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ロリの惑星  作者: 神原ハヤオ
【後章】ロリの惑星:創世記(じぇねしす)
16/27

15「星海の幼女」その2

「あ、そうだ。これから空気も薄くなりますから、酸素ボンベも必要ですわね?」

「ボンベ?」


 どこにあるの?と思っていると、不意にトゥインクルさんが顔を見つめてきました。

 そしてそっと私を抱き寄せてーー


「えっ」



ーーーーー



「もっとつらくなるまで、酸素ボンベはいいですから……」


 だいぶ山を登りました。

 釘をさすようにトゥインクルさんに言います。


「そうですか? でも顔色が悪いですわよ。真っ赤です」

「夕、日、です!」


 だいぶ寒くなってきたので、腕をジャケットのポッケに突っ込みました。

 「寒い」とは言いません。

 言えば、トゥインクルさんが何をしてくるかわかったものではないからです。

 それにしてもーー


 トゥインクルさんの横顔を見ます。


ーーこの島に来てから、トゥインクルさんが変……。



 雲はすでに眼下に広がり、夕日に紅く照らされていました。

 水平線にはオレンジ色からミッドナイトブルーへのグラデーション。


 歩いていく先に見えてきたのは、白いドーム状の建物でした。


「知ってます。あれ、天文台ですよね」

「そうだ」


 ウィリアム博士が空を仰ぎます。


「今日はきっと、よく見えるはずだ」



ーーーーー



「まっていました、おとうさん」


 施設入り口に立っていたのはタクトさんでした。

 黄色のヘルメットに緑のジャケットの作業服姿です。


「準備はどうだ、タクト」

「おっけーです」


 奥に進むと、ディスプレイのたくさん置かれた部屋に通されました。


「ここで望遠鏡からの映像が見られる。タクト、調子はどうだ?」

「ばっちぐーです」


 ウィリアム博士が私たちに向き合いました。


「これから見せるものはーー」


 老人が言い淀みます。


「最初……私は自分がおかしくなってしまったのだと思った。『こんなことはありえない』と……しかし……」


 老人はぶつぶつを何かを呟きました。


「ーーいや、やはり見た方が早いーー」


 ディスプレイに青白い天体が映し出されました。

 青白く輝く星の雲。

 その中に影がありました。


 影がさらに拡大されます。


「星雲は星のゆりかごだ……新しい星を創造する……」


 新しい星?

 ……この影が?


「ありえませんわ……宇宙に漂っているということですの? だとしたらいったいどんなスケールですのよ……」


 足元がふらつき、あわててトゥインクルさんにしがみ付きました。

 私の目に間違いがなければーー



 星雲で育まれていたのは、太陽を超える大きさのーー幼女さんでした。

 青い髪、白い四肢。

 すやすやと眠っているように見えました。


 狂っている

 なにもかもが


 そうか


 これは、ゆめなんだ……



ーーーーー



 今日は妹のあかりの6歳の誕生日なのです。

 学校帰りに、文房具屋でかわいいハートの手帳を買うのです。


「おねーちゃん、きょーははやくかえってくるでしょう?」


 あかりが目を輝かせてたずねてきました。

 思わずいじわるしたくなりました。


「どうして?」


 ぷくぅとふくれ顏。


「もー! わすれたの? ひっどーい!」


 ふくれた頬をプニプニします。


「うそうそ、冗談だよ。早く帰ってくるからね」

「うん! まってるからねー!」


 笑顔で手を振って家を出ます。

 見上げると雲ひとつない青空。


 そこにポツンと黒い影。

 それは核ミサイルでした。


 閃光。


「おねえちゃ……たすけ……」


 振り返ると、妹くらいの大きさの黒い塊が、炎の中に消えて行きました。

 その様子を見ている私の姿は、どこか惚けた様子で、悲しんでいるというふうでもなく、ロボットよりももっと冷たくてーー



ーーーーー



 気がつけば、トゥインクルさんが私を心配そうに見つめていました。

 

