……」


 青年が踵を返して歩き出しました。

 そのまま霧の中に去っていきます。


「あ、お待ちなさい! まだ聞くことがありますわ!」

「焦ることはないだろうさ、トゥインクル。お前が旅を続けるなら、また会うこともあるだろう、近いうちに」


 彼の姿は濃霧に消えて、声だけがどこかから反響してきます。


「それから人間、生き残っている人類は多分『終の里』にいる。ここからずっと南へ向かうといい。君の尋ね人がいるかどうかは知らないけどね……」



ーーーーー



「まったく、いけすかないアンドロイドですわ!」


 さきほどから霧の中を進んでいますが、トゥインクルさんは怒りっぱなしでした。

 あのアンドロイドの青年ーーヴィクター・R・シュタインという名の青年ーーが去ってからずっとです。


「きっとロクでもないヤツに製造されたに違いありませんわ」


 人間で言うところの「親の顔が見てみたい」にあたる概念でしょうか。


 霧を抜けると、ドクターの移動城(動く城ともいいます)が待っていました。

 こうして外から城を見るのは初めてです。


「へぇ、こんな形だったんだ……大っきいですね」

「……ありがとうございますわ!」

「私は今、何でお礼をされたの……?」


 ドクターの移動城は、一言で言うと巨大なヤドカリに近いものでした。

 キャタピラをともなった複数本の足が全体を支え、その上に円錐状の城が鎮座ましましています。

 円錐の一番上が例のガラスドームになっていました。


「あう……」


 急におなかがすいてきました。

 頭もクラクラします。

 まともに立っていられません。


「どーしたのおねーちゃん! だいじょうぶ?」


 幼女さんは何ともないようでした。

 トゥインクルさんはというと、その場に固まっていました。


「パワーセーブモードに移行します。メモリを保存中です。電源を抜かないで下さい」

 

 電源?

 ……どこ?


 目眩が激しくなってきました。

 これはまずい……。


「だいじょうぶ?! おねーちゃん! おねー………………」


ーーーーー


ーーーーー



 目を覚ますと天蓋付きのベッドに横になっていました。

 左腕には点滴が刺さっていました。


「1週間も飲まず食わずだったようでね。貧血だろうということだ」


 枕元でドクターが言いました。

 傍らにはナース幼女をはべらせていました。


「1週間? そんなにあの街にいたんですか、私?」


 いや、仮に1週間いたのだとしても……。


「でも私、ちゃんと食べてましたよ」

「考えてもみて下さい。あの街ではずうっと同じ1日が繰り返されていました。外部からのエネルギー供給もなしにです。普通に考えて……食料を自給自足できるわけがないんです」


 トゥインクルさんも起きているようでした。

 未だに私には、うまく状況がつかめませんが……。


「『凍れる時間の霧』……あの街を覆っているオーバーテクノロジーの名前さ。どうやらあの街は、80年前から時間を止められているらしい。同じ1日を繰り返し続けてきたんだ」


 その後をトゥインクルさんが続けます。


「あの中は一種の概念空間と化しているようです。内部にいる限り、外の時間の流れからは切り離されます。でも街の外に出てしまったら……失われたの時間のツケを支払うことになるのです。このように……」


 トゥインクルさんが、黄ばんだボロ布を私に見せました。


「かつて幼女のパンツだったものです……気がついたら、こんなことに……」


 80年分の時間のツケ。

 それをこのパンツは支払ったというわけですか。


 私は一週間だったから、この程度で済んでいた訳ですけれど……もっと長くあの街にいてしまったら?

 80年前からあの街にいる人が……外に出てしまったら?


「いったい……誰が何のために、こんなことを……?」

「これは憶測に過ぎないのだが……誰かが、幼女に願ったのではないか? 人間が滅びませんように、ずっとずっと変わらない生活が続きますように……そんなことを願ってしまったのさ。悪気はなかったのだろうが……人間にも……幼女にも……」

「それは……悪いことなのですか?」


 窓の外には霧が広がっていました。

 あの霧の先に街があるのです。

 もう誰も、そこからは出て行けないのです。


「願ったことは、悪いことなのですか……?」



ーーーーー



「ハッピバースデー、トゥーユー♪ ハッピバースデー、ディア、ななみ〜♪」

「わぁ、ありがとう、おねーちゃん!」


 幼女は笑って火を吹き消した。


【次回のロリの惑星】


「小幼女ですわ! インファント島に住むという、伝説の幼女ですわ!」

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