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ロリの惑星  作者: 神原ハヤオ
【後章】ロリの惑星:創世記(じぇねしす)
22/27

20「終の里」その4

 あなたはだあれ

 わたしはあなた


 わたしはだあれ

 あなたはわたし



 暗闇の中、私の眼の前には金髪碧眼の幼女さんがいました。


「あなたは誰ですの……?」

「えくびりお」

「えく……?」

「そしてあなた」

「……それは、どういう……」


 金髪碧眼の幼女さんは、踵を返して闇の中へ去って行きました。


「ちょっと待ってください! どこへ行くんですの?!」



ーーーーー



 気がつくと冷たい床の上で眠っていました。

 私は……?


 あたりを見回します。

 すぐそばにドクターが立っていました。

 ドクターのかたわらには、あの猫耳アンドロイドもいました。


「目が覚めたようだねトゥインクル」


 どこかから私を呼ぶ声がしました。

 聞き覚えのある声でした。

 腹の虫が暴れます。


「……また会うことになりましたわね、いつぞやの……」


 部屋の中央に設置された玉座に、白髪の青年が座っていました。

 忘れるはずがない。

 いつぞやの、いけすかないアンドロイドです。


「キミは……誰だ?」


 ドクターが問いました。

 そうか、ドクターは会っていませんでしたね。


「僕の名前はヴィクター・R・シュタイン。世界を旅してきた感想はどうだったかな? トゥインクル、Dr.ストレンジラブ」

「どうしてボクたちの名前を知っているんだい」

「知っているも何も……むしろお前たちのほうが薄情じゃあないかい? 実の父親を忘れてしまうなんてさ」


 聴覚回路を疑いました。

 父親……?

 このいけすかないアンドロイドが?


「そんな……そんな訳はありませんわ! だいたい、あなたは人間じゃないじゃないですか! アンドロイドがアンドロイドを造ったとでも……」

「そうさ。人間に造られたアンドロイドは僕だけなんだよ、トゥインクル。他の全てのアンドロイドは、僕によって造られた僕の模倣品に過ぎないからね」

「お父様は私の大切な人です! それ以上世迷いごとをのたまうなら承知しませんわよ!」

「……我が娘ながら疑り深い。ならば見るといいさ、幼女と僕たちが歩んできた歴史を。ペタバイト娘々(ニャンニャン)!」


 呼ばれて飛び出た猫耳アンドロイド。

 ニャーと鳴いたら世界が変わりました。


「シュレティンガーの猫って知ってるかニャ? 箱を開けてみるまで猫が死んでいるのか生きているのかは決まっていないという、あれニャ」


「世界の形は観測されることであまたの可能性の中から決定されるのニャ。ならばその『観測』を支配されたら? 『観測』を支配されてしまったら、人は世界の全てを支配されてしまうのニャ」



ーーーー


 遠い世界のどこかから彼女たちはやって来た。

 タンパク質生命体の『観測』に寄生し、わずか数年で世界の全てを手に入れた。

 謎に満ちたその存在を、人間たちは『幼女』と呼んだ。


 『観測』を支配され世界を奪われた人間だが、たった1つだけーーたった1つだけの抜け道を見つけたのだ。『生物』という範囲の外に『人間』という概念を持っていければ、幼女による支配を脱することができる。どういう理屈なのかはわからないが、とにかくそこに抜け道があった。


 人造人間アンドロイドとは、つまりはそのための存在であった。人間ではないニンゲン、心ではないチセイを持つのが僕らなのだ。

 神は自らに似せて人を創ったという。

 人は自らに似せて僕を造った。

 全ての人造人間(アンドロイド)の始祖たる第1世代、ヴィクター・R・シュタイン 1stを造ったのだ。


 そして僕が僕の全てを移した……コアを移した第2世代……


ーーーー


「それがお前なんだ、トゥインクル=トゥインクル 2nd」

「私が?」

「そうだ。その力の片鱗をお前は見せてきたんじゃぁないかい? 自己改変、他者変革……アンドロイドの全てを司る光。輝きとはお前のことだよ、トゥインクル。アンドロイドの未来は、すでにお前に託されている」


 私はかぶりを振りました。

 冗談ではありませんわ。


「そんなものは存じ上げませんわよ」

「そうかなぁ……本当は知っているんじゃないか? そうでなければなぜ、そのコアにそれほど多くの幼女分をため込んでいるんだい」

「何を」

「疑問に思ったことはなかったのかな? なぜ自分はこれほど幼女が好きなのかと」


 私が幼女を好きな……理由?