 深夜の天文台。

 ソファで夜明けを待っていたのです。

 気がつけば、私はトゥインクルさんの膝の上に頭をのせていました。


「大丈夫ですか? すごい汗ですわ……」


 体を起こします。


「トゥインクルさん、私、夢を見たんです。妹が……わたしの町がなくなってしまう夢……」


 トゥインクルさんが静かに私の肩を抱き寄せました。


「大丈夫ですわ。人間さんの町も、妹さんも、きっと大丈夫……」

「どうしてそんなことが言えるんですか」

「だって、最初に会った時にちゃんと家が残っていたじゃありませんか。どんなに古くなっていたとしても……そこにあったんですもの」


 トゥインクルさんに身を預けます。


「私……こわいんです……本当に今、私って生きているんですか? ずっとずっと……夢の中にいるみたいで……妹のことも……まるで実感が持てなくて……」

「大丈夫ですわ」


 小さく、でも力強くトゥインクルさんが言いました。


「人間さん、人間さんには私が見えますよね」


 頷きます。


「私の体に触れていますね」


 頷きます。


「私の声が、聞こえていますよね」


 頷いて、でも耐えきれなくなりました。


「それだって、私の夢かもしれないじゃないですか!」


「夢だとしても! それでも生きているんです……! 世界を認識できている限りは!」


 私には、トゥインクルさんの言っていることも、なぜそんなに強く言い切れるのかもわかりませんでした。


「なんでそんなに……強く信じられるの……?」

「私も同じでした。自分が生きているのかどうか、ずっとずっとわからなかった。だって私は機械でしかなくて……人間さんの『生きている』という言葉があてはめられなかったから……」


 トゥインクルさんの私を抱く腕に力がこもります。


「冷たい体と冷たい心……結局、人間に作られた道具でしかないんだって……ずっと思ってたんです。ずっと暗闇の中にいるみたいでした……。でもお父様が言ってくれたんです。『生きているという言葉は、所詮は言葉でしかない……生きているかどうかは、自分で決めてもいい』」

「自分で……決めてもいい?」

「そう。だから決めたんです。見ているもの感じているもの、その全てを『見ていること』『感じていること』は『私にとって』嘘じゃない。私が生きていることは、『私にとって』嘘になるはずがない。この体が機械であっても、見ている全てが夢であっても……関係ないんです、そんなことは関係がないんです」


 私はかぶりをふりました。


「トゥインクルさんの言っていること……よくわかりません、私には。でも……」


 よりかかったトゥインクルさんの体が温かい。

 たとえそれが、わたしがずっと触れていたから移ったぬくもりなのだとしても……。

 トゥインクルさんは、とても温かく感じました。


「……もうちょっと、このままでいさせて下さい」


 今はこの温もりだけは、信じたいと思いました。



ーーーーー



 老人と少女が山の上から星空を見ていた。

 天の川がよく見える場所だった。

 と言っても、今の時代星空がよく見えない場所はないのである。


「天の光はすべてロリ……地上の星は、消えてしまった」


 老人が独り言ちてため息をつく。


「そのうち本当に、宇宙の全てが君たちになってしまうんじゃないか、タクト……」

「……にんげんがうちゅうのすべてをかんそくできるようになれば、あるいはそういうこともあるかもしれませんね」

「……私には、君たちの正体がなんとなく見えてきたよ。あの星雲の中に幼女の姿を見たときから……。君たちはつまり、『世界』というものの本質を私たちにつきつけるためにやってきたのだろう」

「……わかりません。きがついたらこうなっていたので」


 老人が肩を震わせた。

 この時間は外にいるには冷たすぎる。


 少女がその父の背中にだきついた。

 冷たい風からその背中を守るために。


「……人間が生きてきた意味など、本当にあったのだろうか。子孫が残せれば、問題を先送りにできたのかもしれない。事実、人間はずっとそうしてきた。だがもう、答えなければいけない……」

「そのもんだいにはこたえられないとおもいますよ。だってもんだいではないんだから」


 そうかもしれないなと、老人は小さく笑った。


「……せめてあの女性が死ぬまでは、私たちの子供でいてくれよ、タクト」

「なにをいっているんですか、おとうさん。ぼくはずっと、おとうさんおかあさんのこどもです」


 タクトという名前の幼女は、その父の背中に愛おしそうに体を預けた。

 


【次回のロリの惑星】


 幼女さんがおちょこを片手に気持ち良さそうにつかっています。


「や◯るとうめー」

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