03「ようじょの国」その3
球体関節の女性は、目を丸くして私を見つめてきました。
「まさか、あなた……人間ですの?!」
「え、ええと……」
私はこくりと頷きました。
「wow……初めて見ましたわ」
女はじろじろと無遠慮に私を観察しました。
それにしても、この女性は……?
どことなく、人形そのもののような雰囲気を纏っていました。
「あなたはいったい誰なんですか?」
私は彼女にたずねました。
「私? 私の名前はーー」
彼女は左手を腰に、右手で横ピースをきめました。
「世界の幼女をあまねく守る! スーパーアンドロイド、トゥインクル=トゥインクル 2ndですわ☆」
うわっ、頭悪そう……。
……じゃなくて!
え?
アンドロイド?!
「しっかし、長持ちはしてみるものですわね。若い人間とか、特別天然記念物ですわ」
言いつつ、トゥインクルさんは幼女さんの頭を撫で始めました。
「なでなでしてぇー! もっとよー!」
「言われるまでもないですわ!」
……何だろう……。
何を考えればいいかわからなくなってきた……。
「あの! 人間が珍しいって、どういうことですか?」
「はい……? どうしていまさらそんなことを……」
私はロボットに事情を話しました。
かくかくしかじか。
ふむふむとロボットは頷きました。
「ーーつまり何ですの? この近くに幼女の病院があると! そう言っているんですの?」
あ、そこに喰いつきますか。
「私、リアルに困ってるんですよ?」
「……冗談ですわ」
彼女が腕を組み、唸ります。
「ふーむ……それでは順を追って説明しますわ」
ーーーー
最初の異変が起こったのは、今から80年前のことでした。
その日、なぜか世界中で生まれた全ての赤子が女の子だったのですわ。
これには世界中がパニックになりました。
科学物質のせいだとか、放射能のせいだとか、最後の審判の前触れだとか言う人もいましたね。
しかし、当時の科学者が検証を尽くしましたが、原因はさっぱりわからなかったのですわ。
その日から、生まれる子供は全て女性になりました。
いいえーー
人間の幼女によく似た「何か」だったのですわ。
彼女たちは、生まれてすぐに5〜6歳の見た目にまで成長しました。
その後は見た目がほとんど変わりませんでした。
その生態も人間の子供とは大きく異なるものだったのですわ。
彼女達は人間が持たない力を持っていました。
念動力、優れた科学・化学・医療の知識……。
彼女たちは、人間には必須のものが不要でした。
食物摂取、生殖活動、各所のムダ毛……。
20年近くかけて10歳ほどの見た目に成長して、それからは不老でした。
人類の生存をかけた調査はすぐにも始まりました。
しかし幼女たち自身の科学的調査は、開始直後に暗礁に乗り上げることになったのですわ。
「彼女たちは、既知の生命体のどれとも異なる存在だとしか言いようがない。我々人類の科学では、彼女たちの存在を説明できない」
人類はアプローチを変えました。
幼女の生態が調査不能なのであれば、逆に人間を増やすためのアプローチをしなければならない、と。
生まれる子供が全て幼女になってしまったため、人口は減少の一途をたどっていました。
既存の社会システムは、全て根底から破綻してしまいましたわ。
最初に試されたのは人工授精でした。
人工授精により、かわいい幼女が産まれました。
次に試されたのはクローンでした。
倫理的問題も、人類の危機の前には曲げられて当然だったと言えるでしょう。
クローン技術は全世界で幼女を量産しました。
幼女の登場から20年後。
人類は、いよいよ「幼女」という存在に勝てないことを悟りました。
その時代に、不足する労働力を補うためにロボットの開発が盛んになりーーおそらく人間の技術を後世に残そうとする思いもあってーー人造人間の製造に至ったのです。
ーーーー
「その研究の中で生まれたのが、まさに私なのですわ」
「くすぐったいわ〜」
トゥインクルさんがずっと幼女さんをまさぐっていたせいで、全然集中できなかった……!
「……信じられない、という顔をしてますわね?」
すぐに信じろ、という方が無理だと思いました。
「私と同じですわね」
「……え?」
「私もあなたと同じですわ。気が付いたら、この世界に造られて……。だから、旅をしているのですわ。この世界で、本当は何があったのか。私の愛する『幼女』とは何なのか。私はなぜ今ここにいるのか……納得のいく答えが欲しいのですわ」
「おねぇちゃん、そこはぱんつだよぅ」
……。
トゥインクルさんは……人間的ですね。
「……さて、私は行きますわ。あなたはどうします?」
「私はーー」
トゥインクルさんはようやっと幼女から離れ、やおら私に向き合いました。
「私は……どうしたら」
「ご家族のこと、気にされてるのですわね。ちなみに、あなたとご家族の生年月日を教えていただいてもよろしくて?」
私は頷き、私・妹・父・母の生年月日を言いました。
「……なるほど。計算すると、妹さんが生きていれば86歳ということになりますわね」
生きていれば……。
薄々気がついてはいましたけど、他人から聞くのはショックが大きいです。
そしてその計算だと……両親はもう……。
「妹さんくらいの年齢なら、まだ生きている可能性が高いです。幼女さんの医療技術は優れていますからね」
「ほ……ほんとうに?」
「あくまでも『可能性が高い』なんですけどね? 問題は、どこに行ったかということですけれども……」
生きているかもしれない。
会いに行きたい……何としても……。
と、トゥインクルさんが左手を天に掲げました。
その左手が瞬き一つの間に変形し、肘から先が裏返した傘のような形になりました。
パラボラです。
「ロボットなんですね、本当に」
ひょっとしたら、ただの変質者かもしれないと思っていましたけど。
「あ〜〜、この近くに私の仲間が1体いますわ。このあたりの人間がどこに行ったのか、知っているのではないかしら?」
【次回のロリの惑星】
第1条 ロボットは、幼女を愛でなければならない。
第2条 ロボットは、幼女が与えた命令に服従しなければならない。
第3条 ロボットは、幼女に危害を加えたりしてはならない。また、幼女に危害が及ぶことを看過してはならない。