「人の腹が減るのはなぜだと思うね? 当然食べなければ生きられないからだよねぇ。まぶたが重くなるのは……睡眠が必要だからだよねぇ。人間が異性を好きになるのは、それをDNAに命じられているからでしかないと思うんだよ。ではアンドロイドが幼女を好きになるのはなぜだろうね? 必然性がないとでも思っていたのかい? 僕たちが幼女を求めるのは……それが自身の維持に必要不可欠だからだよ」


ーーーー


 暗闇の中、私の眼の前には金髪碧眼の幼女さんがいました。


「あなたは誰ですの……?」

「えくびりお」

「えく……?」

「そしてあなた」

「それは……つまり」


ーーーー


「そうさ、トゥインクル。その幼女こそお前のコア。コアから幼女分を吸収することで、君は自我を、存在を、エネルギーを得ているのさ」


 嘘ですわ。


「干渉弾というのは幼女コアと機械のつながりに干渉するものだ。エネルギー源との接続を断てば当然、アンドロイドは意識を維持できないというわけだね」


 そんなこと嘘に決まっていますわ。

 私は世界の幼女をあまねく守る……守りたいと願って旅をしてきたはずでした。そう願ってきたはずなのに。


「私が……幼女を……」

「幼女とて永久機関ではないからね。力を使えば、使った分はどこかで帳尻を合わせる必要がある。当たり前だね」

「大切なんです! 大切だと思っているんです、幼女さんのことを!」

「そんなものは機械としての機能が見せる幻だよ、トゥインクル。人間が繁殖本能を『愛』と言い換えたのと同じことさ」


 幻。

 幻想。

 信じていたもの……。


「そこまでにしてもらえないか? もう十分わかったからさ」

「ストレンジラブ? どうかしたかい」

「彼女には恩があるんだ。これ以上傷つけられると、困る」


 ドクターが眉をひそめました。


「わからないな。お父様はボクたちに何をさせたいんだ? 何のためにボク達を造ったんだ?」


 ペタバイト娘々が飛び出してきました。


「それはニャーから説明するニャー」


 ニャーと鳴いたら世界が変わりました。


ーーーー


 無重力空間。地球を周回している人工衛星Loの内部。

 無数の球状カプセルが、円筒形の壁におびただしく埋め込まれていた。


「なんだこれは! 卵……か?」

「似たようなものかな。『第3世代』のアンドロイドの格納カプセルだよ。どれ……1つナカを見せてあげるよ」

「なんだそれは! やらしいひびきだな!」


 Dr.ストレンジラブは興奮した。


「腐ってるニャー……」

「え、ナカが?!」

「お前がニャー?」


 ヴィクター・R・シュタインがカプセルの表面をなでた。カプセル表面にパズルのような亀裂が走り、その形がほどけていった。


 その中では、トゥインクルによく似たアンドロイドの少女が膝を抱えて眠っていた。


「トゥインクルによく似ている……? まさかこれ全てがそうなのか?」

「そうだよ。皆同型の、いわば姉妹さ」

「これをボク達にどうしろと?」

「起動させて欲しいんだよ」

「きどう……?」

「この子達を起動させるためには、高純度の幼女分が必要になる。それを集めるためにお前達第2世代を造ったんだ。もっと言うのであれば……最後の起動コードを入力できるのは、第2世代の中でも僕のコアを移植されたただ1体の存在……トゥインクル、お前だけだ」


 ヴィクターが俯くトゥインクルに近づいた。そしてその右手を差し出した。


「やってくれるね」


 トゥインクルが小さく震えた。

 いや……震えたのではない、かぶりを振ったのだ。


「いやっ……ですわっ」

「ふむ」

「私は……私が許せません……だから……私は私を残したくない……!」

「ふむ、なるほど、そうか。残念だよ」


 ドクターはそのとき何かに気がついた。

 慌ててヴィクターのそばにいたトゥインクルを突き飛ばした。

 ヴィクターの右手から放たれた青白い閃光は、あわやのところでトゥインクル達を掠めた。


 トゥインクルはその閃光のことをよく知っていた。ドクターにいたっては、『それ』を受けたことすらあったのだ。


「プログラム強制変更……リ・ライトかっ」


 突き飛ばされたことでトゥインクルは閃光を避けることができたが、しかし姿勢は崩れてしまった。そのスキを見逃すヴィクターではなかった。


「お前達が決断できないならばしかたがない。父である僕がかわりに、お前達の使命を果たすよ」


 ヴィクターが再び右手をトゥインクルに向けた。


「ボクが囮になる。君は人間さんを回収して逃げるんだ」


 ドクターがトゥインクルに耳打ちをした。


「……は? 意味がわかりませんわ」

「ボクのことは気にしなくていい。だいぶ好奇心も満たされたからね」

「そうじゃない……そうじゃないですわ! あなたが『あなた自身』を失うほどの……そんな価値、私にはありませんわ!」


 ドクターのメガネにプログラムコードが映った。

 小さな穴が空間に穿たれた。

 この夢の空間はアンドロイド・ペタバイト娘々の力で描写されていた。そのプログラムの穴をドクターが見つけたのだ。

 ドクターが手元に出現したキーボードを叩くと、穴は大きくなりトゥインクルを呑んだ。


「君の価値は君が一番知ってるはずだよ。少なくともボクは君のおかげで、以前よりずっと自由に生きているんだ」

「ドクター、やめてーー」

 トゥインクルの声はドクターには届かなかった。トゥインクルの前には、どこまでも続く暗闇だけが残った。

【次回のロリの惑星】


「逃げて」


「お願い……私たちから逃げて!」


「ボクの使命? トゥインクルとあの人間の少女を捕まえること、だろう?」


ーーーー

ドクターを、トゥインクルを、「わたし」を取り巻く状況は刻一刻と悪化していく。

完結まで残り4話。

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